山中ヒコのレビュー一覧
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ネタバレ 購入済み
力の抜ける幸せの形
タイトル作品はスリリングな展開で、その分結末はあっけなかったなというのが最初の感想。次の「怪物の庭」、「バジリスクの道」と読み進めるとちょっとずつ思うところが出てきました。
幸せというと、わくわくふわふわしたり充実感でいっぱいだったり、何か力が入るようなものがすぐに思い浮かぶけど、この3作品はどれも力が抜けるような幸せを描いていると思いました。
憧れた人に愛されるために自分を傷つけて、その対価として愛を手に入れようとする彼女が最後に手にしていたのは、慈しみ育ててきた愛犬とそれを守って傷を負った自分だった。外見の美しさは愛されるために一番必要なものでなかったと気づきます。
2作目と3作目は直接・間接的に戦争が関係する話です。私がこの作家さんに興味を持った別の作品でもそうでしたが、戦争を題材にした話が結構刺さります。特に3作目は手を止めて考えさせられるシーンがいくつかありました。 -
Posted by ブクログ
☆4.5
久しぶりに小説で泣いたな。死が纏う孤独というか、寂しさを感じた。いつか訪れるそれを想像して悲しくなった。交通事故で亡くなった同級生を思い出して、胸が窄んだ。私はどんな風に死ぬのか。とにかく色々な思いがあって泣いてしまった。もしかしたらそこには、死に対する本能的な恐怖もあったかもしれない。
そんな思いを抱けるほどのリアリティのある描写だった。
主人公の浅井はなんというか、かたはらいたしなキャラクターだけれども。「オイオイそれはねーだろ!」という行動をわざと取らせているようにも思える。最終的にはそこが良いなあ、となるのであった。
追記
「寿司を食いたい。でも我慢。」ってとこでなんか泣いちゃって、そこから涙腺がユルユルだったせいでもある。切なさと、自分の未来であるような気がして。 -
購入済み
「物」として扱われる
10歳の鬼道が、薬も効かない熱の中で、母の手を想い描きながら「自分の手で自分の頭を撫でる」シーン。この数ページに凝縮された孤独の痛み、自分を愛し、慈しむことすら、自分一人で完結させるしかなかった少年の絶望。
薬が一切効かない鬼道にとって、ドナーである吉野の身体だけが唯一の「薬」であるという設定は、あまりに切なく、官能的だ。
鬼道の剥き出しのわがままも、暴力的なほどの執着も、その内側に抱える深い暗闇も。吉野はそのすべてを静かに、深い包容力で受け入れる。
「守るものが何もないというお前を、俺は守りたいんだから」
そう言い切る吉野の覚悟。
対して、鬼道は吉野を傷つけたくないと願い、ドナー契約の解消を望む。しかし、その条件は「俺が死ぬか、あいつが死ぬか」。逃れられない運命の中で、chapter5の表紙に描かれる「白い大きな獣」となった鬼道が吉野を抱え込む姿は、吉野を傷つけるものすべてを拒絶し、睨みを利かせ守っている姿に見えた。
吉野から「行ってらっしゃい」「お帰りなさい」を知り、「好き」を知り、そして「明日」を知った鬼道。自分一人で完結していた孤独な手が、ようやく誰かとの未来を思い描く。
上下巻を読み終えたとき、二人の間に流れる静かな体温が、読んでいるこちらの心まで満たしてくれた。