酒井啓子のレビュー一覧
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イラク戦争のときの的確な解説がとても印象的だった著者による「中東」全体に関する概説書。
「中東」といっても、そもそもそれはヨーロッパが作った概念で、具体的にどこからどこまでが「中東」なのかもわからないし、国や地域によってとても多様性がある。著者の専門は、イラクということで、その領域を超えることへのおそれも感じつつも、こういう概説がないことを踏まえて、書いてみたとのこと。
著者の「9.11後の現代史」を最近読んで、今、中東で起きていることの意味がなんか浮かび上がった感覚があったので、より長い期間をカバーしているこちらも読んでみた。
中東というと、イスラム教と他の宗教の対立、イスラム教の中で -
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9.11以降の現代史。
といっても、現代史全般ではなく、中東、そしてアメリカと中東との関係を中心とした現代史。
面白いのは、年代順の記述ではなくて、まずイスラム国の話があって、その原因としてのイラク戦争、その原因としての911とその背景と、現代を理解するために時代を遡るかたちで書かれていること。
また、アラブの春とその後の残念な展開、一見、イスラム内の宗派対立にみえるものの背景にある現実的な政治的な利害対立、そして、その原因にある旧宗主国の密約、ダブルスタンダード、二枚舌。。。。
中東問題のそもそもの根っこだと思われていたパレスチナ問題も、問題の発端ではあっても、いまや問題の後景でしか -
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「9・11」以後の中近東をめぐる国際関係・政治構造の変化を実態に即して明らかにし、なぜこの地域で武力紛争やテロが横行するようになったか明快な回答を示している。「イスラム教の宗派対立」に還元する通俗的な枠組みを排し、あくまでミクロな政治対立の連鎖が多元化・複雑化して、中近東の政治に混乱と混沌をもたらしているとみなす。アメリカの場当たり的な介入・関与、特にイラク戦争の強行が決定的な岐路であったことがわかる。シリア内戦以降、従来中近東の最大の政治課題だったパレスチナ問題が後景に追いやられ、アラブ対イスラエルの対抗軸が事実上崩壊したという指摘は重要で、政治思想・宗教やイデオロギー、あるいは歴史的利害
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近代的国民国家の定義は崩壊している。そもちゃんとした定義ってあったのだろうか。宗教や出自・民族にとらわれない民主的国家が近代的国民国家とされてきた。
西欧からもたらされたこの国家概念が世界を覆ってきたわけだけど、これも19世紀後半に都合がよかっただけのものかもしれない。最初の定義に基づけば、イスラエルは明らかに近代的国家の資格をもたない。でも存在を認めるしかないの現実をどう受け止めていけばいいのか。他者に寛容になれないのが人間の本質だとして、だからこそ理性で不寛容を制御していくしか未来は展望できない。もしくはある一定の不幸に心を閉ざすかだ。 -
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「私は この小説を書くときに、読んでくださる人が小学六年生までの漢字を読む力があれば読んでもらえるものと思ってこの作品を書き始めました」
と「氷点」を書いた三浦綾子さんがいってらっしゃいました。
この本の中で出張授業をされる先生たちは
もちろん、その道のプロフェッショナルの方たちです
そして、聴いている対象者たちは 中学生、高校生たち
その語り口が そのまま 一冊の本にまとめられました
その「語り口」を読んでいて
冒頭の三浦綾子さんの言葉を思い起こしたのです
本当の専門家は
ただ感心させるだけでなく
それなら 僕も(私も) 何かやってみよう
そんな気にさせてくれる方なのです -
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中東と聞いて私が真っ先にイメージするのは、やはり絶えることのない紛争、テロであった。イスラエル、パレスチナの対立の原因となったフサイン・マクマホン協定、バルフォア宣言、サイクス・ピコ協定ぐらいは知っていたが、それ以外はほとんど無知であった。なぜここまで争いが絶えないのか、なぜイスラム教徒たちはテロを繰り返すのか。
本書は、「イスラム教」という切り口ではなく、「中東」という地域性に焦点が絞られている。私は前者に興味があったので、その点に関しては少々物足りなかったが、それでも学ぶべきことは非常に多かった。
特に冷戦時代の米ソとの関係性は、複雑に入り組んでいたように感じた。左傾化する中東諸国をけん -
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20世紀を通じて中東で起きてきたことは、世界の、特に欧米諸国が行ってきたことのツケみたいなものである。そして、21世紀。アメリカの陰り、テロ、難民、宗教対立……2001年の9.11米国同時多発テロ事件を機に、そのツケがさらに巨大なものとして私たちの目の前に現れている。中東から、混乱の世界を読み解き、どう次の時代につなげていくのかを問う、かつていない現代史。
ちょうどアフガニスタンのニュースが入ってきたタイミングで興味深く読みました。中東=宗教宗派の戦いというイメージがどうしてもあったのだけれど、筆者の丁寧な説明で、なぜここまでこじれてしまったのか、決してイギリスの二枚舌だけではなかったと分かっ -
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ちょうどこの本を読み終えた時期に、アメリカのトランプ大統領がイランの司令官を殺害したというニュースが報道されました。タイムリーだなあ、と思いつつも、こういうタイミングは合わなくていいのに、とも思ったり。
本書の内容は主に中東と欧米、特にアメリカとの関係を考察していきます。構成として工夫されていたと感じたのは、イスラム国といった最近の話題から遡って、イラク戦争、9.11と話をつなげていくこと。そこでまずイスラム過激派の潮流を追った後、アラブの春と視野を中東全体に広げ、中東全体の様子とアメリカの中東政策を俯瞰し、最後にパレスチナの話になります。
イスラム国という最近の衝撃的なトピックから入るの