山中朝晶のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
元CIA局員による2013年発表のスパイ小説。〝モグラ狩り〟を主軸にアメリカとロシアで展開する現代の諜報戦を描く。旧ソ連圏の東欧や中東諸国などで情報収集とリクルートに関わったという著者の経験が生かされ、冷戦以後の潜入スパイの様子を知ることが出来る。特に海外支局で活動するケース・オフィサー(現地工作担当官)とエージェント(勧誘されたスパイ)との情報受け渡しは、いまだに密会の場をわざわざ設けていることなどの描写に驚くが、現場の世界とは意外に旧態依然としているのかもしれない。
デビュー作ということもあり、あれもこれもと詰め込み過ぎて中弛みしている。二重スパイのあぶり出しにCIA現地工作員の男と新たなエージェントとなる女の恋愛を絡めて娯楽性を高めているが、登場人物はやや類型的。経歴上致し方ないのだが、アメリカを善、ロシアを悪とする対立の構図は古臭く、さらに俗物的なSVRの主要人物の造型にはマシューズの〝積年の恨み〟のようなものが垣間見えて、逆に微笑ましい。各章の終わりに登場する料理のレシピを載せているのだが、テンポを鈍らせるだけで邪魔である。
スパイ小説は、もっとクールに。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ殺し屋を主人公にしたハードボイルト、もしくはピカレスク系かと思えば、なんとディストピア系の小説だった。
確かに「俺は弾丸」と豪語する殺し屋が主人公なんだけど、そもそもその割にはあっさりターゲットの女の子と逃避行を始める。サイバーパンク風の近未来設定もなんかあちこちの映画でみたような設定の寄せ集め。
そこで、魅力のないキャラがバラバラと宗教的な薀蓄を披露しながら戦う。
まず、主人公をはじめとしてどのキャラにも魅力が感じられないのが致命的だし、これは原文なのか日本語訳なのかわからないけどヒネリすぎて読みにくい文章にも魅力が無い。
ただ、この世界観も映画化したらそれなりにいけそう。
キャラの魅力なんて俳優でカバーすればいいし。
主演はデンゼルが候補らしいけど、「ザ・ウォーカー」みたいな感じか?で、女の子はクロエ・グレース・モリッツで…。ん?それじゃ「イレイザー」になってしまうか! -
Posted by ブクログ
核爆弾だけが核兵器ではない。放射性物質を入れた容器の横で通常爆弾を爆発させれば、一帯は放射性物質で汚染され、人が住めないエリアと、住みたくないエリアが作られる。破壊力だけが核の威力ではない。ニューヨークで発生した事実だ。
そう展開すれば、読者の頭には現在ではない近未来の時間が動き出す。
明らかな年代を示すのではなく、漠然とした近未来。おそらくその世界では、コンピューター・サーバーの中に限りなく現実に近い仮想世界があり、人は点滴で栄養補給しながら仮想世界に耽っていることがあっても不思議ではない、と勝手に受け入れる準備が整ってしまう。SF世界への導入として上手い手法だ。
新興宗教の宗主が、娘に性的なものも含め暴力をふるう。娘は逃げ出す。宗主は、殺し屋に娘を始末するように依頼する。娘を探し出した殺し屋は娘が妊娠していることを知り、娘の側に正義を見出し、娘を守ろうとする。そこに暴力的な解決が訪れる。ありふれたストーリーだと思う。新興宗教の宗主は、時には政治家だったり、殺し屋は探偵であったり、レパートリーはいくつか考えられる。
いつか読んだ小説、いつか観た映画が頭に浮かぶ。 -
Posted by ブクログ
最近翻訳ものサスペンスばかり読んでいて頭の中がごちゃごちゃしてきた。何も考えずにとにかく楽しくワクワクハラハラして読める本と思って選んだこのシリーズ。全3巻だけど文字?行間?が大きいので思ったよりボリュームはないと思う。第1巻はほとんど登場人物の紹介。だれそうなものだが、それぞれの人生に重みがあって思った以上に読めた。しかし次がどうなるのかという期待感はないので時間がかかったのも事実。後半になって〈サラセン〉に動きが出たところから大きくストーリーが動き出したので、あと2巻が楽しく。ただ少し説明的すぎるところがあって長く感じる所と、逆にもっとじらせばいいのにすぐに結論にいってしまうところがあって、なんだか少し残念。広げたふろしきをどのように上手にたたんでいくのか、期待と少し不安の残り2冊。
-
Posted by ブクログ
600頁の長編。なかなか作中に入り込めなくて苦労した。事件の背景に巨大なモノが隠れているのは予想できるが、なんせ間口が狭いのだ。でも序盤を乗り越えた後はさくさく進む。
元KGBというキャラをどう活かすかという点に注目して読んでみた。ストーリーに大きく関わってくるというよりも、心理描写のひとつとして関連付けされてるように思う。事件は現在のNYで起こるが、その根っこは過去のロシアにある。旧ソ連からロシアへ、そしてKGBからFSBへと、国家組織が改変していく陰で、利権と権力の総取りを企む悪人はどこにでも存在する。その陰謀の性質がロシアっぽいような。重さと暗さ、陰惨さも含んでかなりヘビーな内容ではあるが、意外と軽く読めてしまう。
ページ数に見合うだけのサスペンスではある。伏線も効いており、よく練られたストーリーだと実感できる。主人公も脇役も個性的で面白い。次回作を期待してしまうのは、相性が悪くないってことかな。IT系アイテムを取り入れると、現代のハードボイルドってこうなるのね。