アーナルデュル・インドリダソンのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレシリーズを続けて読んでいるうち、作者はアイスランドという国そのものを書こうとしているのではないかという気になってきた。
もちろん主人公であるエーレンデュルと、娘や今回初めて姿を見せた息子との関係性の変化や、恋愛事情なども書かれているけれども。
今回発見された白骨死体を調べていくうちに、冷戦時代の東ドイツに留学していたアイスランドの学生たちが浮かび上がってくる。
戦後、ワシントンとモスクワの最短直線経路下にあったため、民主主義の最前線としての米軍基地がおかれ、なのに資本主義では搾取される一方だったアイスランドは、沖縄の米軍基地を思い起こさせる。
そんな時、東ドイツから招待され留学生として社会主義や共産主義について学んだ学生たちは、理想と現実に引き裂かれていく。
都合の悪い存在が消されることはわかっていたはずなのに、恋人が拉致されて行方不明となってしまったトーマスは、結局故国に強制送還されてしまうが、愛する人の存在をなかったことにはできない。
哀しみは決して薄れることがない。
北朝鮮に拉致された人たちの姿が重なる。
解説によると
”2006年にはついにアメリカ軍がアイスランドから引き上げるに至っている。その後もアイスランドは独自の軍事力を保持していない。過去に一度も徴兵制を施行したことがなく、近代的軍事力を持った経験はない。国土の防衛は警察と沿岸警備隊が受け持ち、国外に平和維持の目的で派遣されるアイスランド危機対応部隊は外務省に属するという。”
とある。
読めば読むほど、日本と親和性が高いのではないかと思えてくる。
今まで彼の国のことを知らなかったのがもったいない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ日本の三分の一の面積で、人口30万人の国、アイスランドが舞台。
火山と温泉の国というイメージだったのだけど、この作品を読むと、薬物依存、幼児虐待、DV等、荒廃した社会が見え隠れする。
とはいっても殺人事件は年に2~3件しかないのだそうだけど。
新興住宅街で発見された60~70年前の人間の白骨。
夫のDVで、心も体もボロボロにされる家族。
流産がもとで意識不明状態の娘を見舞いながら捜査の指揮をとるエーレンデュル。
3つの話を柱にストーリーは進むが、DVの部分を読むのがもう辛くて辛くて。
人としての尊厳を踏みにじられ、子どものためにだけ生きる母。
そんな母を見てみぬふりをすることでしか身を守ることの出来ない子どもたち。
ようやく幸せになれるかと思えるような出来事のあとの、絶望的な展開。
捜査部分は展開がゆっくりです。
だって60~70年前の人骨が誰のものかって、関係者すら死んでしまっているかもしれない年数。
そして、その当時って第二次大戦中で、公的書類は紛失しているし、田舎から食い詰めた人たちがレイキャビクに殺到し、イギリス軍やアメリカ軍が駐留し…とにかく社会全体が混乱している時代だった。
そんな時代の手がかりを捜すことの困難。
そしてエーレンデュル。
妻と幼い子ども二人を残して家を出た彼は、自分を探し当て合いに来た娘からいつも家族を捨てたことを罵られている。
しかし初めて娘が「助けて…」と電話がくる。
薬物中毒者の娘は流産が原因で意識不明の重体。
娘の枕元でエーレンデュルが語る、彼にまとわりついて離れない過去。
これがまたアイスランドならではっていう…。
それでも最後に娘が目を開ける。
重くて苦しい話だったけれど、次巻は希望が持てる展開になるといいな。
ところで考古学者が出てくるたびに引っかかるんだけど、スカルプヘディンって名前がどうしても育毛剤っぽく感じてしまう。
私だけ? -
Posted by ブクログ
アーナルデュル・インドリタソンは「このミス」で見つけた。「湿地」「緑衣の女」に続いて三冊目になる。流行の北欧ミステリなのだが、同じ地域だと大雑把に捕らえても、その作風はそれぞれまったく違っていて面白い。
アーナルデュル・インドリタソンの作品の舞台からは当然北の風土感が伝わってくるが、読みどころは捜査官のエーレンデュルの心理描写や風景描写は、繊細で品がいい。
エーレンデュルが抱えている個人的な悩みも深い、エピソード風に挿入されている過去に起きた出来事、彼の未だに囚われている苦しみに事件解決よりも惹かれるときがある。
今回の事件は、クリスマス前の浮き立つ世間をよそに、有名ホテルのドアマンが、地下に与えられている小部屋で殺されていたことが発端になる。イベントに着るサンタの上着をはだけ、ナイフで滅多刺しにされ、下着は足元までずらした異様な姿だった。
被害者のグロドイグルは28歳から20年間、ドアマンをしながら雑用も引き受け無事に勤めてきた。
グロドイグルは子供時代は天才的なボーイソプラノ歌手で、地方で認められ始めていた。北欧巡業も決まっていた。が初めての大きな舞台で歌い出そうとしたとき突然変声期を向かえ、その後は消えてしまった。
その後彼にまるで関心のなくなって家族は断絶した。
しかし胸に何度も突き刺されたナイフの跡は何を意味するのか。調べを進めるうち、直前に接触した人物が分かる。
彼はイギリスから、殺されたグロドイグルが子供時代に吹き込んだレコードを買いにきたのだった。
残ったレコードは収集家が莫大な値段をつける超レアものだった。彼は手付金を受け取っているはず、が部屋にはなかった。
麻薬も関係がない、ホテルの陰の娼婦斡旋も利用したことがない。不審な人の出入りもない。
彼の過去は、子供スターとして短期間は世間に知れ、それが原因で学校では苛め抜かれ、常に公演の失敗を笑われ実に惨めに生きてきた。
スターにするという夢のために父との過酷な日常を耐えた日々、ついに父と争って動けなくした。姉は手の平を返すように冷淡になり、家を出た。
世間との接触をたって、ホテルの制服の中に逃げ込んでいた。彼がぬいぐるみを着るクリスマスのサンタは子供ちに人気だった。
エーレンデュルとチームが次第に彼の過去に迫るにつれ、形は違っても、自分が抱えている癒されない過去が思いだされ苦しみながら話が進んでいく。
一人の男の人生がこうして幕を閉じた後も、周りの人々の暮らしは続く。グロドイグルと関わった人たちの思いと、犯人の思いが、暗い地下の隅から、人々の前に姿を現す。
しかしグロドイグルには誰にもいえないひそかな悲しい秘密があった。
アイスランドの首都、レイキャヴィクのクリスマス前の数日が舞台である。
一一一
家。
家とはなんだろう?
人生がどうしようもない事態になり、崩壊と不幸の淵に沈んでしまう前に、家族と過ごした子ども時代に戻りたいと思うものだろうか?友達であり親友でもあった母親と父親、そして姉に囲まれて過ごした生家、そこで子ども時代に戻りたいという気持ちだろうか?生きていくのが苦しくてこれ以上耐えられないとき、失いたくない思い出、慰めとなった思い出を求めて、人の目につかないように生家に忍び込んでいたに違いない。
もしかすると彼が忍び込んだのは、宿命と闘うためだったのかもしれない一一一 -
Posted by ブクログ
ネタバレCWAゴールドダガー賞・ガラスの鍵賞。 「湿地」に続く二作目だけれど、アイスランドという国は特に馴染みがないせいか、名前や土地に着く「ヴ」という音のつながりが、遠い国を実感させた。
「湿地」を読むのに、改めて地図帳で拡大されたページを見てみた。北極圏にあるグリーンランドに近い寒いところらしいと思っていたが、日本の1/3くらいの広さを持つ丸い島国で、随分進んだ文化や歴史のある国だと知った。
あまり深入りして調べだすと、夢に見たり、行ってみたくなるので(行けはしないのに)考えるのも程ほどにして、話を楽しんだ。
この「緑衣の女」は訳者のあとがきによると、激しいDV描写があるので、出版についてはその部分が少し気がかりだったそうだ。そういわれるとなかなかハードな部分がある。家庭内の暴力が繰り返されて、心身ともに傷つけられる母親の姿は、三人の子どもの精神まで損なってしまう。
でも、コアなハードボイルドなどを読み出すと、現実として身近ものとは考えない、やはりどこか絵空事で、ストーリーの一部でしかないと思うようになる。現実には身近にあるかもしれないとは思いつつ。最近のニュースなどを見ると平和な世界がほころびてくるようで恐ろしくなるところもあるが。
作り話だと割り切れない世代には訳者のような気配りもいるかもしれない。
アイスランドでは、第二次世界大戦の後の混乱が終わって、時代とともに生活が変化し、街が郊外に広がりだす。その新興住宅地の工事現場の穴から、肋骨が折れ、宙に腕を伸ばした白骨が見つかる。
60年ほど前のものらしい。戦中から戦後のものかもしれないが、当時このあたりはイギリス軍の後アメリカからの兵士が来てバラックを建てていた。現在は全て取り払われて家が建ち始めている。
少し馴染みになったエーレンデュル捜査官と同僚が調べ始める。
現代の犯罪捜査の様子と、戦後、骨が埋められた時代にさかのぼった話になっている。
バラックから離れた古い一軒屋で、繰り返されていたDVの様子や、その家庭の話が同時に進んでいく。
それまで話されなかったエーレンデュルの悩み、荒れた家庭の様子も、明らかになっていく。
骨は誰なのか、聞き込んでいるうちに浮かんでくる影は見えるが、確定するには時間がたちすぎている。
60年(ほど)という長さが丁度いい。当時を知る人々が年老いてしまってはいるが少しは生き残っている。聴き取った話を繋ぎ合わせて現代に結んでいく。
その捜査過程の、紳士的な警察官も、協力する周りの係官の働きもいい。
昔ひとつの家庭があって、それが惨めで恐ろしい形で崩壊していくさま、母親が犠牲になって耐え抜く様子がリアルで、哀しく腹立たしい。
読みにくい土地や人名に慣れると、話に引き込まれる。「湿地」とこの作品で賞をダブルで受賞しているそうだが、物語としては「緑衣の女」がこなれていて、人物の描写も細やかで面白かった。
その前に「冬のフロスト」を読み始めていたが、比べてみるとやはり国民性というか、キャラの違いが面白い。周りが取り散らかって言葉も汚い、それでいて気持ちの優しいフロストに比べて、エーレンデュルと同僚たちの捜査は繊細で思いやりもあり、それぞれ個性的で次第に馴染んできた。
フロストをおいて読んでも後悔しないくらい、読み応えがあった。
一風変わった犯人探しだけでない味わい深いところがとてもいい。
訳者のあとがきもとても参考になった。 -
Posted by ブクログ
クリスマスは幸せな人たちのもの。
この小説はこの文章に全てが凝縮されていると思った。
色んな出来事が重なって語られる。かつて子供スターになりかけた元ホテルドアマンがサンタクロースの格好でホテルの地下で殺されたのはなぜだったのか。
西欧はクリスマスが特別なお祭り? なのでクリスマスに少しでも家族が幸せになれるというプレッシャーがすごく強いのかなとは思う。この作者の書くアイスランドはとても暗い色の世界に見える。エーレンデュルが10歳の頃から闇を抱えていたことをエヴァ=リンドに告白できて良かった。二人がゆっくり家族になっていくのイライラするけど、次の作品を読むの楽しみ! -
Posted by ブクログ
「緑衣の女」、ミステリというよりは文芸作品といった趣き
トリックを明らかにしていくというよりは、人間の心のひだを探ってく感じでしょうか
ひたひたと人間の深部に分け入っていく
そうした社会や人間の暗さ・よどみを、淡々と語る怖さがあります
衝撃的な出来事も(ミステリの事件としては地味ですが)、表面的な説明に終わらないのが、類書と画するところ
第三者からしたらどうでもないことが、当事者にとっては、いびつに強烈に印象に残ったりする
そんな感性的な描写もあって、惹きつけられました
個人的に残念に感じたのは、モチーフとして「緑衣の女」の印象が薄かった点
「緑衣」にも、何かしらの意味があるとよかったですし
せっかく神秘的なタイトルなので、「緑衣の女」が出たり消えたり、この人かと思ったらあの人だったり、みたいな揺らぎがあるとよかったな、、、北欧、アイスランド、幽玄の国・・・といったイメージで
実際には、作品で揺らいでいたのは、「緑衣の女」ではなく「家族」でしたね
いろんな形の家族、過去を生きていた家族・これからなるかもしれない家族、様々な家族が交錯する中で、もろく壊れてしまったり、悲惨な中にも気高い強さを見せたり
人間のダメさ、弱さ、美しさ、尊さが、揺らいでは陰り、輝き、、、
志の高い作品でした