酒井啓子のレビュー一覧
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先日youtubeで中東研究者有志の会が「ガザ戦争の即時停戦」を求めるLIVE配信を行った。そこで栗田禎子、酒井啓子女史を知りこの本を手に取った。本書はシャルリエブド事件の際に組まれた特集号である。シャルリエブド事件は、少し前の話だが、ガザで戦争が行われていることとひとつなぎであり、内容はまったく古くならない。
本書で繰り返し述べられることのひとつに「テロ」とは何か、すなわちテロとカテゴライズすることが多くの問題を覆い隠しているということが挙げられる。
例えば、シャルリエブド事件は、イスラーム教徒が表現の自由に対する侵害を行ったと挿げ替えられた。「表現の自由=文明、神への信仰=未開といっ -
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【「犠牲者として貶められ続けた」という記憶――。その積み重ねが中東各地で,テロであれ紛争であれ,さまざまな暴力事件を起こす要因になる】(文中より引用)
ISの台頭や「アラブの春」,そしてイラク戦争から中東和平問題に至るまで,2000年代に入ってからの中東情勢の動きをテーマ別にまとめた作品。引っ切りなしの変化に見舞われた様子を概観しながら,その諸問題の淵源に迫っていきます。著者は、在イラク日本大使館に出向経験を持つ酒井啓子。
わずか20年弱の間にこうも怒濤のように出来事が相次いだのかと改めて痛感すると同時に,その怒濤の変化をここまでわかりやすくまとめることができるのかと驚かされた一冊でした。 -
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刻々と変化しとらえるのが難しい地域の情勢を分かりやすく詳らかにした一冊。タイトルは「9.11後の」となっているが、その背景である1979年のソ連のアフガニスタン侵攻や、パレスチナ問題ではもちろん100年前のサイクス・ピコ他の英国の3枚舌外交の歴史にも遡る。筆者の主フィールドであるイラクやクルドの問題は勿論、シリア紛争から、昨今のサウディの覇権的動き、イラン、イスラエル、そして対米関係といった国家のこと、ビン・ラディーンやザルカーウィ、ISなどの登場の理由まで広く触れられていながら、絡み合った糸をほどくように見事に様相を明らかにし視点を与えてくれる(ややロシアの影が薄いことだけが気になった)。現
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著者の酒井啓子(1959年~)は、中東政治、イラク政治を専門とする国際政治学者で、2012~14年には日本国際政治学会理事長を務めている。本書では、「中東」という地域の抱えている問題と、その問題の原因・背景となった近現代の国際政治について、網羅的に解説している。
本書で著者は、
◆18世紀以降の大英帝国の植民地政策の影響で、ペルシア湾岸・アラビア半島において、小さな砂漠の部族が、産油国として大きな富と国際経済上の重要な役回りを得ることになったこと
◆東西冷戦時代に米国が中東で行った場当たり的な諸政策が、アルカイダの発生や、イランの激しい反米政策などの、現在の中東の混乱の遠因の一つであり、9.1 -
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日本から遠い「中東」。
しかし、ニュースで多く見聞きする。
内容は、わかりやすい。
「中東」と一括りにしてしまいがちだけれど、さまざまな考えがあり、それぞれ問題抱えている。
当然といえば、当然だが。
巻末に各章ごとの内容の理解を深めたい人のための本を紹介されていたのもよかった。
個人的に印象に残った部分。
アメリカとイランの蜜月関係があった時期と、そのイラン国内での欧米化の反動で、反米感情が育った経緯。
中東各国での独裁政権崩壊により、インターネットが普及し、グローバル化が進む中で、イスラームに生きる人々が、イスラームのアイデンティティを模索しているということ。
「パレスチナ問題とは何 -
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中東の国を訪れることを決めたものの、これまで中東諸国あるいはこの地域に関して、特別思い入れを持っていたわけではない。
他の一般的な日本人と同じように、私にとって中東は地理的な意味だけでなく、情報量の少なさ、イメージの偏りの意味でも、「遠い」地域であった。
日本のメディアから得られる情報で私が持っている中東のイメージ、ものすごく偏ったイメージを元にこの地域を旅するのがいやだったので、中東にやってくる前に購入したこの地域に関する本3冊のうち1冊が、この本だった。
プロローグにこんなことが書いてある。
『中東の紛争は、「神様」のせいで起きているかのようにみなされがちだ。だがそうした見方 -
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ネタバレ「レンティア国家」:産油国政府が、国民から税金を取るのではなく、石油収入を国民にばら撒いて国民の支持を確保する国家。
【イランのインターネット普及率は48%】p215
2000年から2009年の間に、イスラエルを除く中東・北アフリカ諸国のインターネットユーザーは、なんと32倍にも増加しており、世界の平均増加率の8倍、最も伸び率の高い地域となっている。その結果、中東・北アフリカ地域のネットユーザーは全人口の24.4%で、世界平均の26.6%にやや及ばないものの、アジア、アフリカ地域に比べたらはるかに高い。Cf. Internet World Stats
ネットカフェの存在。
ネット普及率が5割 -
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分かったつもりでイマイチ分からん「中東」情勢。ニュースなんかで耳にする「中東」は、やれアメリカがどっかを空爆したとか、イスラム過激派がどっかを爆破したとか、ドバイの繁栄は息切れしつつあるとか、そういったどちらかというとネガティブな話ばかり。
そういったこともあって「理解する」ことさえ放棄しがちな「中東」が、何故こんなにイメージしにくいのか、そして目を背けることでどれだけ「中東」について誤解しているのか、といったことについて、非常に簡潔かつクリアに解説してくれている本。比較的新しい本でもあるので(さすがにエジプトに端を発した「アラブの春」までは網羅されてませんが)、「今と昔」を繋ぐ目的で読んで -
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【目次】
プロローグ
なぜ中東情勢はわかりいにくいのか?
なぜ「中東」とくくるのか?
中東は欧米が導入した言葉
「神様」や文化の違い?
世界のど真ん中で
本書の目的と構成
関連地図
第1章石油の海に浮かぶ国々
オイル・マネーが生んだ摩天楼
最初の中東体験
世界の動乱の鏡
1.大英帝国の遺産「湾岸首長国」
「中東」はいつできたか
大英帝国、部族長と手を結ぶ
砲艦外交
2.サウディアラビアの登場
イスラームの盟主
宗教家と部族の雄のタッグ
半島のヒーローと英外交官たち
アメリカとの蜜月
アラブ民族主義の政権が続々と
イギリスの退場と左派の台頭
石油がサウディアラビアを救った
石油が国を強く -
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「最近中東は何だか大変なことになっているけど、そもそもあの辺はもともと治安悪いし訳分かんないんだよなぁ」という思いを持っている人は日本人には割と多い気がするけど、そういった人は是非読むべき本だと思う。中東という地域について表面的なニュースしか流れていないため、自分がいかにこの地域のことについて無知だったか、またはかなり偏った中東観を持っていたことがよく分かった。ただし、タイトルにある通り、"中東"の考え方が纏めた本なので、この本だけ読むと例えばアメリカはなんてひどい国なんだろうという強い憤りを感じてしまうこと請け合いなので、その点は注意が必要。
中東という地域に分類される