伊兼源太郎のレビュー一覧
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十四歳の少女が姿を消した。誘拐なのか、家出なのか。警察は防犯カメラの映像から、前科のある男に目をつける。その情報を得た記者は他社を出し抜こうとするものの、それが原因で思いがけない事態が起こってしまう。刑事と記者、それぞれの正義が心にしみるミステリです。
ストーリー的にあまり明かせないところがあるので、そこを語れないのはつらいけれど。とにかくタイトルが秀逸でした。そういう意味だったのか! そして悲しみと救いに満ちた物語なところも素敵。微笑ましいワンシーンなのに「わたしにもあったかもしれない過去」という言葉にはっとさせられたり、ラストで悲痛な真相が判明するけれど、それでもその呪縛が解かれる印象があったり。少女を守ろうとする大人たちの姿勢が温かく頼もしいです。
刑事はもちろんとして、記者もカッコいいです。どちらかというと嫌われがちな記者という存在だけれど、世の中を良くするために、という彼らの矜持も実に見事。情報が溢れかえる昨今だからこそ、オールドメディアも存在意義があるのかもしれません。 -
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面白いと評すのは、少し違う気がする。しかしすぐに引き込まれて夢中で読んだ。東京大空襲があったことは知っていたが、ここまでその時のことを描写された文を読んだことはなかった。そうだ、確かに徴兵された人だけじゃなくて、一般市民だって被害者だったのだ。当たり前のようで、意識していなかった。未だ被害者への補償は実現していないらしいが、そもそもそのようなニュースを恥ずかしながら見た記憶がなく、関心が薄いトピックであることに驚く。
一般市民への補償を国に働きかけるというストーリーも興味深いし、敵と味方がわからない政治の世界の魑魅魍魎さ加減もリアルだった。
ずーっとフィクションとして読んでいたが、最後の補記を読んで、事実に近いことを直感して鳥肌がたった。そのような小説は2冊目で、つまり、衝撃を受けた物語だった。 -
購入済み
単純な勧善懲悪ではなく
シリーズ三作目にして完結編。どのようにしてこのシリーズを締めくくるのかワクワクして読んだ。なるほど単純な勧善懲悪ではなく、このような結末も有るのだなと感銘を受けた。二転三転するストーリーも大変に読み応えがあった。ただ主人公があまりにも完璧すぎるのが、ちょっと気に放った。
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戦後80年の今だからこそ、一人でも多くの方に読まれてほしい素晴らしい作品。
第二次世界大戦末期の戦地·銃後の悲惨さや酷さを容赦なく描き、そして戦後に空襲被害者の国家補償に向けて立ち上がった官僚や戦災者の生き様が鮮明に描かれています。
作中の戦争経験者たちの姿がとてもリアルであり、到底フィクションとは思えず、最初から最後まで物語に没入していました。読後の余韻もすごい…。
著者が相当な取材や下調べをして、並々ならぬ想いでこの物語を綴ったのだろうことが、読み進めるほどにひしひしと伝わってくるようでした。ノンフィクション作品ではないけれど、でも出来事や人物、セリフなど、事実に基づいて書かれた部分が随所にあるのだろうと察せられる切実さや凄みをお話から感じました。
主な登場人物である戦災者たちのほとんどは元来ただの一般市民であり、私たちとそう変わらない普通の人たちなのですが、そんな彼らが「みんな辛かったのは一緒なんだから、国に補償を求めずに黙って耐えるべき」「生まれた時代が悪かった」「運がなかった」という理由で、戦争を知らない世代から責められる描写が作中にある。
国にも、街行く無関心な人からも背を向けられ、話を聞いてもらえない。手を差し伸べてもらえない。
必死に反戦を訴え、国民の救済を国に求める善良な彼ら彼女らの敵対相手は政府であり、なおかつ世論という名の多くの無関心層であったという事実に、驚くと同時に腑に落ちました。
私事ですが自分も2〜3年前までは所謂ノンポリであったし、社会に対して無関心な人は家族や友人、職場にも沢山いる。
作品を通して戦後に思いを馳せながらも、自分が生きる今現在の社会を思う。
問題のある言動や悪事が明るみに出ても罰されることなく居座る権力者、他人や社会に無関心な人の多さ、戦前回帰を彷彿させるような法案や思想を掲げる政治家のことなどが頭に浮かび、「過去と今もそう変わらなくなってくるのかもしれない…」と思えてしまうことにゾッとします。
作品が読み手への手心なく事実や現実を突き付けてくれるのは、過去の過ちを繰り返すなという警告や戒めでもあるでしょう。
500頁の文字から伝わる出来事や感情はとても重い。正直、読んでいて苦しい。戦争の酷さはもちろん、今の社会が風刺されている箇所も多くあり、身につまされたり心苦しくなったりもする。作品の登場人物である尾崎やさくらのような戦災者から、未来を託された側である自分たちは、この先も平和な国を維持できるのだろうか、国に使い捨てにされる未来が来たりしないだろうか……と不安になる。
けれど作品紹介にもある通り、この物語には未来が平和で希望に満ち溢れたものになって欲しいという深い祈りやメッセージが込められている。本作から受け取るのは決して重くて苦しい気持ちばかりではない。血が通った登場人物たちに、心強い言葉も沢山ある。
戦争を知らない世代の自分にとって、この本は戦中や戦後について一段深く想像させてくれる、多くのことを感じ考えさせてくれる一冊であり、出会えて良かったと思える本です。そしてこれからを生きていくための力をくれる、とても大切で大事にしたい物語です。 -
Posted by ブクログ
第二次世界大戦後の国家補償として、元軍人•軍属に対しては恩給が支払われる一方で、大空襲で財産や肉親を失い地獄の苦しみを味わった民間人には何の補償もない。
この理不尽さに立ち上がった主人公が奮闘する姿を大河ドラマのように描き、戦後80年の節目に戦争の記憶の継承に目を向けた小説。
序盤で、阿鼻叫喚の地獄としての南方戦線と東京大空襲の様子が生々しく描かれるが、それはあくまでも導入部。
南方戦線から奇跡的に生還した尾崎洋平と東京大空襲で家族を失った小曽根さくらが出会うところから物語の本筋が始まる。
尾崎は戦場で軍医だったさくらの兄・太郎から薫陶を受け恩義を感じていた。尾崎は厚生省職員となり、民間戦争被害者への国家補償を実現しようと奔走、空襲被害者への補償を求める署名活動に乗り出すさくらを支援する。
しかし、彼らが歩むのは茨の道。官僚組織の抵抗、政治家の思惑に翻弄される。尾崎には身の危険も降りかかる上、理解者だった上司・鏑木局長が謎の死を遂げる。
官僚や政治家とのとてつもなく長い闘いと、鏑木の死の真相を突きとめようと粉骨砕身の努力を惜しまない尾崎の行動が読者の感動を呼ぶ。
さくらの署名活動はささやかながら、社会の風潮を変える第一歩だ。
蝶の羽ばたきは小さな運動だが、大きな変化を引き起こす可能性を秘めているという「バタフライエフェクト」を象徴するものとして描かれている。
闘いに敗れた形で現役を退いた尾崎が捲土重来を期す終盤では敵役だった官僚、味方だったはずの政治家が意外な真相を抱えていたことがわかる。
官僚機構や政治の暗部を鋭くえぐり出す深い描写もあり、単純な展開では終わらない。しかしながら、サクサクと読め、著者の意図するところは十分伝わってくる。
核心である民間人戦争被害者救済に向けた強い理念のみならず、空襲時の不合理な消火活動、闇市での警官による配給品の強奪、七三一部隊による人体実験、陛下の巡幸に民間人の遺体がお目汚しになるという記述など、風化させてはならない戦時の醜悪で憤りを禁じ得ない理不尽な実態や世相、戦争の陰部を胸に刻んだ。 -
Posted by ブクログ
読んだ。明確な反戦、そして戦争を始め、終わらせたふりをし続けているかつての政府と現政府への批判が込められた小説だった。
太平洋戦争末期から現在まで、民間戦争被害者への国家補償の実現を目指す官僚とその周囲の人々の姿を描いたミステリー。ミステリーの要素はありつつも、かつての政府と今の政府、そして個人であることを手放した大衆への批判が通底している。
戦争中の描写、とりわけ空襲の描写が前半にかなり多く登場する。著者が相当調べて書いたのだろうと思ったら、最後の見開き1ページにぎっしりと参考文献が記載されていた。
前半の戦地に赴いた兵士の視点では、人間が人間であることを手放さなければ人を殺すことも、戦争もできないということが示されている。また、戦地ではなく、いわゆる銃後の人々もまた日々命を脅かされ、家族や友を失うことを国が強いてきたのだと描かれている。
緻密な取材(下調べ)に基づく描写が、つらく、恐ろしい。ここを読み進めるのがいちばん気力を使った。
この作品はフィクションであるけれど、こうした光景がめずらしくもなく、当たり前だったのだろうと思うと、怒りや悲しみよりも、途方に暮れてしまう。
約500ページと分厚いが、文章自体は読みやすく、すっきりとしている。
政府の、個人を無視した動きをずっと批判しているし、排外主義が強まりつつある今、反戦的なメッセージや「自分の意志を持つことこそが自分たちの幸福につながる」という内容は、多くの人に読まれてほしいと思った。
戦後80年のタイミングに、刊行されるべくして刊行された小説だと思う。