新本所おけら長屋(二)
著者:畠山健二
発行:2024年11月20日
祥伝社文庫
2013年からPHP文庫で20冊発行された「本所おけら長屋」シリーズの新シリーズ。去年からスタートして2冊出ていたが、これが2冊目。今回も3編の連作短編。1編100ページで、時代小説の市井ものとしては1編が長いが、ストーリーが比較的シンプルで読みやすく、長さを感じない。時代小説は市井ものが気軽に読めて楽しい。
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(読書メモ、ストーリーもろバレ注意)
1.おみたて
伊藤幸一郎:お満に弟子入り志願、15歳、父は医師の伊藤惣頼(そうらい)で酔いどれ先生と呼ばれている
川島重五郎:上州某藩江戸詰側用人
千代菊:吉原の青葉楼の花魁、病弱
お甲子(きね)婆さん:惣賴の「風来院」に掛かっている老婆、小堀長屋に住む
佐久吉:甲子の息子、尾張にある材木問屋「赤池屋」奉公人
お美濃:15~6歳、聖庵で雑用手伝い
満天堂に伊藤幸一郎という15歳の少年が、お満の弟子になりたいと訪ねてきた。父親は御家人で三男坊のため医師になりたいと。お満は断る。横で聞いていた万造は感じるところがあり跡をつけると、父親は伊藤惣頼という開業医だった。酔いどれ先生と呼ばれ、金はいらぬが酒をいつも飲んでいた。お満に事情を話す。なぜ嘘をついているのか?
翌日、幸一郎がまた来たので、取り敢えず雑用に使うことに。住み込み。万造は五合徳利を下げて惣頼の「風来院」に上がり込む。患者の一人、お甲子婆さんに対し、手を尽くしてあと3、4ヶ月、なにもしなくても1、2ヶ月もつ、だからもう来るな、金は死んだ時の香典だと思って不要、と言い放って追い返した。しかし、万造は惣頼を悪い人間だと思えなかった。
帰ってそのことを話すと、お満は激怒した。いくら助からなくても患者に寄り添うのが医師だと、今度はお満が乗り込んだ。私が診ます!と。惣頼はどうぞお好きに、と。しかし、甲子のところにいくと、診察を拒否された。幸一郎にそのことを話すと、自分も父親のようになりたくないからここへ弟子入りしに来たのだと言う。2年前まで上州の某藩の御殿医をしていたが、殿様の生母が急病の時、無断で城下に出ていたため、辞めることになったという。2年前に開業し、母親は気苦労で半年ほどしたら世を去った。それから1年もしないうち、吉原の花魁を診察した後、しばしば休診してそっちへ行くようになった。そんな話を幸一郎はした。
万造はまた五合徳利を持って惣頼のところへ。うちで預かっているので挨拶に、と言いながら、また飲んでいると、川島重五郎という上州某藩江戸詰側用人が来た。勝手なことをいうが、江戸藩邸に来ている殿が病気だが、江戸の医師の薬が効かずにまずいことに。どうか薬をくれと言う。調合している間に、万造は事情を聞く。実は、惣頼は藩に黙って町人や百姓を診ていた。殿様の生母が急病の時もそうで、戻ろうとした時に百姓の子が溺れて息がなく、心肺蘇生の必要があって戻るのを後回しにした。幸い、生母は対したことがなかったが、バカ殿が怒って討つかもしれない、そうなると幕府からお咎めを受けてお取り潰しになるかもしれない、と家老が心配した。だから御殿医を辞めたのだった。
一方、吉原の花魁に関する事情も松吉が仕入れて来た。千代菊という青葉楼の花魁が風来院に来たのがきっかけだった。幸いにも悪い病気ではなかったが、惣頼は青葉楼に乗り込み、女郎たちの待遇改善を訴えた。そうする方が商売にとっても効率があがる。そうしなければ、あそこは働かせすぎで労咳により鼻が落ちたとか噂を流すぞ、と脅した。しぶしぶ女将は言うことをきいたら、本当に商売の効率が上がって儲かったのだった。
最後の落ちは、お甲子婆さんだった。いよいよ死期が迫っていた。尾張から息子がかけつけてきていた。惣頼は雇い主にも手紙を書いて、母親の様子や余命について知らせていた。主は息子に休みを与えたが、ひと月だった。江戸に息子が滞在できるうちに死なせてやろうと思い、手を尽くして3、4ヶ月無理にもたせるのではなく、1、2ヶ月で送ってやろうという心配りで、あの時に追い返したのだった。
2.はらぺこ
正吉:網村の一揆リーダー
お美代:正吉の妹
与平:仲間
八十吉:仲間、長男は太吉、病気の次男は仁吉
市助:仲間
熊吉:仲間
作吾郎:爺様、五人組の組頭
犬養三郎兵衛:巻頭取締出約(八州廻り)
幸吉:横目(村の目付役、名主を監視)
佐藤家:造り酒屋、大総代(名主を束ねる地位)
山代副藏:手代(代官所の役職)、名主とグルになり年貢米を代官所に無断で増やしてそれを横流し
角右衛門:名主
全介:山代配下の中間(ちゅうげん)、横流しの立案者
内藤主膳直厚:代官
小三郎:旅籠・つくし屋の主
二太郎:馬子
野菜の棒手振りをする金太の両親から、大家の徳兵衛に三十両を預かってほしいと頼みがあった。金太が心配なので土地を売って用意したが、金太に渡すと使ってしまうから預かってほしいと。両親は常陸国土浦で豪農をしている。しかし、徳兵衛では取りに行けないので、万松に頼むことになった。ボディーガードは島田鉄斎。往復10日。金太も連れてこいとの条件だった。万松は25両渡すから、残り5両は旅の費用と3人で山分けにできるなら引き受けると条件をつけた。しかし、そんなに余らない金額なので、現地で両親に頼んであと2両がぐらいはせびろうという算段もあった。
牛久宿の手前で、昼飯中に金太が行方不明になった。3人は手分けして探すことにした。
金太は川に落ち、頭を打って自分が分からなくなっていた。そして、網村の百姓達の密談に出くわし、意味不明の言葉を発し続けた。唐茄子~。
百姓たちは、最初はスパイではと疑ったが、悪そうな人間ではないと判断して、とりあえずお寺で保護することにした。村人たちは、手代の山代と名主が、代官の決めた年貢米を勝手に増量し、それを旅籠に安売りして横流し金を懐に入れていた。食べ物がない百姓たちは、名主の米蔵からそれを盗み返そうとしたら、まんまと捕まってしまった。罠だった。運悪く、寺を抜け出した金太もそこにいたため、百姓5人とともに捕まり、牢獄へ。1日1回、ひえ粥が出るだけの辛い毎日になった。このままだと、誰かが見せしめの死罪になる。
鉄斎と万松は、金太を探しているが見つからない。村人達が密会していた場所あたりで、金太の人相を言って村人達に尋ねた。すると、村人たちはことの経緯を話してくれた。なんとかしようと3人。よそ者のあんたたちに何ができる、あんな悪たちに対して、と村人達。そこに侍が現れる。身構える鉄斎。武士同士で通じ合った。侍は関八州廻りとして、不正がないか回っていた。通常は2人1組だが、もう一人は前の仕事で怪我をしているため1人だった。鉄斎と組んで解決することになった。事情は、さっき草むらに寝転んでいるときに聞こえてきていた。
まずは、万松たちが米を盗むことにした。裏の米だから、盗まれても表沙汰には出来ないはず。それでどう出るか反応を見ることに。うまく盗めた。米は寺の棺桶の中に隠す。
横流しで安売り米を買っていた旅籠の主と、それを運んだ時に不正話を聞いていた馬子を探し当て、証拠を固めた。どうやら、代官は知らないことだったらしい。そこで八州廻りは代官に一任して、不正を糺すように進言した。任せるが、万松が要望したのは、やつらを捕まえたら百姓や金太と同じ牢屋に入れ、食べ物も同じひえ粥を1日1回だけにしてくれ、同じ目にあわせてくれ、だった。
4人は金太の実家へ行き、お金を受け取ったが、たったの3両だった。当てが外れた。3日後に網村に戻って代官を訪ねたところ、牢に入れられた3人(山代、名主、中間)は、最初は反省ない表情だったが、ある時から本当に反省して嗚咽していたという。それは、お美代がおにぎりを差し入れたときからだという。百姓の苦しみが分かったらしい。
別れ際、江戸に戻る3人に、お美代はにぎりめしを持たせてくれた。
3.らいぞう
文七:左官親方である文蔵の甥、お糸の亭主、八軒長屋に住む
お糸:八五郎(左官)とお里の娘
雷蔵:文七とお糸の子、4歳
繁吉:八軒長屋、紙問屋「辰巳屋」手代
お吉瀬:繁吉の妻
涼太:繁吉たちの息子、雷蔵より7ヶ月下
保太郎:辰巳屋主人の孫、涼太と仲良し、同い年
お妙:保太郎の子守役
保右衛門:辰巳屋主
時志郎:保太郎の父
お登喜:時志郎の妻だったが1年程前に追い出される
お千佳:辰巳屋の奉公人、15歳
加平:瓦町の瀬戸物「宝来屋」
林蔵:廻船問屋「東州屋」番頭
善次郎:東州屋主人
伊勢平五郎:南町奉行所同心
万松のところに、加平という男が依頼に来る。尾張の瀬戸から両親が総勢二十名で江戸見物に来る。3年ほど前、両親を安心させようと結婚して子供が生まれたと文を書いている。その嘘がばれないよう、10日後の八つ時に、4歳ぐらいの子供と妻役の女が必要なので都合を付けてくれ、という内容だった。辰次の妻であるお連と、雷蔵に頼むことにした。
雷蔵は4歳なのにまだ言葉が出てこない。同じ長屋の涼太は7ヶ月も下なのによく喋る。母親であるお糸は心配している。雷蔵は逆子で難産、雷がなったときに生まれた子だった。
万造はお糸に断りなく、雷蔵に子供の役をさせた。うまく行ったと思ったが、事後、加平が怒って料金の1両を取り戻しにくる。雷蔵が加平の両親の前で何も喋らなかったからだった。小遣いをもらってもお礼すら言えない。母親役のお連が火に油を注ぐ発言をする。しかし、万松や居合わせた八五郎は加平を追い返す。加平はおけら長屋に行き、ことの次第をお糸に話してしまった。
八軒長屋に住む涼太と、その父の勤め先である辰巳屋の孫の保太郎は仲良し。ある日、雷蔵を含めて3人で遊んでいて、保太郎の子守であるお妙が引率して神社へ出かけていると、涼太がすりむいて手当をしている隙に保太郎が拐かされてしまった。雷蔵と一緒だったが、雷蔵はその時のことが説明できない。誘拐はこれまでに3件起きている。奉行所が面目にかけて捜査。雷蔵は身の安全のため、暫くおけら長屋で預かることになった。辰巳屋から紙をいっぱいもらって、毎日、絵を描いている。
犯人から500両の要求があったが、それきり連絡がない。一方、雷蔵の絵が細かなことまで正確に表現していることが分かってきた。誘拐された時の絵を見ると、犯人は女のように見えた。しかし、どこか優しさがある。もしかすると保太郎の母親が攫ったのでは?そういえば、母親の話が出てこないのがおかしいと、おけら長屋の連中は思った。
真相が判明した。辰巳屋の時志郎は、4年前、周囲の反対を仕切って料理屋の女であるお登喜を嫁にしたが、遊びまくる悪妻だった。子供を生んだが、1年ほど前に店から2両が消え、犯人とされて追い出された。手切れ金をもらって喜んで出ていったという。甲州へ帰ったとのこと。
ところが、2両を盗んだのは奉公していた千佳という15歳の娘だった。国の母親の薬代を出すためだった。事情を知ったお登喜は自らが罪をかぶる形で出て行ったのだった。千佳にとっては恩人となったが、ある日、まちで再開した。甲州ではなく江戸の阿部川町の長屋にいるという。神社で保太郎を連れていったのは、彼女だった。子供に会いたさ一心で。脅迫状の投げ文は、千佳に頼んだのだった。
お満とお糸と雷蔵がその長屋にいくと、母子がいた。しかし、突っ慳貪な対応だった。奉行所にでも突き出すがいい、と。2人は母子の気持ちは分かると説得した。拐かしの犯人にはさせないから、と。
同心平五郎が一芝居うってくれた。辰巳屋をたずね、隠密に動く連中を使って探させたら、保太郎は無事に見つかった。しかし、詳細は彼らの秘密だから言えない。保太郎は帰すけど、ひとつ条件がある。今回の誘拐では、母親のお登喜も一緒に誘拐されていた。逃げたら2人とも殺すと脅されていた。そこで条件だが、保太郎が帰ってきても、月に1度は会わせてやってくれ、と。そして、隠密への礼金として5両ほど支払ってくれ、と。