赤松利市のレビュー一覧

  • 鯖

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    どんなジャンルの本でどんな毛色の物語なのか、全く情報なく読んだことが結果良かった。

    男臭い漁師の世界は私の日常とは掛け離れた新鮮さがあり、一本釣り漁法の描写などが興味深く、「あぁ、へしこ食いたいなぁ。白酒は描写だけで胸焼けするなぁ。」とか思いながら楽しく読んでいた。

    その矢先。

    物語が3分の2くらいに差し掛かった時に急転直下。
    そのまま予想だにしなかった展開に。

    どっとめまぐるしく、自分の感情をどこに持っていけばいいのか分からない。

    作者の特異な経歴も相まって、唯一無二の作風だと感じた。
    「全員悪人」ってアウトレイジのキャッチコピーは秀逸だな、とふと思った。

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    2025年06月10日
  • 救い難き人

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    清濁ぐちゃぐちゃに併せ呑み下す登場人物たちを悪人と断罪するには躊躇してしまう、人間力に溢れたアウトローたちの物語。明るい小説ではないが、軽妙な関西弁や時系列の分かりやすさもあって読みやすい。筆者の経歴から、遠からずこの本に近い現実を見てきたのだろう。石橋を叩くだけの平民である私は敬服するしかない。

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    2024年10月24日
  • 風致の島

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    赤松利市『風致の島』講談社文庫。

    人間の限りない欲望や穢れた心の内をあからさまに描いたピカレスク小説。

    騙し、騙され、家族にも見放され、東南アジアで地獄の果てまで堕ちていく男の惨めさと悲哀。何時、どうなるか解らぬ一瞬先は闇のような、今の世の中をデフォルメしたような小説だった。

    東南アジアでの巨大リゾート開発推進のため日本のスーパーゼネコンから現地役員として乗り込んでいた青木は開発に失敗し、日本に帰国させられ、関連会社に出向する。出向先は福島原発事故の除染作業を担う企業で、青木は下請企業から1億円余りの裏金を手に入れると、あっさり会社を辞める。

    会社を辞めたことで、妻に三下り半を突き付け

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    2024年08月13日
  • 隅田川心中

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    赤松利市『隅田川心中』双葉文庫。

    64歳の独身男性が32歳の女性と金銭を介して、ただならぬ関係となり、それを勘違いした男性は暴走し、やがて破滅へとまっしぐらに進むという悲喜劇転落小説。

    丁寧な語り口で綴られる文章とは裏腹に、老いらくの恋というよりも、性欲のままに暴走してしまう初老の独身男性の悲哀と滑稽さを残酷な視点で描いているようだ。主人公が若い女性と泥沼に嵌まり込んでいく姿を見ると、男とは何と馬鹿な生き物なのだろうと思う。


    浅草の社団法人ゴルフ場協会の事務局長を務め、悠々自適に働く64歳の独身男性、大隅一郎は馴染みの喫茶店店主の小川正夫からアルバイトの32歳になる咲村咲子の相談に乗っ

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    2024年04月15日
  • 藻屑蟹

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    除染作業員、原発避難民、東北の苦悩の一端を知る事ができたと思う。大好きな仙台、まだ訪れたことの無い福島。どちらも必ず行こう。

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    2023年10月16日
  • 救い難き人

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    ザ·赤松利市ワールド!
    最初から最後まで独特な気持ち悪い世界をしつこくしつこく、これでもか!っと描き続けます。
    楽しめる方、そうでない方、一度は手にとってみては?
    読後の爽快感ゼロ、後悔感は...?

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    2023年08月28日
  • 救い難き人

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    パチンコ経営を中心として、ありとあらゆる救い難い人が登場。そして救いようのないことの繰り返し。生まれながらにして救い難い人ではなく、差別が怪物たちを産んだのだと信じたいです。1字1句が突き刺さる小説でした。

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    2023年08月14日
  • 鯖

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    ネタバレ

    誰しも心当たりがある、人間の心の裡に潜む汚さや黒さや醜さを抽出して娯楽性を兼ね備えた文学に昇華させている、という点において、作風は違えど西村賢太氏の著作にも通じるものを感じた。
    なんだかんだありながらも結局は乗り切って収まるんかなもしかしたら…と思いきや、中盤以降の新一の壊れっぷりがこちらの予測を遥かに上回るペースで加速及び驀進し、一気に奈落の底へ落ちて破滅に至るのかやっぱり。
    逆説的ながら、ある意味で大団円とも言える幕切れに違和感はないが、終盤の畳みかけるような展開は急ぎ過ぎの感が否めず、もっと紙幅を費やして丁寧に描いても良かったのでは…等と僭越ながら思ったり。
    これが長編デビュー作とのこと

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    2023年06月08日
  • 藻屑蟹

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    面白すぎて1日で読み終わる。
    地の文で、俺たちは虫けら以下だな。とか書いちゃう。「てにおは」の使い方も独特。そこがなんだか面白く読んでいて飽きない。
    そのせいか、リアリティがありドキュメンタリーを見ているかのよう。と思ったら著者は本当に除染作業員だった。
    痺れた。

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    2023年05月14日
  • アウターライズ

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    赤松利市『アウターライズ』中公文庫。

    東北地方が独立するという設定は、井上ひさしの『吉里吉里人』と似ているが、そこは赤松利市の小説だけに一味も二味も違う。

    赤松利市が描く『東北国』は、国家としての理想の姿だろう。医療費は無料で、ベーシックインカムにより食事が保証され、住まいも無料の『東北国』。非正規雇用を増やし、労働者を低賃金で働かせるブラック企業を野放しにし、増税の連発と物価高騰に何ら手を打てない日本国よりも、国家としての体を成している。

    散々復興だの、絆だの綺麗事を並べておいて、東北の津波瓦礫の受け入れを拒否した東京都民、陸前高田市から奉納しようとした護摩木を放射能汚染の懸念があると

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    2023年03月28日
  • 女童(めのわらわ)

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    赤松利市『女童』光文社文庫。

    『ボダ子』の前日譚。タイトルの『女童』は「めのわらわ」と読む。

    著者の実体験に基づく小説。仕事一辺倒で家庭を省みない親の身勝手さが娘の人生を狂わせ、上手くいっていた家族の生活をも破綻させる。『ボダ子』の前章という感じで、『ボダ子』の世界をさらにリアルに脹らませてくれる。

    54歳の大西浩平は精神を病んだ15歳の恵子のために仕事を諦め、二人切りでの生活を始める。ある日、浩平はクリニックの主治医が秘かに恵子に手を出していることに気付く。

    再び生活を建て直そうともがく浩平を悲劇が襲う……

    身につまされるような物語。今は男もワークライフバランスなどという言葉を持ち

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    2022年08月11日
  • 下級国民A

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    赤松さんの作家デビュー前の壮絶な被災地生活。
    逃げれば良いのに抜け出せない、そんな状況がしかと伝わってきます。凄い本でした。
    私の同級生も派遣会社に就職後、未経験にも拘らず即、現場監督就任。入れ墨の入った方々をビビりながら指揮していたようで、ホント滅茶苦茶な状況だったようです。

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    2022年07月13日
  • エレジー

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    赤松流大人の恋愛小説。
    この独特な気持ち悪い世界観が最高に心地よい!
    今回は特に温かい、人間味溢れる素敵な物語でした!
    バブル戦士とニューハーフの恋愛、
    還暦過ぎの漁師とフィリピンパブの女の結婚、
    13歳の捨て子と中年男性とのプラトニックな同居生活、
    の短編三作。
    怖がらずに赤松作品の門を開いてみては?

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    2022年04月25日
  • ボダ子(新潮文庫)

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    赤松利市『ボダ子』新潮文庫。

    著者の実体験に基づく衝撃の小説。親の身勝手さが娘の人生を狂わし、上手くいっていた家族の生活をも破綻させる。

    何が正しくて、何が悪なのか。人間はあさましいまでに金のあるところに群がり、男性は女性に溺れ、酒に逃げるのだ。そのうちに善と悪を区別する感覚も麻痺し、地獄のような泥沼にハマっていく。

    面白かった。

    35歳で起業し、年収2,000万円を稼いだ大西浩平は全く家族を顧みない仕事一辺倒の生活で離婚と結婚を繰り返す。四度目の妻と暮らす中、三度目の元妻から娘が境界性人格障害で入院したことを告げられる。軌道に乗っていた大西の事業は、自傷行為を繰り返す娘に付き切りの生

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    2022年01月30日
  • らんちう

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    赤松利市『らんちう』双葉文庫。

    これまで味わったことの無いテイストの小説。本編も去ることながら、著者の実体験を綴ったあとがきが面白い。あとがきを読むと本作のどろどろした背景がより鮮明になる。

    リゾート旅館で起きた総支配人の殺人事件を巡り、殺人に加わった6人の従業員と退職した元従業員や関係者の証言で物語が綴られるクライムノベル。総支配人は死ぬに値する人物だったのか、それとも……終盤の元従業員の証言で印象は大きく変わり、新たな事実が見えてくる。誰が一番悪いのか……

    千葉県のリゾート旅館の望海楼で総支配人の夷隅登が従業員6人により絞殺される。夷隅が総支配人になってからの違法な長時間労働やセクハ

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    2021年11月13日
  • 藻屑蟹

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    どこか知らない世界のフィクションだと思いたい。
    でもこれが日本で起きてる現実を描いた物語なのだと思うと辛く目を背けたくなる。

    あの震災、原発事故はここまで人を変え、分断してしてしまっていたことを私は全く知らなかった。偽善的なのかもしれないが、私は近くて遠い安全な場所に身を置くことで、被災者や避難者の方々に心を痛めたり、除染作業員に感謝や敬意を示す気持ちだけを持っていた。想像力の無さと無知から、みんながそうだと思っていた。そう思い込むようにしていたと思う。

    しかし、災害だらけのこの国では、このようなことは至る所で起きているのだろう。

    思い返してみれば私自身も、今回のコロナ禍において補償金を

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    2020年11月17日
  • 藻屑蟹

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    大型犬に散歩させられてるおじいちゃんの様な隅っこで背中をまげる老練なベース弾きが、コントラバスのゴツい弦を揺らして、間接照明が照らす空間を低く鈍く振動させる。
    たまたま入った店が、行きつけになりそうな一冊。

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    2020年11月07日
  • 藻屑蟹

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    心を鷲掴みにされる感覚。内臓を蟹に掴まれたヤマメの気分。フクシマ事故や被災者について描かれているけれど、人間とはなんなのか、ということを深く突きつけられる。あつい魂がこもっている。夢中で読んでラストにはぐっときた。最後まで読んでもう1度、始めから高橋の爺さんとの日々を読むと、たまらない気持ちになる。刺身うまそう。はー、読んでよかった。こんな思いができるなんて。赤松利市さんが書き続ける限り読み続けるぞい。

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    2020年10月12日
  • 鯖

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    赤松利市『鯖』徳間文庫。

    赤松利市の作品は『藻屑蟹』に続き、2作目。何とも恐ろしいノワール小説。やはり、面白い。

    冒頭の得体の知れない薄汚れた漁業団『雑賀衆』の描写に一体どんな展開になるのか興味深く、読み始めた。この物語は成功を描いているのかと、一瞬微かな光が見えたのだが、物語はどんどん有らぬ方向に向かい、最後には世界の全てが焼き尽くされたかのような真っ暗闇のどん底の絶望が待ち構えていた。

    時代の波にあがらい、頑なに一本釣りを続ける『海の雑賀衆』。65歳の船頭・大鋸権座を筆頭に、66歳の加羅門寅吉、56歳の鴉森留蔵、55歳の狗巻南風次と高齢者に加え、35歳の水軒新一の5人が終の棲家に決め

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    2020年07月11日
  • 藻屑蟹

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    メッセージ性が強く、ストーリーとしても申し分ない。文章は荒削りだが、そのことがかえって切実さを感じさせることもあり、小説は技術より内容が大切だと改めて思わされる。最後の一行は、こんな終わり方があるのかとぞくりとなった。
    また、作中後半に以下の文がある。
    「どうして世の中は、こんな風にできているんだろう。金がすべてだとは思いたくはないが、残念なことにすべてなのだ」
    この言葉の重みは、市場に虐待された者にしか分からないだろう。札束の夢、ジュンの変容、金が分断を作り、それを利用する者もいる。自由社会ゆえの恐ろしさがそこかしこに散りばめられている。

    原発の物語として、同時期にボラード病を読んだ。文章

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    2020年07月06日