赤松利市のレビュー一覧

  • 救い難き人

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    お笑いのネタでいうツカミが、読書人生一のディープさ、実生活に影響するほどの打撃をもらった後は無駄な贅肉が一切ない美しい文章運び。筆者は人の心を分かりすぎているがしかし、人間でありましてや神ではない。飴や鞭を巧みに与えられて、読者はどんどん引き込まれていく。有象無象の世界を文学は芸術に仕立ててしまう、ラストにはそんな品格さえ見せてくれる。

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    2023年12月12日
  • 救い難き人

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     タイトル通りの救い難いクズが自滅していくストーリーは著者の得意分野だ。
     何をもって金しか愛せないクズに堕ちていくかを、ひとりの人生に描き出している。

     在日二世、朴マンスは中学校に入っていじめの対象になった。
     そこを救ったのが、貧困団地の井尻だった。
     マンスは井尻に月10万円を払い、学校での安全が保障された。
     マンスと井尻との関係は一生続くものになる。

     朴マンスは婚外子だ。
     父親は姫路のパチンコ屋の経営者だ。
     幼い頃は父親に猫かわいがりを受けたが、次第に父は母子の家に寄り付かなくなる。
     しかし、マンスが高校生になる頃には、父が忍んで家に来ていることを知っていた。
     そして

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    2023年10月24日
  • 下級国民A

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    人というものはいろんな重み付けで測られるものではあるが、その場のハッタリや腕力だけが物をいう世界があって、本書は間違ってそんなところに中年を過ぎてから入り込んでしまった男の悲喜劇。無論やられっぱなしではなく、筆者なりの打算や世渡りも描かれるが、読者からするとどうにも「取らぬ狸の〜」と感じてしまい、救いのない話の中で貴重なユーモアとして効果を発揮している。

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    2023年08月31日
  • 救い難き人

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    ネタバレ

    全く知らない世界で生きる彼らに感情移入できない。
    が、それが面白い。

    主人公マンスの小学から成りあがるまで描かれている。
    井尻、マンスと同じ中学校の先輩。
    大人になったマンスの周りには井尻の息のかかったメンバーで固められている。
    マンスはこのことに気付いていない。
    孤独なマンス。でもそれに気づいていない。
    井尻さんお金は信頼できる。
    でもほんとに?疑心暗鬼が面白かった。

    父を恨んでいるが、逆境に負けないでと思うのは、幼いころの父との楽しい思い出があるせいだろう。混乱したマンスの歪み様が悲しい。
    母への疑問、寂しさ。
    違和感を覚えるマンス。母が死んだのは自分のせい?最後の方では母の死を自分な

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    2023年08月29日
  • 白蟻女

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    赤松利市『白蟻女』光文社文庫。

    短編『遺言』と中編『白蟻女』の2編を収録。最初に収録されている短編『遺言』は無かった方が良かった。『白蟻女』が面白い中編だけに残念。非常に不味い前菜を食べた後に素晴らしいメインディッシュが出て来ても、不味い前菜で損なわれた口はなかなか整わないのだ。


    『遺言』。箸にも棒にもかからないレベルの短編。年老いた母親が娘の咲子への遺言をリオノコーダーなる機械に吹き込む。遺言というよりも昔の想い出を延々と語るのだが、山谷も無く、最後の衝撃の告白も予想の範囲だった。★★

    『白蟻女』。表題作。まさか感動の結末が待ち受けているとは。夫の栄一郎の通夜、2人の娘を家に帰し、夫

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    2023年08月25日
  • 藻屑蟹

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    ネタバレ

    原発の除染作業員の経験がある赤松利市の大藪春彦新人賞受賞作。デビュー作なのに文章力、表現力がある。原発の廃炉作業にともなう利権に群がる人々の群像劇かと思ってよみすすめたら、最後は市民の矜持が勝つという話だった。
     長年、原発の作業に従事して被曝、そして自殺。
    原発の除染に関わる利権を手にして、疑心暗鬼そして暴殺される。そして主人公は原発で家族を失ったキャバクラ嬢と第二の人生を生きようとする。
     ミステリー仕立ての話の展開も読ませる筋だった。

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    2023年08月14日
  • 藻屑蟹

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    途中暗くて心が折れそうになってからの最後のスピード感、すごかった。
    そして作者の経歴を知らず(激レアさんも見てたのに気付かなかった。。)、びっくり。

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    2023年06月03日
  • 東京棄民

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    女性作家さんが続いて、久しぶりに赤松さんが読みたくなった。(軽めなやつ)
    とても面白くてあっという間に読んでしまった。
    東京株という強悪な新型コロナウィルスが蔓延し、東京から人が他県へ避難するという話。そして、その東京に取り残された人達の物語。
    主人公の男性が普通の人であるのが良かった。いかにも小説の中の人物というのでなく、良いところも良くないところもある、リアルな人間なのがいい。さすが赤松さんだなぁと思う。
    小説だからこそという部分とリアルな部分のバランスが良くて、読みやすかった。

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    2023年03月07日
  • 鯖

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    なぜか突然、この本の旬は1月なのではという気が強くして、読み始めた。『藻屑蟹』を読んでから3年と10ヶ月、ずっと読むタイミングを計っていたこの本、ようやく読めた。

    いやぁ、なんか……かなりヤバいものを読んでしまった。この本にはR指定(と今は言わないのかな)が必要では。でも読書の醍醐味である、貴重な擬似体験をさせてもらった。そういう意味では、ものすごくおもしろかった。

    始めは、世間への憤りを抱えた主人公にハッとさせられながらも、これはコメディなのかと思うほどコミカルな表現に何度も吹き出していたのだが、読み進めるうちにだんだん笑えなくなってきて、後戻りできなくなっていく状況に恐怖を感じるように

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    2023年01月20日
  • 犬

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    赤松利市『犬』徳間文庫。

    第22回大藪春彦賞受賞作。

    個人的に苦手なトランスジェンダーを主人公にしたピカレスク小説だが、面白い。

    国の誤った政策で非正規雇用が増加し、日本は貧困国に成り下がり、社会保障額は目減りし、老後の不安は増す一方。死ぬは地獄、生きるも地獄の今のご時世。一攫千金を狙ってもリスクばかりで、うまい話に儲けは無い。貧困のあるところに犯罪あり。

    大阪でニューハーフバー『さくら』を営む63歳になるトランスジェンダーの桜は、同じトランスジェンダーで24歳の沙希を雇い、慎ましい生活を送っていた。

    ある日、『さくら』に桜の昔の男であった安藤勝が現れる。久し振りの再会に舞い上がる桜

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    2023年01月15日
  • 鯖

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    人間の脆さ、残酷さ、欲深さをさらけ出した話。
    能力の無いものは淘汰されるという現実をただ読者に突きつけている。

    しかしその酷さとは裏腹に文章は読み心地が良く、欲望に飲まれていく描写でさえ、そんな人間に対する情を感じる不思議な作品。

    赤松利市作品は初めてだったが、他も読んでみたくなった。

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    2022年11月13日
  • ボダ子(新潮文庫)

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    「62歳、住所不定、無職」の大型新人、赤松利市氏。新潮文庫2月の新刊です。
    出てくる人物は全てクズ。特にボダ子(境界性人格障害 borderline personality disorder)の父親である主人公が下衆の極み。復興バブルをあてにして石巻で土木事業に関わりますが嘘とごまかしで失敗して、ひたすら転落していく様子が痛々しい。境界性人格障害の娘に最後まで向き合えず全てを失った果てに路上生活。最低な読後感です。私小説の体で書かれていますが、フィクションであることを願いたいです。他の作品が気になります。

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    2022年07月30日
  • 東京棄民

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    ネタバレ

    この方のほかの作品を読んでいたので、主人公が死んだり悪い感じになったりするではないかと・・・はらはらしながら読んだ。
    イッペイよかったね。
    有事が過ぎれば、日常が帰ってくる。
    日常は視野を狭め、問題を見ないことにして平安をめざす。
    どの立場にあってもそう。そんな中でタハラの今後に期待を感じた。

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    2022年06月02日
  • 東京棄民

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    赤松利市『東京棄民』講談社文庫。

    初の文庫書下ろし。

    まさに今、日本が苦しめられている新型コロナウイルス感染禍を題材に描かれた世紀末近未来サバイバル小説。

    リアリティを感じるストーリーであるが、少し欲張り過ぎた感じがする。

    国民の自助と自衛に頼るばかりでワクチン接種の一本足打法以外に打つ手の無い政府の新型コロナウイルス対策。政府はスペイン風邪の時のように2年半程度で自然終息すると軽く考えていたのか。それとも集団免疫獲得という幻想を抱いているのか。

    政府側近の人材派遣会社トップが労働者派遣制度を歪め、安価な人件費を変動費に変えたことから広がり続ける格差社会。新型コロナウイルス感染禍でさ

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    2022年05月15日
  • エレジー

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     バブル末期の平成初期年代。
     場所も違った場末の風俗にも、その不景気の予兆が訪れる。

     新宿二丁目では、もう何人も”飛んで”いる。
     北海道の寂れゆく離島には東南アジアからの女が流れ着く。
     大阪の道頓堀に子どもが捨てられる。

     彼ら彼女らの悲哀が込められた、平成初期の風俗街に焦点を当てる。

    「ショコラ」
     新宿二丁目のゲイバー、不況の煽りを食らって閉店が相次いでいた。
     大吾は金融の世界で家庭も作らずに仕事に没頭し、遊ぶときは二丁目で盛大に金をバラまいていたが、不況の気配を感じて自分の得意な領域のコンサルとして独立する。
     なじみの店でNo.1を争うカスミが自分の店を持ち、カスミには

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    2022年04月10日
  • 饗宴

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    赤松利市さんの世界。読むごとにおぞましさが増しドキドキ。結末前後にもう一波乱あれば……‼
    次のおぞましい世界にも期待。

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    2022年02月16日
  • らんちう

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    2021年、19冊目は、3年連続、この時期に読む(文庫の刊行ペースがそぅなのか?)、赤松利市。

    千葉の海に面した旅館、望海桜。その総支配人が殺された。犯人は、従業員と元従業員の六人。

    『藻屑蟹』『鯖』そして、今作が『らんちう』。水性生物括り。と言う冗談は、さておき、今作も社会の歪みの狭間や、下側にいる人々が展開の核を成す。

    まづ、驚いたことに、全編そのパートの主人公の主観、一人称で描かれている。

    「人はそれぞれ正義があって」何て、どこかで聞いた歌詞を思い浮かべたりもするが、六人の犯人達のベクトルが合致した先に「総支配人殺害」があったのだろう(もちろん、異分子的存在もあったし、果たす役割

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    2021年11月25日
  • 鯖

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    ネタバレ

    役立たずはいらない。
    恐ろしい。
    さいご、母の言葉は重いなと。
    展開のテンポがよくワクワクしながら読めた。
    楽しかった!

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    2021年10月07日
  • 藻屑蟹

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    多額の金を受け取った木島は、その後崩れていくのかとドキドキした。
    脱原発に傾けさせないために、原発避難民に多額の賠償金を渡すという点、ホントだったから怖いけど、、どうなんだろう。

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    2021年10月07日
  • 藻屑蟹

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    ネタバレ

    東日本大震災と原発事故を題材に人々の分断が描かれていて、一筋縄では行かない本だった。
    その地に住む者でないと分からないような心情も事情もあり、著者の除染作業員の経験がこの物語を生んだのだと思うが、知らない視点を与えられ驚くことが多かった。どれも他人事じゃない。圧倒される凄みがある。特にラストの迫力に息を呑んで、その余韻が残っている。

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    2021年02月24日