澤田瞳子のレビュー一覧
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ネタバレ感染症に関する小説を探してたどり着きました。それは、教科書にもでてくるお話。時は天平。奈良のみやこを疫病(天然痘)が襲う。藤原不比等の子供たち、藤原四兄弟までもが次々と亡くなったという、パンデミックが題材です。
天然痘に対し、施薬院の人たちは自分を危険に晒しても治療にあたります。一方で、自分の生い立ちから人を憎み、病気に苦しむ人を怪しげな護符で扇動し、施薬院を襲わせる人もいます。また、過去の冤罪から医師であることを放棄しながらも、やっぱり目の前の人を救ってしまう人もいます。
死に直面する中、人は生きる意味を問われます。さまざまな葛藤を真正面から力強く書きあげた作品です。 -
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目に見えない疫病の恐怖。そして死と破滅が隣り合わせの中、人は何を見出すのか。奈良時代の平城京を舞台にパンデミックを描いた歴史小説です。
庶民相手に多忙を極める施薬院の仕事に嫌気が差していた官人の名代は、同僚と薬の買い付けに向かった市で、高熱で倒れる若い男を見かける。そしてその男を看病した、諸男という男には、前歴があるらしいが……
その後、高熱が続いた後、一端熱が下がる病が、都のあちこちで発生。それはかつて国を恐慌に陥れた天然痘の流行の始まりだった。
ストーリーの運び方がとにかく上手だった。静かに始まった異変が徐々に広がり、都を地獄に変えていく。その過程で容赦なく描かれる人々の運命の末路。発疹に全身を侵される人。幼い子供たちへの感染。死を覚悟した人たちと、それをただ見送る事しかできない名代たち。
病魔の過酷さと、名代たち医療関係者の奮闘が物語の片輪を担います。そしてもう一人、物語の中心人物となるのが猪名辺諸男。元は地位の高い医師だった彼だが、同僚の嫉妬から無実の罪で獄舎へ送られることに。
この部分の描写も壮絶。食事や衛生環境も劣悪で、命も顧みられない場所でなんとか生き抜く諸男。彼の中で膿んでくるのは、自分を陥れた同僚、裏切った恋人、そして世間全てに対する復讐心。恩赦により獄舎から釈放された諸男は、天然痘が流行り始めると、獄舎で知り合った宇須や虫麻呂と一緒に、病気に効くというお札を民衆に売りつけ始めます。
こうした諸男の半生と、そして真っ黒な心理描写は、病の描写以上に読みごたえを感じました。
致死率の高い病が流行し、自分の命も危険な中、施薬院の仕事を辞めようとしていた名代が、施薬院の頼れるベテラン医師、綱手の懸命な行動や言葉によって、徐々に何のために生きるか、どう生きるべきかの道を見出していく。
一方で世間への復讐心に燃える諸男は、徐々に宇須の狂気に引き込まれていく。そして宇須は、天然痘は新羅から持ち込まれた、と民衆を焚き付け、興奮した民衆は暴動を起こし、外国人を襲い、略奪や暴力行為を始め……
物語は天然痘の恐怖だけにとどまらず、人間の復讐心、恐怖心、そして暴走を浮かび上がらせます。復讐の炎が自らの手を離れ、手の付けようがないほど都に燃え広がっていく中、諸男の心中には、復讐心以外の感情が徐々に頭をもたげてくる。
そして最終章。身を燃やすほどの復讐心を抱えた諸男に訪れた運命。そして多くの死に触れる中で、名代がたどり着いた真理。そこに続くまでのストーリー構成に力があり、なおかつ丁寧だったので、壮絶な感情も物語も、最後にはすとんと、自分の中に納まりました。
病が浮かび上がらせる人の業とそして光。タイトルに使われている仏教用語『火定』の意味も、読み終えると生と死の概念を超えて、人の営みが歴史の中で綿々と続いていくことを感じさせる、印象的なものに変わります。 -
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1300年前の奈良時代に後宮があって当たり前、なのに今更ながらの認識で恥ずかしい。政治の頂点が聖武天皇にあり、その生活を円滑に進めるための官僚集団みたいな部署が後宮には12司あった。そこで働くワーキングガール3人の女官の物語だ。女官は地方豪族出身の采女(うねめ)と中央貴族の子女である氏女(うじめ)で構成されていて役職も付いた。主人公となる3人は采女で地方出身者。畿内を中心にして形成された古代国家は各地域を征服していく中で、地方の豪族たちからその子女を差し出させている。女性は采女、男性は兵衛として天皇に仕えた。武芸に巧みな兵衛に対し、采女の推薦条件は13歳以上30歳未満で形容端正の容貌が重視された。若子たち3人の采女には実在のモデルがいると解説にあり、身近に感じられる。
3人の内、若子は帝の食事を司る膳司、笠女は書司、春世は縫司。後宮では、首天皇(聖武天皇)を中心に、長屋王を中心とした皇族派と4兄弟を中心とした藤原氏の権力争いが絶えない。この2派に属するそれぞれ帝の妃のどちらが先に皇太子を産むかで権力構造が変化する。
後宮を舞台にした物語だが、帝の寵を競う貴妃たちの小説ではない。その後宮の中で官吏として生きる采女たちのお話である。華やかな後宮のただ中で、夢も定かに見られぬ身だからこそなお、自分たちは各々の生き方を全うするため、あがき続けずにおられぬ。いつか夢を掴むその時まで。 -
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京内の病人収容、治療を行う施薬院に勤める名代と帝の侍医職を追われた諸男を中心に物語が展開する。
疫病が蔓延、市井の人々が薬を渇望しても、その値が吊り上げられる。そんな人々は「常世常虫」なる神を頼り、怪しげなまじない札を買い求める。
「責められるべきは京の衆ではない。まことは疫病の流行に迅速な手を打てぬ官ではないか」
「病とは恐ろしいものだ、と名代は思う。それは人を病ませ、命を奪うばかりではない、人と人との縁や信頼、理性をすら破壊し、遂には人の世の秩序までも、いとも簡単に打ち砕いてしまう。」
どの時代においても、繰り広げられる事象は同じだ。 -
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天平年間、平城京における裳瘡(天然痘)の流行を扱った医療時代小説である。天然痘はウイルスが原因だ。古代何度もパンデミックが起きている。現代は根絶しているが、我々世代は何れかの肩に昔のワクチンの痕(あと)が必ず微かに残っている。しかし、古代は天然痘で生き残った者には一生痘痕面(あばたずら)がついて回った。
天平9年(737年)、京内の病人の収容・治療を行う公的施設、施薬院では、天然痘の発生から忽ち大パニックに陥る。いわゆる医療崩壊である。何しろまともな医師が1人しかいない。庶民は怪しげなまじない札を高価格で買い、フェクニュースに踊らされて外国人襲撃を始める。現代でも起こりそうな事を上手いこと時代小説に取り入れている。
澤田瞳子の小説は2冊目。2つとも、古代文献や最新考古学資料を読み込み、奈良の都の位置関係を我が庭のように描いているのには好感を持った。
その中で、施薬院での重労働に逃げ出そうとする若い看護人、立身出世の夢を陰謀で断たれた元医師、天然痘で生き残り病人を救うことに自分の存在意義を求める医師、世の中を悪弊を憎みながら、それを拡大させて都をパニックに陥れる元囚人、その他様々な人が入り乱れて、病の収束に向かってゆく。
ただ、最後までのめり込めなかった。上橋菜穂子「鹿の王 水底の橋」の厳密な医療描写を読んだばかりだったからか、同じウィルスパンデミックに晒されている今の私たちには違和感のある描写がある。確かに綱手医師は昔30年前の流行時に抗体免疫ができていると思う。諸男も一回できているだろう。しかし、その他の施薬院の若いスタッフは完全に「濃厚接触」をしている筈なのに、十数人全然感染していない。
未知の病に命を賭して治療に向かう医療スタッフを描くことで、人の生き方を問うストーリーには共感する。が、少し歌舞伎節のように、若いスタッフのはっとそれと気がつく過程がわざとすぎる気がする。これだと、直木賞は私はダメだな(←えらそー^_^;)。
なお、本書とは直接関係ないが、最近観た岡山県の『災害の記録』展で、天然痘ワクチン接種に貢献した緒方洪庵の弟子、難波医師の事を初めて知った。このような全国的には有名ではない医師の、命をかけた献身があって現在の医療体制があるし、今現在コロナ禍の下で同じ献身をしている医療従事者がいる事を想い、展示品説明を以下にそのまま転記する。
難波抱節著『散花新書』三冊
嘉永(1850年)3年
岡山藩の家老、日置氏の侍医で、御津郡金川で開業した難波りゅうげん(立と原+心)(号は抱節)は、緒方洪庵から牛痘苗を譲り受け、金川で3000名に種痘を行いました。しかし安政5年のコレラの大流行で治療にあたる中、みずからも感染して翌年に死去しました。『散花新書』は種痘について記した主著で、展示品は版行された原本からつくられた手写本です。 -
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この世の地獄はどこにある。
天然痘の流行する奈良の都の様子を描いた作品。施薬院に配属された名代、濡れ衣で侍医から一時は罪人にまで身を落した諸男、この2人を軸に話が進んでいく。医師の道とは何なのか。絶望と恐怖の中でどのように生きるのか。それはいつの時代でも不変の問い。
効果のないまじないが流行し、それに大金を払う人が出たり、とにかく自分だけは助かりたいと、閉じこもって食料などは届けてもらったり、病は海外からもたらされたものだと、異国の人を攻撃したり、新型コロナウイルスの感染が拡大する今の様子と通じるところもある。
医師の姿に自分の答えを見つけた名代の独白がいい。全員を救うことはできず、人を救うことと自分の栄光をつい比べてしまう弱さもある。その弱さこそ、医師に必要なものだという。医学の道を志す人には、この物語が、名代の決心が、諸男の心が、どのように響くのだろう。 -
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ネタバレ少女たちのお仕事青春小説かと思っていたが、内容はもうちょっと大人だった。
地方豪族の娘は郷里においては名家のご令嬢でも、中央に出てくれば田舎娘。
畿内豪族の娘との格差もあり、女性が職を持つといってもひとりで生きていくことは難しい。
若子は妹の代わりに急遽出仕が決まり、何の覚悟もろくな準備もないまま出てきたために仕事にも慣れずどこかふわふわしている。
それが現実を知ることにより自分の生きる道を見つける。
能力も高く男性に交じって仕事をしたいと思う笠女も、いざ男性官僚の能力を超えられると知られれば女だからとはじかれる。
恋愛に奔放な春世はそうしなければ生きていけなかった。
誘いを断っても受けても何か言われ、女からはやっかまれる。
子供だけが支えだが、ともに暮らせなくても仕事を続けるのは彼女なりの矜持だ。
最後に本当の愛を見つけられたようだがそれも長く続かず、一番世間に翻弄されたように見えた。
夢も未来も定まらなった少女たちが、己の道を見つけて成長していく物語に、当時の宮廷の様子や権力争いなどの政治的な話も加わってとても面白かった。
解説には主人公たちのモデルらしい人物の話もあり、そちらも読みごたえがあって良かった。