日高敏隆のレビュー一覧
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読み難く十分に理解することはできなかったが、環世界(Umwelt)という考えはとても面白かった。
すべての生物は、自分の感覚器官と運動器官を通して「独自の世界」を構成している。生物が感覚できる環境である知覚世界(Merkraum)と生物が働きかける環境である作用世界(Wirkraum)の両者が繋がり、その生物にとって完結した環世界(Umwelt)がある。
読む中で感じた、人間中心主義からの脱却というのがとても好ましく感じる。ヒトが生きる世界もまた一つの環世界にすぎず、その周りにはおびただしい数の環世界が多様に広がっている。
また、環世界を観察する際、われわれは目的という幻想を捨て、設計という観 -
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生物や生物学に興味を持つ一歩としておすすめの必読書。
動物行動学という領域を開拓し、ノーベル生理学医学賞を受賞したコンラート・ローレンツ氏による動物行動学入門書。「動物たちへの分懣」という生き物への愚痴から入る。しかし、本書の根底にあるのは生き物たちの営みの美しさと深い愛情(そしてローレンツ氏の良い意味での異常性)。
「永遠の変わらぬ友」で登場するコクマルガラスの生態はとても深淵で「人間っぽさ」があるが、それは擬人化ではなくコクマルガラスの生態こそ生き物らしさであり、「人間っぽさ」は「生き物らしさ」であると感じさせる。
原書のタイトルは「Er redete mit Vögeln, Fische -
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主体を取り巻く客観的な「環境(Umgebung)」とは異なり、主体が真に現実的に生きる場として存在する「環世界(Umwelt)」。生き物が見ている世界をより「生物」学的に研究しようと試みた傑作
マダニやコクマルガラスが生きる環世界から、人間という種の内部─天文学者や物理学者などの違い─に存在する環世界についても論じられており、約100年前に書かれた本ながら根幹となる理論は現代にも問題なく通用するし、この理論を呈示したユクスキュル本人が猛烈な問題意識をもっていたためにこの時点で射程を広く取って問題を呈示しているのも素晴らしい
私としては、実はこの本を読む前に環世界という概念に触れたことはあって -
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ネタバレ・利己的遺伝子説。調べてみたい。
・知らなかったこと:
『人間の場合もお尻は女の性的信号になっているが、直立して互いに向きあって話をするようになると、後ろ向きの性的信号は、思ったほど効果を生まない。これでは困る。前に向けてもきちんと性的信号を発信したい。そこで、なんとかしようとした。
元来、生物はあまり突拍子もないものを使ったりはせず、今あるものをうまく使おうとする。本来お尻が性的信号だったのだから、前を向いたお尻はつくれないか。なにかそれに使えるものはないかというと、おっぱいがあるではないか。「よし、おっぱいをお尻にしてしまえ」ということで、おっぱいをなるべくお尻に近いものに変えてしまっ -
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これは面白い。
生き物は皆、各々の環世界を生きている。
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マダニ
酪酸を嗅覚で受信→飛びつく→温度感覚で温血動物に降り立ったことを知覚する→毛のない場所を触覚で見つける→頭から食い込んで吸血
環世界
知覚と作業の相互作用
概念、システム
動物を主体とみなすか客体(機械)とみなすか
生物学者と生理学者
三半規管→その主体にとっての三次元空間を作る、コンパスの役割
→世界は一つではなく、生物毎に座標系が存在する
昆虫や魚の帰巣本能
時間軸すらも、生き物毎に異なる。
カタツムリは自分自身がノロマだとは思っておらず、そもそも時の流れが早い(フレームレートが荒い)
目的があるとみ -
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とても面白かったです。日本語の翻訳も秀逸で読みやすかったです。本書は、それぞれの生き物が固有の環世界を持っていること、また同じ種(例:人間)の中でも環世界は異なっているのだ、ということを、ダニや犬、昆虫、鳥、魚など様々な生き物を例示しながら説明しています。
本書は哲学書的な意味合いもある一方で、様々な生き物の生態についてイラスト付きで解説していて、NHKの「ダーウィンが来た!」のような面白さもあります(イラストが素晴らしい)。哲学的という意味では、マルクス・ガブリエル氏の新実在論との共通点を感じました。ガブリエル氏は「唯一無二の世界は存在しない」とし、同じ場所にいても各人それぞれにとっての「 -
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読書録「世界を、こんなふうに見てごらん」5
著者 日高敏隆
出版 集英社文庫
p32より引用
“ 日本はドイツ哲学の流れが強いのか、し
ばしば、人間は真実を追求する存在だといわ
れるが、むしろ真実ではないこと、つまりあ
る種のまぼろしを真実だと思い込む存在だと
いうほうがあたっているのではないか。”
目次より抜粋引用
“「なぜ」をあたため続けよう
人間、この変わったいきもの
宙に浮くすすめ
それは遺伝か学習か
コスタリカを旅して”
動物行動学者である著者による、世界と動
物とその中の一種類としての人間を見つめて
描かれるエッセイ集。同社刊行作文庫版。
目の前の事柄に不思議や -
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興味深い本でした。わたしが読んだ本は,1976年発行の単行本。
ずっと前に古本屋から購入して本棚にあったのだけれども,やっと読んでみた。
ローレンツのこの本は,大学で学んだ教育心理学の時に知った著作なので,出会いはずいぶんと古い(40年以上前)。「動物行動学」「比較行動学」という学問を世に知らしめた人といえるかな。有名なひな鳥の刷り込み理論のもとになった実験など,貴重な話を読むことができる。
訳者の日高敏隆氏は,「訳者あとがき」で「ローレンツのこったドイツ語には,かなり頭をかかえたこともある」と書かれているが,翻訳ものにしてはたいへん読みやすくて,ここに取り上げられている動物たちとロー -
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生物(主体)は自分が持つ感覚器で世界を捉え、作用器で世界を変化させる。外界の物体(客体)は生物からの作用によって変化させられ、その結果生物に与える作用を変化させる。この環状構造を環世界と呼び、全ての生物がそれぞれ固有の環世界を持っているという。
感覚器の空間方向の分解能(例えば視力)によって世界の捉え方が変わるのはイメージしやすいが、時間方向の分解能(人間は1/18秒)によって時間の捉え方が変わるというのは面白かった。我々は自分の感覚器で感じられる世界を"実世界"と捉えがちだが、それはあくまで人間の感覚器が受け取れる側面で切り取られた世界である。普段1人の人間として主観的に