【感想】ごく普通に楽しめる。読書の愉しみはこういう作品にこそあるのかもね。
【一行目】おけら長屋は朝から騒がしい。
【内容】
・新しいかたちの古典落語やね。基本人情噺やけど軽いクスグリやオチもあったり。
・借金踏み倒す一家をこらしめる。
・鉄斎がおけら長屋の住人になるまで。
・仇討ちを命じられて四苦八苦している侍。
・博打にハマりかけた男と謎の老人。
・謎の後家、お染と凶悪な盗賊団。
・筋金入りのお嬢様の巻き起こす珍騒動とある男の着服。
・長屋対抗相撲大会と湯の子。
▼おけら長屋についての簡単なメモ(年齢は特に注記がない限りは物語開始時点)
【伊三郎】小間物屋を営む。博打にハマる。
【丑三つの風五郎】凶悪な盗賊。
【内田重計/うちだ・しげかず】誠剣塾の門弟の一人。鳥羽藩からの召し抱え候補の一人。二十四歳。
【卯之吉】表具職人。四十歳。妻のお千代、娘のお梅の三人暮らし。
【江波戸直介/えばと・なおすけ】誠剣塾の塾長。
【大家】→徳兵衛
【お糸】八五郎の娘。島田鉄斎がおけら長屋に住むようになった時点で十六歳だった。今は十九歳。
【お梅】卯之吉、お千代の娘。十七歳。久蔵のことが好きだったが「湯の子」を孕む。
【おけら長屋】本所亀沢町(かめざわちょう)にある。繁華街の両国からも近い。十二の部屋がある。騒動の宝庫と徳兵衛は嘆く。地主は有名な料理屋「仲膳」の店主、文志郎。
【お里】八五郎の妻。四十歳。井戸端会議の主役。屈託なく明るく話が面白い。南森下町の絹問屋、成戸さん屋に女中頭として勤めている。
【お静】志摩屋の末娘。わりと素直で真剣。真からのお嬢様なので存在自体が嫌味と紙一重。
【お染】後家。三十六歳。本当の名前は小峯/おみね。
【お多喜】お里の同僚で成戸屋の女中頭を交代で勤めている。
【お奈津】喜四郎の妻。二十八歳。
【お幸/おゆき】お糸の幼馴染み。緑町の閻魔長屋に住む。借金のカタに岡場所で客を取らされそうだ。母のお菊は身体を壊している。
【女スリ】名前は不明。まだ若い。島田鉄斎にスリを見とがめられてお仕置きされる。十歳まで閻魔長屋に住んでいてお幸とは知り合いだった。
【河文】宿を兼ねた料理屋だが実態は遊女屋。お菊、お幸母子はここに借金がある。
【喜四郎/きしろう】大工の熊五郎が引っ越していったあとに入ってきた畳職人。三十歳。妻はお奈津。
【久蔵】呉服屋、近江屋の通い手代。店賃は近江屋が持っている。二十一歳。一人暮らし。寺島村の農家の次男で十歳のとき近江屋への奉公に出た。隣家の年増、お染のことが気になる。
【久太郎】志摩屋の主。
【京谷信太郎】誠剣塾の門弟。鳥羽藩からの召し抱え候補の一人。二十四歳。
【金太】八百屋。通称「八百金/やおきん」。すぐ寝る。二十二歳。一人暮らし。
【熊五郎】腕のよい大工。二十八歳。通称「大熊/だいくま」。ほとんどの借金を踏み倒す。長屋に越してきて三年一度も家賃を払っていない。大熊が強引で妻のお初が知恵者、息子の長坊は役者。家族揃って一筋縄ではいかない。
【近藤房之助】津軽黒石藩で島田鉄斎と剣術指南役を争った。というほど強くはなくただの無頼漢レベルの小物だったが鉄斎を逆恨みし、結衣を殺し、鉄斎に斬られ彼が再び流浪の旅に出る原因となった。
【相模屋のご隠居】→与兵衛
【佐平】たが屋。四十歳。妻のお咲と二人暮らし。夫婦仲がいいので知られていたが、あゆとき佐平が博打にハマる。
【島田鉄斎】浪人。剣の腕は確か。信州諸川藩剣術指南役だったが幕府により藩が断絶され妻子もいなかったので流浪の身になり、その後津軽黒石藩の指南役に就くが、今はおけら長屋で気楽な暮らしを営んでいる。《先のことを考えてしまっては何もできなくなります。まさに武士の世界がそうでした。素晴らしいではありませんか。先のことなど考えずに行動する。真実はそこにあるのではないかと。》第一巻p.72
【志摩屋】井戸でも一、二を争う絹問屋。成戸屋の本家。
【清水寿物/しみず・じゅもん】天童藩馬廻役。父の敵、浅利拓馬に追って三年。ただ敵の顔も知らない。《何が武士だ。何が面目だ。何が仕官だ。そんなものより大切なものがあるだろう。》第一巻p.116
【誠剣塾/せいけんじゅく】島田鉄斎が手伝っている剣術道場。
【成吾郎/せいごろう】成戸屋の主。
【善次郎】廻船問屋東州屋の主人。徳兵衛とは碁会所の常連同士。彼がすられた財布を島田鉄斎が取り戻したのが縁でおけら長屋で暮らすようになる。
【高宗】津軽黒石藩の藩主。人格者。自分のことを「おれ」と言う。
【辰次】魚屋。二十一歳。一人暮らし。
【徳兵衛】大家。家賃を取り立てようという意欲があまりないお人好し。
【成戸屋】絹問屋。志摩屋の分家。お里が女中頭として勤めている。今度志摩屋の末娘、お静を花嫁修行として預かることになった。
【根本伝三郎】火付盗賊改方の筆頭与力。島田鉄斎と同じ道場のライバル。
【八五郎】左官。四十一歳。妻のお里、娘のお糸の三人暮らし。
【文次郎/ぶんじろう】熊五郎の兄貴分。
【政吉】丑三つの風五郎の手下。
【松吉】酒屋の奉公人。二十六歳。一人暮らし。行き当たりばったりの江戸っ子の典型。大家や久蔵からは、松吉や万造はどんな目に遭わせても特に罪悪感を覚えずにすむ相手と考えられている。おけら長屋には万松は禍の元という格言がある。
【万造】米屋の奉公人。二十六歳。一人暮らし。行きあたりばったりの江戸っ子の典型。大家や久蔵からは、松吉や万造はどんな目に遭わせても特に罪悪感を覚えずにすむ相手と考えられている。
【美濃吉】成戸屋の手代頭。
【山田浩史郎】火付盗賊改方の同心。
【結衣/ゆい】津軽黒石藩藩主高宗が島田鉄斎に娶らせた女性。出戻りだが気品がある。当時鉄斎は三十八歳、結衣は三十一歳だった。
【湯の子】当時の銭湯は男女混浴で女性が襲われることもままあったとか。それでできた子を「湯の子」と呼ぶ。
【与兵衛】相生町の乾物屋、相模屋のご隠居。五十一歳。一人暮らし。おけら長屋で唯一まともに家賃を払っている。相模屋はすぐそばで家督を譲られた息子はなにかと世話を焼いているもよう。
【老人】博打にハマりかけている佐平に博打の蘊蓄を披露して去っていった不可思議な爺さん。