著者初の怪談集。全話共通して鉄道がテーマとなっています。
ふと思い立って旅に出たり、気の赴くままにどこかへ立ち寄ったり、期待と不安の狭間を行き来する鉄道というのは怪談にぴったりなのかもしれません。
怪談というよりは怪奇小説、幻想小説といった趣で、夜寝る前にふと思い出してしまうような物語でした。
単行本も文庫も装丁が寂しさと不気味さが滲み出ていて綺麗です。
ネタバレ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【夢の国行き列車】何が怖いってこんな風に空しい人生を歩むのが恐ろしい。日本に活気があった時代、その象徴でもあったような万博の楽しく美しい思い出にしがみつき、現実から逃げて夢の国へ行ってしまった中年男の哀しさ。
【密林の奥へ】熱帯の木々がメキメキと育っていく描写は息苦しさを感じます。暑さと生命力に窒息しそうです。そんな中をひた走る列車。どこまでも続く線路。旅と冒険のワクワク感が不安に支配されていく感覚が、覚えがあるだけに怖いです。
【テツの百物語】鉄道オタク達が集まって鉄道に関する怪談百物語をする物語。それぞれの話オチのセリフもオタクらしくて、気味悪い雰囲気の中でクスリとしてしまいました。最後のサンダルの話が、怪談ではないのに怖かったです。
【貴婦人にハンカチを】これはちょっとしたいい話でした。乗り合わせた美人と何とかお近づきになりたいとソワソワしている青年が、最後にここぞとばかりにハンカチをだすのがかわいい。
【黒い車掌】どこかへふらり、という旅は未知への期待に溢れています。何か予期せぬことが起こるかもしれないという冒険心ですが、それが一歩間違うとこんな悲劇にでくわすこともあるでしょう。やっぱり家が一番だな、と言いたくなった話でした。
【海原にて】これはとても抒情的で美しい物語でした。どうやら近未来の世界。船の上で怪談が始まり、どこが鉄道と関係あるのだろうかと思いきや最後に登場しました。暗い海原で光り疾走する新幹線の描写はとても美しい。鉄道というのはなぜか郷愁を誘います。
【シグナルの宵】BARでの不思議で不気味な出来事。顔馴染みだがそこまで親しいわけではない、というBARでの常連客同士だからこそのお話です。
【最果ての鉄道】死後の世界が舞台ですがこれはちょっと楽しいお話でした。死した後のはずなのに、それでも死や未知の出来事を恐れるのが人の心情でしょう。
【赤い月、廃駅の上に】これが一番ホラーでした。そういうえば、列車というものは自分をどこかへ運ぶだけでなく、何かを運んでくるというものでもあるのですね。鉄道忌避というのもおもしろいです。不登校の少年の旅は爽やかな青春だったのにその末路は哀しい。
【途中下車】気の向くままに途中下車したり、車窓から思わぬものを見つけたりというのは楽しいです。しかしこれは話は不思議で寂しいお話でした。
「残りの人生早送りでいいよ」という男の生活が哀しいです。死に近づいてしまう彼を押し止めたのは自暴自棄の原因となった元妻で、彼女は見守っているんだなぁと思いましたが、結局彼女の迎えを心待ちに彼は生きていくことになるのでしょうか。