あらすじ
発表時62歳、住所不定、無職。文学界を席巻する小説家の原点が待望の文庫化!
五臓六腑を抉る、超弩級のハードノワール誕生! 平成最後に突如現れた、荒ぶる才能に瞠目せよ。(宣伝担当)
紀州雑賀崎を発祥の地とする一本釣り漁師船団。かつては「海の雑賀衆」との勇名を轟かせた彼らも、時代の波に呑まれ、終の棲家と定めたのは日本海に浮かぶ孤島だった。日銭を稼ぎ、場末の居酒屋で管を巻く、そんな彼らに舞い込んだ起死回生の儲け話。しかしそれは崩壊への序曲にすぎなかった――。破竹の勢いで文芸界を席巻する赤松利市の長篇デビュー作であり、第32回山本周五郎賞候補作が文庫化。(解説・吉村萬壱)
第一章 覚醒
第二章 始動
第三章 脱皮
第四章 白光
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Posted by ブクログ
どんなジャンルの本でどんな毛色の物語なのか、全く情報なく読んだことが結果良かった。
男臭い漁師の世界は私の日常とは掛け離れた新鮮さがあり、一本釣り漁法の描写などが興味深く、「あぁ、へしこ食いたいなぁ。白酒は描写だけで胸焼けするなぁ。」とか思いながら楽しく読んでいた。
その矢先。
物語が3分の2くらいに差し掛かった時に急転直下。
そのまま予想だにしなかった展開に。
どっとめまぐるしく、自分の感情をどこに持っていけばいいのか分からない。
作者の特異な経歴も相まって、唯一無二の作風だと感じた。
「全員悪人」ってアウトレイジのキャッチコピーは秀逸だな、とふと思った。
Posted by ブクログ
誰しも心当たりがある、人間の心の裡に潜む汚さや黒さや醜さを抽出して娯楽性を兼ね備えた文学に昇華させている、という点において、作風は違えど西村賢太氏の著作にも通じるものを感じた。
なんだかんだありながらも結局は乗り切って収まるんかなもしかしたら…と思いきや、中盤以降の新一の壊れっぷりがこちらの予測を遥かに上回るペースで加速及び驀進し、一気に奈落の底へ落ちて破滅に至るのかやっぱり。
逆説的ながら、ある意味で大団円とも言える幕切れに違和感はないが、終盤の畳みかけるような展開は急ぎ過ぎの感が否めず、もっと紙幅を費やして丁寧に描いても良かったのでは…等と僭越ながら思ったり。
これが長編デビュー作とのことだが、著者のバックボーンあってこその物語か…と得心する、本来小説を味わうのにその情報は不要のはずとは分かりつつ。
筋半ばではあるが、5人の中国娘たちが歌い寅吉が滂沱と涙するシーンは、崇高さと清浄さにおいてピークを極めた1つのクライマックスだ。
Posted by ブクログ
赤松利市『鯖』徳間文庫。
赤松利市の作品は『藻屑蟹』に続き、2作目。何とも恐ろしいノワール小説。やはり、面白い。
冒頭の得体の知れない薄汚れた漁業団『雑賀衆』の描写に一体どんな展開になるのか興味深く、読み始めた。この物語は成功を描いているのかと、一瞬微かな光が見えたのだが、物語はどんどん有らぬ方向に向かい、最後には世界の全てが焼き尽くされたかのような真っ暗闇のどん底の絶望が待ち構えていた。
時代の波にあがらい、頑なに一本釣りを続ける『海の雑賀衆』。65歳の船頭・大鋸権座を筆頭に、66歳の加羅門寅吉、56歳の鴉森留蔵、55歳の狗巻南風次と高齢者に加え、35歳の水軒新一の5人が終の棲家に決めた日本海の孤島を中心に細々と漁を続けていた。ある時、魚の卸先の割烹の女将から美味い儲け話を持ち掛けられる……
一癖二癖もある『海の雑賀衆』の5人のさらに上を行く腹黒い女狐、割烹恵の女将・枝垂恵子に、何やら裏が有りそうなカナダと中国の美人ハーフのアンジェラ・リンと役者に不足は無い。
本体価格770円
★★★★★
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凄い…。
生き様、サクセス、恋模様、狂気、色々がごちゃ混ぜになって詰まっていた。
一人称視点の主人公自身をどんどん嫌いになっていき、ここまで嫌悪感を抱くほどの感じは初めてだったかも知れない。
Posted by ブクログ
面白い。ラストまで夢中で読んだ。
ただ、一線を踏み越えてからの人間の描写については、やりすぎのようにも感じた。ただこれは、私が人間のことをわかっていないだけかもしれない。
主人公の持つ容姿へのコンプレックス由来の卑屈さと、それ故の人間に対する視点の鋭さについては、本物を感じた。
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なぜか突然、この本の旬は1月なのではという気が強くして、読み始めた。『藻屑蟹』を読んでから3年と10ヶ月、ずっと読むタイミングを計っていたこの本、ようやく読めた。
いやぁ、なんか……かなりヤバいものを読んでしまった。この本にはR指定(と今は言わないのかな)が必要では。でも読書の醍醐味である、貴重な擬似体験をさせてもらった。そういう意味では、ものすごくおもしろかった。
始めは、世間への憤りを抱えた主人公にハッとさせられながらも、これはコメディなのかと思うほどコミカルな表現に何度も吹き出していたのだが、読み進めるうちにだんだん笑えなくなってきて、後戻りできなくなっていく状況に恐怖を感じるようになっていった。うっかり立入禁止区域に入り込んでしまったような、焦りと不安で逃げ出したくなる。人間の愚かさを見せつけられて、哀しくなった。この容赦のなさ、さすが赤松さん。
ちなみに、この本の旬は1月、は正解だったと思っております。
最後にひとつ訂正を。『藻屑蟹』の感想にデビュー作だと書きましたが、赤松利市さんのデビュー作は、正確には本作です。『藻屑蟹』で新人賞を受賞し、『鯖』で単行本デビューを果たしたとのこと。まぁいずれにしても驚きのデビュー作ではありますけどね。
Posted by ブクログ
人間の脆さ、残酷さ、欲深さをさらけ出した話。
能力の無いものは淘汰されるという現実をただ読者に突きつけている。
しかしその酷さとは裏腹に文章は読み心地が良く、欲望に飲まれていく描写でさえ、そんな人間に対する情を感じる不思議な作品。
赤松利市作品は初めてだったが、他も読んでみたくなった。
Posted by ブクログ
2020年、33冊目は、約1年振り、『藻屑蟹』以来の赤松利市。
「海の雑賀衆」一本釣りに特化した游漁船団。時代の変化に呑まれ、船頭、大鋸権座が率いるのは、オンボロ漁船一隻、乗組員四名だけである。現在は日本海の孤島を根城に、割烹料理屋に魚を卸すことで、糊口を凌いでいた。そんな彼らに、ビッグビジネスの話しが舞い込む。
フォーマットは『藻屑蟹』と似た「欲」にとらわれた人間の物語なんだが、コチラは狂気的、デカダンス型。よもや、こんな結末になるとは、予想出来なかった。
ストーリーの緩急。そして、中盤以後は一気に加速する展開。ソコに癖の強いキャラが絡んでくる。
『藻屑蟹』より、読者を選ぶし、評価も様々だと思われるが、個人的には、文句なしに、★★★★☆評価に値する一作。
Posted by ブクログ
日銭暮らしの漁師たちに舞い込んだビッグビジネスのチャンス。うまくいくかに思われた販路拡大の計画は金と欲にくらんだ事から狂気へと変わっていき……
Posted by ブクログ
なかなかの胸糞な結末が待っているが、まあ因果応報感も否めないので、納得できる。終始陰鬱な感じだが、引き込まれて読み切った。魚の匂いやアンモニア臭まで感じられる本だった。