西崎憲のレビュー一覧
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フットサルの小説だけど、フットサル以上のものがたくさんあった。
主人公は、大学受験に二度失敗し、浪人をしながらアルバイトを転々として暮らしている松永おん。おんはかつて双子の弟がいたことから、自分は半分だけの存在だという意識を持って生きている。彼の日常に起こるささやかな出来事と心の動きを解像度高く綴っている。
ファンタジーノベル大賞を受賞してデビューされた方だけど、本作は純文学に近いと思う。
何をやっても、どこかどんくさい主人公。自分に自信はない。二浪しているにも関わらず、焦りは少なく、実家から出て弁当屋のアルバイトと仕送りで生計を立てている。
ある日、おんは高校時代の部活・写真部の集ま -
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代表作「キュー植物園」など20篇を収録した短篇集。
以前から唱えている〈ヴァージニア・ウルフ=少女漫画説〉が、この短篇集を読んでより自分のなかで強固なものになった。小動物や植物、世間的には取るに足らないとされる小さなものたちにシンパシーを感じ、そこに個人的な象徴や啓示を見いだしていくモチーフの使い方。ディテールに注ぐ偏執的な凝視。言葉になる前の不定形な感情をとらえようとしてあふれだす、言いさしのような未然の文体。
これらはみな、萩尾望都や大島弓子などの作品にある謎めいたほのめかしや、わかりきれないけど「わかる」と思わされてしまうモノローグの魅力にとても近いのではないか。漫画家が絵と言葉を組 -
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東京創元社のSFアンソロジーの二巻目。二〇一九年十二月刊行。まだコロナ禍やリモートばかりの生活を知る前の作品だけど、「あれ、なんだか今っぽい」と感じられるものもあって、フィクションの奥深さを思った。一巻を読んだときに比べて私のSF受容力も上がったのか、どれもそれぞれ大変楽しめた。
■高島雄哉『配信世界のイデアたち』
昔、かこさとしの『ほしのほん』シリーズを読んで、宇宙には「銀河」というものがたくさんあるということを知ったとき、もしかしたらはるかかなたの銀河のどこかに、私みたいな女の子がいて今同じように宇宙の本を読んでいるかもしれない…という想像をした。そんなことを思い出した。
■石川宗生『モ -
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浪人生の「おん」は、弁当屋でアルバイトしながら、漠然と受験勉強をする毎日。でも4か月前からフットサルのスクールに通いはじめて、目に見えないくらいじわじわと世界が広がりはじめる。
大きなドラマがある小説ではない。でも、多くの人の人生がそうであるように、日々のほんの小さなできごとの積み重ねで、ほんの少しずつ何かが変わっていく。そのようすが静かな筆致で、でもときにぐふっと笑ってしまうようなユーモアを交えながら描かれているのがとても好きだった。
おんは、自分は頭もとりたててよくはなく、「自分にしかできないこと」というような才能もない、と劣等感を抱えている。しかも生まれたときは双子だったのに、片割れ -
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ちくま文庫のための訳し下ろし、編訳。黄金虫ヴァルドマール氏の死の真相赤き死の仮面告げ口心臓メールシュトレームの大渦アッシャー家の崩壊ウィリアム・ウィルソン以上の7篇。附された「エドガー・アラン・ポー小伝」「熱と虚無――エドガー・アラン・ポーとは何か」が、ありがたい。私は特に、『赤き死の仮面』(赤死病の仮面)を読み直したくなって。でも、ここに選ばれた7篇は、やっぱりどれも傑作ですね。手元にある他の翻訳も読み返してみます。それから、こういう短篇は(「大鴉」もだけれど)どうにも原文と対照させたいような気になってしまいます。ペーパーバックの簡易版でいいから探してみようかな。
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海賊の宝に暗号解読がからむ知的エンターテインメントから、象徴に満ちた幻想・怪奇・狂気まで、描かれるものも雰囲気も文体もさまざまである。あまりに違うので、これらをどれも同じように好む読者が果たしているのだろうかという気もするが、ポーの多彩さをあらわすセレクションではある。
もし私がポー・ベストを作るなら、ずっと偏ったものになるだろう。まずここに『黒猫』と『盗まれた手紙』、それに『アモンティリャードの樽』を加えたい。いっぽう、ゴシック趣味あふれる『赤き死の仮面』と『アッシャー家の崩壊』は抜いてしまう。単換字暗号の解読が煩雑な『黄金虫』もなくていい。するとほら、実に好みの感じだ!
…ポー好きの風上に -
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なんか最近、アンソロジーばっか読んでるような…。
2019年12月刊行の日本SFアンソロジー。短編7編とエッセイ2編が載っています。
第1集の『一万年の午後』のレビューで書いたのですが、ちょっと良いレストランで頼む「おまかせコース」がまさにアンソロジーだと思います。
「おまかせ」とは言え、オードブルからデザートまで全てパイ包み焼きだったらイヤだし、全部がココナッツ風味だったらもっとイヤな訳です(笑 たとえ、どれも単品としては超美味しかったとしても!
その意味では編集者(本著エッセイで言うところの「アンソロジスト」)の役割は非常に大きく、しかも料理とは違って、「これはケーキだからデザート」的な -
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エドガー・アラン・ポーの短編集。
なぜかこの人の文には惹きつけられるものがある。
以下ネタバレ。
黄金虫 ★★★
黄金の虫を見つけたことから発展してキャプテンキッドの宝を見つけ出すといったストーリー。冒険心からワクワクさせられる。暗号の解き方や骸骨を利用した宝のありか探しなど描写が面白い。
ヴァルドマール氏の死の真相 ★★★★
人の臨床の際に催眠術をかけたらどうなるかという話。最終的に死んでいる体から催眠術を解くと体が腐っていく。なんというか発想と描写に脱帽。
赤き死の仮面 ★★★
世の中には悪疫「赤き死」が蔓延していた。そこでプロスペロ公は千人を宮廷の中に住まわせ、宮廷には高い城壁な -
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ヴァージニア・ウルフの本は2冊目。
ウルフは「意識の流れ」という文学的手法を使ったことで有名。
調べてみたら、意識の流れとは、人物の思考や感情が、川の流れのように途切れなく変化していく様子を表現する方法。出来事を客観的に書くのではなく、人物の主観的な視点から、思考や感情の動きを直接的に書くことが特徴。
という説明があったけど、個人的には客観的に感じちゃったな。
思考や感情が途切れなく変わっていくところがのめり込めなかったのか、フィルターを通して世界を見ているような、夢の中にいるような、そんな感覚がずっと続く。
話は入ってきにくかったから読み切れるか心配だったけど、読み心地は嫌いじゃない。
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絶版のちくま文庫版と収録作品はほぼ同じ。以前読んだとき同様、やはり「キュー植物園」の完成度がとびぬけてすばらしい。園を行き交う人びとが、ありえたかもしれない過去に思いをよせたり、でもいま手にしているこの現実でよかったんだと思いなおしたりする意識の流れが、花々や蝸牛の描写をおりまぜつつ見事に点描されている。絵で喩えるならジョルジュ・スーラの「グランド・ジャット島の日曜日の午後」のよう。
他には「堅固な対象」「池の魅力」も好み。一方、焦点のない構図で撮影された写真みたいに、とりとめがなくてよくわからない話も。
【ノーツ】
▶20世紀は「メタ」の時代
・訳者解説によると、ブルームズベリー・グ -
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