山中朝晶のレビュー一覧
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ネタバレカテゴリは”ハードボイルト”と迷わず選べる、カチカチのハードボイルト。
最近は、サイコ的な味付けや派手なアクション場面がウリの作品が多くなってきて、それはそれでいいのだけどこういう硬派な作品が少なくなってきているので嬉しい一作。
10年ぶりに祖父の連絡で軍から帰省してきた主人公の目の前で祖父が襲われる。重体になった祖父を襲った犯人は…。
プロットは一見単純なんだけど、実は良く練ってあってラストまで全く飽きない。しかし、メインプロットと同等、もしくはそれ以上に味わい深いのが主人公と祖父の関係。
現在の物語と交互に描かれるのが、主人公の幼少時代から祖父から逃げるように入隊するまでの日々で、孤独であった二人が反目しながらも関係を築いていく姿はあまりにも切なく厳しく、そして仄かに暖かい。
こういう背景がしっかり描かれているからこそ、どこまでも犯人を追う主人公の姿に共感できるし、ハードボイルトとして成り立っている。
脇の人間の描きこみも過不足なく、安易なシリーズ化は難しかもしれないが、この作者の次作は楽しみ。 -
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なんて壮大なスケールなんだろう!読み終わった今〈ピルグリム〉に心から感謝している。もう少し余韻に浸っていたい。優れた本て、こういうこと。読後の余韻が心を満たし、元気にさせる。息つく間もない展開に、心臓は早鐘のようにドキドキしっぱなしだったけど、読者としての旅は終わった。お疲れ様〈ピルグリム〉。あなたが背負わされたもの、あなたが奪われた〝当たり前の生活〟。あなたが犠牲にしてきたものの数々が、まぎれもなく世界を救っているのだということ。そして現実の世界にいる〈ピルグリム〉達に敬意を表して。私達は見えない所でこういう人に救われていたんだ。ありがとう!ピルグリム。
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グレン・エリック・ハミルトン『眠る狼』ハヤカワ文庫。
タイトルに惹かれて購入。帯に書かれたリー・チャイルドの『初球ホームランだ!』という言葉が、この作品の全てを見事なまでに表現している。デビュー作とは思えない程の巧みなプロット、伏線、予想外の結末と、驚く程の完成度なのである。作品全体の雰囲気としては、リー・チャイルドのジャック・リーチャー・シリーズの第1弾『キリング・フロアー』を彷彿とさせる。
10年前に故郷を離れ、海外で軍務に就いていたバン・ショウの元に祖父のドノから『家に帰ってきてほしい』という弱気な手紙が届く。急ぎ帰郷したバンを待ち受けていたのは銃撃を受け、死の淵をさまよう祖父の姿だった。果たして、事件の真相は… -
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近年のスパイ/冒険小説の衰退に憤りを感じていたファンの渇きを一気に癒やす紛れも無き傑作。三分冊の大長編にも関わらず、中弛みや無駄なエピソードの類は一切無く、凄まじいテンションを保ったまま終盤まで疾走する。散りばめられた枝葉が最終的には全てが関連付けられて永い年輪を重ねた巨木へと収束し、その緻密で鮮やかな構成美によって読み手を魅了する。巻を措く能わず、最終ページに辿り着いてしまうことが惜しいと思うほどの幸福な読書体験は本当に久しぶりだ。
褒め上げれば切りがないのだが、本作が最も優れている点とは、世界を震撼させるテロの恐怖を主題にしながらも、天才的頭脳を持ったスペシャリストによる1対1の闘いに焦点を絞っていることにある。共に「放浪者」を意味する仮の名を持つ二人。アメリカ合衆国の傀儡である王族支配のサウジアラビアで父親を公開処刑され、覇権国家壊滅を単独で目論むテロリスト〈サラセン〉。一方は、過去にアメリカ諜報機関を監視する極秘組織に所属、先鋭的な分析/調査能力で追跡/捜査のエキスパートとなった伝説の男。あとに暗号名〈ピルグリム〉を名乗り、潜伏した〈サラセン〉を炙り出していくことになるのだが、マンハッタンの陰惨な殺人事件から幕を開ける物語は、失われた過去を紐解きつつ過酷な運命に翻弄されながらも、強固な信念のもとにターゲットに向かって前進する二人の道程を辿っていく。
対局にありながらも実は似通った点の多い〈サラセン〉と〈ピルグリム〉の“喪失と再生”が極めて劇的に描かれており、奥の深い謎解きと至極のサスペンスを盛り込んだ秀逸なエンターテイメントであるばかりでなく、人生の機微さえも感じさせてくれる陰影に富んだ作品となっている。しかも、端役ひとりひとりの造形も見事で、二人に関わる個性豊かな人物らとの挿話が、しっかりと結末へと繋がり、感動を高めていることにも瞠目する。
時に哀切に満ちたヒューマニズムが非情なテロリズムに怯える世界に希望の火を灯し、数多の試練に立ち向かう〈ピルグリム〉の眼前を照らす。
長い旅路の果て、〈サラセン〉と〈ピルグリム〉が対峙する怒濤のクライマックス。大海原の船上で、全てを終えた〈ピルグリム〉の万感胸に迫るモノローグ。なんて熱いエピローグだろうか。
「ピルグリム」は三部作となる構想が既に発表されている。第一部となる本作があまりにも完璧な仕上がりで否が応でも次作への期待が高まる。テリー・ヘイズは、現代最高のスパイ/冒険小説の書き手であると断言する。 -
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CIAでもFBIでもない政府機関に所属し若くしてその世界のトップに居た私「ピルグリム」が、一度は引退して普通に暮らそうとたものの、911のテロやその後の世の中の混乱によって、否応なく諜報の世界に戻ることになり、非常に緻密で慎重で手強い相手「サラセン」を追うお話。もともとは映画の脚本家をしていたという著者の初めての小説だそうです。元脚本家というだけあり、複雑な情勢、人間関係、ピルグリムやサラセンを形作った過去の出来事に彼らの心の動きを、短い文章を連ねることによって見事に書き出していて、とても読みやすかったです。現在のことから過去に飛んだり、(全体が回顧録なので)途中で予言めいたことが出て来たりもするのですが、技巧でごちゃごちゃになることもなく3冊もある長編小説なのにサーッと読んでしまいました。大変面白かったです。