戦後80年の今だからこそ、一人でも多くの方に読まれてほしい素晴らしい作品。
第二次世界大戦末期の戦地·銃後の悲惨さや酷さを容赦なく描き、そして戦後に空襲被害者の国家補償に向けて立ち上がった官僚や戦災者の生き様が鮮明に描かれています。
作中の戦争経験者たちがとてもリアルであり、到底フィクションとは思えず、最初から最後まで物語に没入していました。読後の余韻もすごい…。
著者が相当な取材や下調べをして、並々ならぬ想いでこの物語を綴ったのだろうことが、読み進めるほどにひしひしと伝わってくるようでした。ノンフィクション作品ではないけれど、でも出来事や人物、セリフなど、事実に基づいて書かれた部分が随所にあるのだろうと察せられる切実さや凄みをお話から感じました。
主な登場人物である戦災者たちのほとんどは元来ただの一般市民であり、私たちとそう変わらない普通の人たちなのですが、そんな彼らが「みんな辛かったのは一緒なんだから、国に補償を求めずに黙って耐えるべき」「生まれた時代が悪かった」「運がなかった」という理由で、戦争を知らない世代から責められる描写が作中にある。
国にも、街行く無関心な人からも背を向けられ、話を聞いてもらえない。手を差し伸べてもらえない。
必死に反戦を訴え、国民の救済を国に求める善良な彼ら彼女らの敵対相手は政府であり、なおかつ世論という名の多くの無関心層であったという事実に、驚くと同時に腑に落ちました。
私事ですが自分も2〜3年前までは所謂ノンポリであったし、社会に対して無関心な人は家族や友人、職場にも沢山いる。
作品を通して戦後に思いを馳せながらも、自分が生きる今現在の社会を思う。
問題のある言動や悪事が明るみに出ても罰されることなく居座る権力者、他人や社会に無関心な人の多さ、戦前回帰を彷彿させるような法案や思想を掲げる政治家のことなどが頭に浮かび、「過去と今もそう変わらなくなってくるのかもしれない…」と思えてしまうことにゾッとします。
作品が読み手への手心なく事実や現実を突き付けてくれるのは、過去の過ちを繰り返すなという警告や戒めでもあるでしょう。
500頁の文字から伝わる出来事や感情はとても重い。正直、読んでいて苦しい。戦争の酷さはもちろん、今の社会が風刺されている箇所も多くあり、身につまされたり心苦しくなったりもする。作品の登場人物である尾崎やさくらのような戦災者から、未来を託された側である自分たちは、この先も平和な国を維持できるのだろうか、国に使い捨てにされる未来が来たりしないだろうか……と不安になる。
けれど作品紹介にもある通り、この物語には未来が平和で希望に満ち溢れたものになって欲しいという深い祈りやメッセージが込められている。本作から受け取るのは決して重くて苦しい気持ちばかりではない。血が通った登場人物たちに、心強い言葉も沢山ある。
戦争を知らない世代の自分にとって、この本は戦中や戦後について一段深く想像させてくれる、多くのことを感じ考えさせてくれる一冊であり、出会えて良かったと思える本です。そしてこれからを生きていくための力をくれる、とても大切で大事にしたい物語です。