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Posted by ブクログ
著者の酒井啓子(1959年~)は、中東政治、イラク政治を専門とする国際政治学者で、2012~14年には日本国際政治学会理事長を務めている。本書では、「中東」という地域の抱えている問題と、その問題の原因・背景となった近現代の国際政治について、網羅的に解説している。
本書で著者は、
◆18世紀以降の大英帝国の植民地政策の影響で、ペルシア湾岸・アラビア半島において、小さな砂漠の部族が、産油国として大きな富と国際経済上の重要な役回りを得ることになったこと
◆東西冷戦時代に米国が中東で行った場当たり的な諸政策が、アルカイダの発生や、イランの激しい反米政策などの、現在の中東の混乱の遠因の一つであり、9.11同時多発テロやイラク戦争をもたらすことになったこと
◆中東諸国では、欧米の概念である「民族主義」が諸問題を解決できなかったために「イスラム主義」が台頭してきたこと
や、中東問題の根源とも言えるパレスチナ問題を取り上げている。
本書の刊行された2010年5月以降にも、中東では、アラブの春、ISの発生、シリア内戦、大量の難民の流出などが続き、昨今の在イスラエル米国大使館のエルサレム移転表明に端を発する暴動など、本書で述べられた問題は解決されることなく、その延長線上にあることを、強く感じざるを得ない。
中東諸国とイスラエルの対立、根付かない「民族主義」、欧米諸国・文化への反発と一部のイスラムの原理主義化、いくつもの絡み合った問題を、中東諸国と世界はいつか解決できるのか。。。
中東問題の基本的な背景や構図を知る上で、有用な一冊である。
(2010年11月了)
Posted by ブクログ
日本から遠い「中東」。
しかし、ニュースで多く見聞きする。
内容は、わかりやすい。
「中東」と一括りにしてしまいがちだけれど、さまざまな考えがあり、それぞれ問題抱えている。
当然といえば、当然だが。
巻末に各章ごとの内容の理解を深めたい人のための本を紹介されていたのもよかった。
個人的に印象に残った部分。
アメリカとイランの蜜月関係があった時期と、そのイラン国内での欧米化の反動で、反米感情が育った経緯。
中東各国での独裁政権崩壊により、インターネットが普及し、グローバル化が進む中で、イスラームに生きる人々が、イスラームのアイデンティティを模索しているということ。
「パレスチナ問題とは何か」
「イランとイスラーム主義」
「メディアとアイデンティティ」
本書が刊行されたのは2010年5月。「アラブの春」が起こる少し前。
この後、中東情勢が大きく変わり、2014年から問題となっている「IS」が勃興する。
「メディアとアイデンティティ」の章を読んでいて、現在のIS情勢との関係を考えざるを得なかった。
現在起こっている「IS問題」につながっていく、ほんの少し前の中東情勢を知る手がかりともなる一冊だと思った。
Posted by ブクログ
中東の国を訪れることを決めたものの、これまで中東諸国あるいはこの地域に関して、特別思い入れを持っていたわけではない。
他の一般的な日本人と同じように、私にとって中東は地理的な意味だけでなく、情報量の少なさ、イメージの偏りの意味でも、「遠い」地域であった。
日本のメディアから得られる情報で私が持っている中東のイメージ、ものすごく偏ったイメージを元にこの地域を旅するのがいやだったので、中東にやってくる前に購入したこの地域に関する本3冊のうち1冊が、この本だった。
プロローグにこんなことが書いてある。
『中東の紛争は、「神様」のせいで起きているかのようにみなされがちだ。だがそうした見方は、簡単に思考停止につながる。紛争が「神様」によって起こされるならば、「神様」の違う私たちには、その原因も解決方法もわからなくて当たり前。だから、中東でも戦争は人間の努力によっては解決できないのだーと、最初から努力を放棄してしまうことにならないだろうか?』
『文化が違うからと言う以前にまず、戦争と占領に振り回された人々の立場に目をつむっては、わかるものもわからない。』
『中東が「わかりにくい」と思われてしまう原因は、中東で生きる人々を主人公にして考えないことにある。』
このプロローグを読み、著者の強い思いを感じて、期待を持って読み進めたが、内容はもちろん、私の期待を裏切らないものだった。
大国からみた中東ではなく、中東から見る政治や紛争の原因は、ものすごくリアリティがある。
何よりも、著者がプロローグに書いているように、この本は、今まで中東にたいして偏ったイメージを持っていた人や、中東に関する知識をあまり持たない人に対して書かれているから、私のようなまさに中東初心者には、非常にピッタリ来る。
平易な文で、わかりやすい表現で、専門用語やマニアックなものは極力避け、面白く読んでもらいたいという著者の配慮が全体から感じられる。
中東のことに興味があるが、良くわからない人はもちろんのこと、
戦争に興味がある人や、イスラム教という宗教に興味がある人にとっても、また違う側面からの知識を与えてくれる本だと思う。
この本を読む際には、ぜひ中東地域の地図を傍らに置いて、それぞれの国と国との位置関係を把握しながら読むことをお勧めします。
Posted by ブクログ
分かったつもりでイマイチ分からん「中東」情勢。ニュースなんかで耳にする「中東」は、やれアメリカがどっかを空爆したとか、イスラム過激派がどっかを爆破したとか、ドバイの繁栄は息切れしつつあるとか、そういったどちらかというとネガティブな話ばかり。
そういったこともあって「理解する」ことさえ放棄しがちな「中東」が、何故こんなにイメージしにくいのか、そして目を背けることでどれだけ「中東」について誤解しているのか、といったことについて、非常に簡潔かつクリアに解説してくれている本。比較的新しい本でもあるので(さすがにエジプトに端を発した「アラブの春」までは網羅されてませんが)、「今と昔」を繋ぐ目的で読んでも面白い本です。
さらっと表面だけ中東について学ぶと、「イギリスとアメリカが余計なちょっかいと利己的な政策を取ったからじゃねぇか」という印象を持つまでで終わってしまい、「中東を荒らした責任はイギリスとアメリカが取れよ」ということになりがちですが、実はそれがすべてという訳でもなく、時の中東の権力者や一部の民族にとっても欧米の権力を借りることで莫大なメリットがあった、ということが分かります。
また、外圧が強ければ強いほどイスラーム勢力が力を誇示するようになる(あるいは選挙で票を得るようになる)という、傍から見てるとなぜそうなるのか分からないロジックについても、ここでの解説を読めばスンナリと納得です。これを凡人並みに理解できれば、きっとブッシュみたいな戦争バカが暴走することもなかったんでしょう。
イスラームがうまく機能すれば、欧米とは全く違った形で「民主的な」選挙や政権交代が起こりうるという実例も、ここでは紹介されています。イスラームへのバイアスは、その点ではかなり解消されるのではないかと思います。
それを考えると、結局のところ、「欧米人が信じる、自分たちのシステムのみが正しい民主主義」ではなく、「それぞれに違っていて当たり前の民主主義」を、「民主主義国」であるアメリカやヨーロッパ諸国、さらには他の欧米から民主主義を何も考えずに直輸入した国々が認められるようになることが、一番肝要なのではないかと思います。
さて、そこまでは新書レベルでも明らかにされている今。世界のリーダーたちは、利己主義と保身に走らずにお互いを認め合う世界を作れるのでしょうか?
それができれば、世界のどこかで寒さに震え、砲弾に怯え、民族や信仰による差別に泣く人を、間違いなく今よりは減らすことができるんだと思います。
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