酒井啓子のレビュー一覧
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イラク戦争のときの的確な解説がとても印象的だった著者による「中東」全体に関する概説書。
「中東」といっても、そもそもそれはヨーロッパが作った概念で、具体的にどこからどこまでが「中東」なのかもわからないし、国や地域によってとても多様性がある。著者の専門は、イラクということで、その領域を超えることへのおそれも感じつつも、こういう概説がないことを踏まえて、書いてみたとのこと。
著者の「9.11後の現代史」を最近読んで、今、中東で起きていることの意味がなんか浮かび上がった感覚があったので、より長い期間をカバーしているこちらも読んでみた。
中東というと、イスラム教と他の宗教の対立、イスラム教の中でも宗派間の対立と、なんか宗教の問題が根にありそうな印象があるか、それは原因というより、より深いレベルでの構造が対立としてでてくるときの現れ方、みたいなものと考えた方がいい。
中東の問題って、結局、ヨーロッパの植民地支配やユダヤ人の迫害とか、冷戦期の米ソ対立とかが根っこ。そういう欧米を中心とする世界政治の矛盾がこの地区にしわ寄せがいっている、ということなのかな?
イスラム主義も、テロリズムだけではなくて、いろいろな立場がある。そして、それは決して過去に帰ろうという懐古的なものではなく、現代においてイスラムをどのように実践していくという課題であるとのこと。
それは、アラブ民族主義的な運動が失望に終わったあとのアイデンティティをイスラムに求める運動なんですね。
この本は2010年の出版で、「アラブの春」の解説がないのが残念だが、それは「9.11後の現代史」で取り扱ってあるので、そっちを読むといい。
そして、「アラブの春」以前の段階での中東におけるインターネットやメディアの普及状況、若者の文化などについてもこの本では、しっかり言及してあり、「アラブの春」への展開もごく自然なものとして理解ができた。 -
Posted by ブクログ
9.11以降の現代史。
といっても、現代史全般ではなく、中東、そしてアメリカと中東との関係を中心とした現代史。
面白いのは、年代順の記述ではなくて、まずイスラム国の話があって、その原因としてのイラク戦争、その原因としての911とその背景と、現代を理解するために時代を遡るかたちで書かれていること。
また、アラブの春とその後の残念な展開、一見、イスラム内の宗派対立にみえるものの背景にある現実的な政治的な利害対立、そして、その原因にある旧宗主国の密約、ダブルスタンダード、二枚舌。。。。
中東問題のそもそもの根っこだと思われていたパレスチナ問題も、問題の発端ではあっても、いまや問題の後景でしかないという状況。。。。
あ〜、だから、トランプが「大使館をエルサレムに移す」というとんでもないことを言っても、そこそこ批判されても、そこまで大問題にならないんだ〜、と納得。
著者もホッブスのリバイアサンの世界みたいだと書いているのだが、まさにそんな感じだな〜。
「リアル・ポリティクス」
久しぶりにそんな言葉を思い出した。。。。
他者との相互理解みたいなところから、不寛容で、単純な敵か、味方かの世界になっていくなんともいえない悲しさがある。
「現実の複雑性」がみえても、解決策(レバレッジポイント)がかならずしも見えるわけではない。
この不寛容な世界への流れを変えるに、どんな希望が可能なんだろうか? -
Posted by ブクログ
「9・11」以後の中近東をめぐる国際関係・政治構造の変化を実態に即して明らかにし、なぜこの地域で武力紛争やテロが横行するようになったか明快な回答を示している。「イスラム教の宗派対立」に還元する通俗的な枠組みを排し、あくまでミクロな政治対立の連鎖が多元化・複雑化して、中近東の政治に混乱と混沌をもたらしているとみなす。アメリカの場当たり的な介入・関与、特にイラク戦争の強行が決定的な岐路であったことがわかる。シリア内戦以降、従来中近東の最大の政治課題だったパレスチナ問題が後景に追いやられ、アラブ対イスラエルの対抗軸が事実上崩壊したという指摘は重要で、政治思想・宗教やイデオロギー、あるいは歴史的利害関係よりも、何を当面の「敵」「他者」とみなすかが、国家を含む境界的権力の性格や外交を規定しているという問題は、中近東特有の問題ではなく決して他人事ではないだろう。
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近代的国民国家の定義は崩壊している。そもちゃんとした定義ってあったのだろうか。宗教や出自・民族にとらわれない民主的国家が近代的国民国家とされてきた。
西欧からもたらされたこの国家概念が世界を覆ってきたわけだけど、これも19世紀後半に都合がよかっただけのものかもしれない。最初の定義に基づけば、イスラエルは明らかに近代的国家の資格をもたない。でも存在を認めるしかないの現実をどう受け止めていけばいいのか。他者に寛容になれないのが人間の本質だとして、だからこそ理性で不寛容を制御していくしか未来は展望できない。もしくはある一定の不幸に心を閉ざすかだ。 -
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「私は この小説を書くときに、読んでくださる人が小学六年生までの漢字を読む力があれば読んでもらえるものと思ってこの作品を書き始めました」
と「氷点」を書いた三浦綾子さんがいってらっしゃいました。
この本の中で出張授業をされる先生たちは
もちろん、その道のプロフェッショナルの方たちです
そして、聴いている対象者たちは 中学生、高校生たち
その語り口が そのまま 一冊の本にまとめられました
その「語り口」を読んでいて
冒頭の三浦綾子さんの言葉を思い起こしたのです
本当の専門家は
ただ感心させるだけでなく
それなら 僕も(私も) 何かやってみよう
そんな気にさせてくれる方なのです -
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中東と聞いて私が真っ先にイメージするのは、やはり絶えることのない紛争、テロであった。イスラエル、パレスチナの対立の原因となったフサイン・マクマホン協定、バルフォア宣言、サイクス・ピコ協定ぐらいは知っていたが、それ以外はほとんど無知であった。なぜここまで争いが絶えないのか、なぜイスラム教徒たちはテロを繰り返すのか。
本書は、「イスラム教」という切り口ではなく、「中東」という地域性に焦点が絞られている。私は前者に興味があったので、その点に関しては少々物足りなかったが、それでも学ぶべきことは非常に多かった。
特に冷戦時代の米ソとの関係性は、複雑に入り組んでいたように感じた。左傾化する中東諸国をけん制すべくイラン、イスラエルと手を組んだアメリカ。アフガニスタンに侵攻したソ連。革命が勃発してアメリカを目の敵にしたイラン。終戦から70年弱の間にその関係性はめまぐるしく移り変わり、世界で最も変化の激しい地域と言ってもよいのかもしれない。
冷戦終了後も、かつて米のもとで反共戦士として闘ったものたちの反逆が激化し、米ソ対立が米とイスラムの対立へと変化し、混迷を極めていく。9.11テロ後、アメリカはイスラムというアイデンティティを敵視し、イスラムの国家自体をつぶしにかかる。9.11テロだけを考えれば、イスラムへの制裁も正当なように思えるが、それまでに積み重ねられた歴史を考えると、イラク戦争の正当性にも疑問を持たざるを得ない。過激なイメージの強いハマスも、パレスチナでは慈善活動を積極的に行っているという。
日本で目にするニュースだけしか目にしていないと、このような考え方を持つには至らなかったであろう。そのような点において、本書は有用な視点を提供してくれたと感じている。 -
Posted by ブクログ
20世紀を通じて中東で起きてきたことは、世界の、特に欧米諸国が行ってきたことのツケみたいなものである。そして、21世紀。アメリカの陰り、テロ、難民、宗教対立……2001年の9.11米国同時多発テロ事件を機に、そのツケがさらに巨大なものとして私たちの目の前に現れている。中東から、混乱の世界を読み解き、どう次の時代につなげていくのかを問う、かつていない現代史。
ちょうどアフガニスタンのニュースが入ってきたタイミングで興味深く読みました。中東=宗教宗派の戦いというイメージがどうしてもあったのだけれど、筆者の丁寧な説明で、なぜここまでこじれてしまったのか、決してイギリスの二枚舌だけではなかったと分かって勉強になった。ビンラディンがサウディ出身でソ連と戦っていたなんて全く知らなかった・・・背景を知らないと未来を予測したり危機を回避することも難しいから、今後私たちがどうするべきなのか示唆に富んだ一冊と感じる。 -
Posted by ブクログ
ちょうどこの本を読み終えた時期に、アメリカのトランプ大統領がイランの司令官を殺害したというニュースが報道されました。タイムリーだなあ、と思いつつも、こういうタイミングは合わなくていいのに、とも思ったり。
本書の内容は主に中東と欧米、特にアメリカとの関係を考察していきます。構成として工夫されていたと感じたのは、イスラム国といった最近の話題から遡って、イラク戦争、9.11と話をつなげていくこと。そこでまずイスラム過激派の潮流を追った後、アラブの春と視野を中東全体に広げ、中東全体の様子とアメリカの中東政策を俯瞰し、最後にパレスチナの話になります。
イスラム国という最近の衝撃的なトピックから入るので、話が想像しやすく、そこから自然に各章に入っていけたように思います。文章や内容も平易に書かれているように感じたので、内容としてはだいぶ読みやすかったです。
印象的な話としては、犠牲者が多様化した世界ということと、恣意的に他者が決められる時代ということ。
歴史的に中東の各国や民族は、欧米の列強支配や、領土の分割、そしてイスラエルをめぐる問題と、被害者意識が育まれる余地は多分にありました。それが近年、アメリカの対テロ戦争や、アラブの春で起こった中東各国でのデモや革命で、その犠牲や被害者像というのは、より多様化しています。
アメリカをはじめとした欧米各国への怒り。権力をほしいがままにする権力者への怒り。それは自分たちの現在の境遇への怒りや不満であり、被害者意識でもあります。これまでの欧米列強の政策の限界、そして中東各国の独占的な政治体制の限界、それが一時に吹き出しつつあるのが、現在の中東の混乱なのかもしれません。
そして現代はグローバル化や情報化により、他者はより身近になっています。しかし、その他者に対しての不寛容さが表われていると著者はしています。
近年の移民や難民問題もそうだし、中東のデモや革命、シリア内戦は、体制と反体制派がお互いに歩み寄りを示そうとせず、そして日本でもヘイトスピーチなど他者に対する不寛容の芽は確かに存在しています。
そして、他者が身近になったにも関わらず、自分たちが手に入れる他者の情報は正しいとは言い切れません。トランプ大統領はメキシコの不法移民はレイプ犯だと発言し、ヘイトスピーチでは在日朝鮮人の人たちをゴキブリ呼ばわりする。
こうした状況では、権力者や声の大きい人や組織の恣意的な他者の認識が、いつの間にか世間の共通認識になり得ます。その先にあるのは、ナチスのホロコーストというのも、決して想像が飛躍しすぎということはないでしょう。
結局のところ人間の理性は、グローバル化や情報化に追いつけていないのかも、とも思います。そしてそれは自分自身も例外とは言えません。日本が本格的に移民を受け入れ始めたら自分は、その人たちにどのような感情を抱くのか、正直そのときになるまで予想ができません。
恣意的な他者認識は想像の中でどんどん広がり、それはやがて宗教や人種関係なく、自分とは少しでも考え方の違う人を排除する、というところにまで行き着く可能性すらあります。
そして、それは得てして自分の現在の境遇に対しての不満から来るものでもあります。移民に仕事を取られたと考える人々、在日朝鮮人は特権を与えられていると考える人々。その裏返しは、現在の自分の経済状況や生活環境への不満でもあります。
だからこそ今の自分たちは、理性を働かせる人間らしさをたぶん死ぬまで求め続けなければならないのだろうな、と思います。