読み終わった後は、色々な感情で胸がいっぱいになった。今までで一番心を動かされた作品だ。こんなにもメッセージ性がある作品を読むのは初めてだ。戦争は絶対に良くない、起こすべきでないものであるというのは読む前からわかっていたが、作中、戦時中の世界の景色、人間、生活を見て、過ごした百合の戦争に対する嫌悪感、忌避感をたっぷりと孕んだ数多くのセリフ、心の声を通して、戦争なんて絶対に異常だし、狂っているし、馬鹿げているという気持ちがありありと伝わってきた。そして、現代の若者の感覚を持っている私もまた、それに共感し、同じ感想を抱いたが、止むを得ず戦争は起こり、軍人たちもどこかでおかしいと思いながら、自分たちがやるしかないと思っているという気持ちもわかった。今まで持っていた、戦争はこれから絶対に起こしてはいけないものと言う認識に加えて、今在る生活は、過去の人たちが命をかけて繋いだ、心の底から願った、夢見た、喉から手が出るほど過ごしたいと思った平和な世の中なのだと感じた。軍人も、出来ることなら敵国の相手を傷つけたくないし、家族や友達、愛する人たちと共に過ごしたいとは思いながらも、それを口に出すとまわりから非国民であると思われるし、敵国をねじ伏せたいという思いよりも、母国の愛する人々を守りたくて、平和な世の中が欲しくて、また、後世に繋ぎたくて戦っている側面が大きいのだとわかった。最後、彰が特攻する場面で、特攻せずに海に堕ちたのは、敵国の相手もまた、守りたい人達がいてその人たちを守るために命を張って戦場に出ていることを考えたからで、それほど彰にとって守りたい人たちの存在は大きなものだったのだと思う。途中までは、百合から見て軍人や特攻隊の人たちは死んでまで戦争に勝ちたいのは理解できないという認識であった。しかし、その人たちの後ろには家族や友人がいることや、板倉が特攻隊から逃げたいと本音を言うシーンを通して、軍人たちも本当は戦争なんてしたくない、同じ「死にたくない、生きたい」と思っている人間なのだと認識し、だからこそ行くしかないと決意して戦場に出る軍人たちを見て苦しくなっていったのだと思う。特攻前最後の夜に、彰と百合が、百合の咲く丘で話すシーンでは、2人はこんなに想いあっているのに、彰は特攻に行かなければならないと言う切なさがまざまざと伝わってきた。暗い夜の丘で、百合の濃密な甘い香りに包まれながら静かに煌めく星の灯りだけに照らされて語らう情景に、今までにないほど入り込んでしまった。まるで自分もそこにいるかのように感じた。花の香りと、吹き抜ける夜風さえ感じるほどだった。特攻命令が出た夜、鶴屋食堂で彰の班の人たちがいつも通りに話し、冗談を言い会うが、いつもよりふしぜんなちんもくがうまれたり、沈黙が生まれると全員視線を落としたり何か物思いに耽るような描写は、心が痛くなった。また、ツルさんから寝床、食事を与えてもらって百合は心から感謝すると同時に、なぜそれと同じことをしてくれていた母親に感謝の言葉はおろか、反抗的な態度すらとってしまっていたのか、と後悔する百合を見て、自分もはっとした。寝床や食事、その他数えきれないくらいたくさんのものを両親から貰っているが、感謝はしているつもりでも貰い続けている中で当たり前だと感じるようになっているような気がする。親は子にそれを与えるのが当たり前と言えば、それは当たり前なのかもしれない。しかし、普通に考えたらそれは当たり前なわけない。それを生まれた時から与えられ続けているからといって、感謝する心が麻痺しているのかもしれないと思った。親は与えるのが当たり前だと思っていたとしても、子はそれを当たり前だと決して思ってはいけないと思う。それは親子の関係だけにとどまらず、他の人間関係にも当てはまると思う。いつもしてくれているからといって、段々と与えられている側の感謝が薄まっていっては決していけない。初めてそれをしてくれた時の感謝を忘れずに、その感謝を例え照れくさくても、相手に、自分は当たり前だと思っていない、とても感謝しているという意を伝え、見せ続けないといけないと思う。洗濯物と風呂掃除どっちがやるとか、こっちやったからこっちやれよとかいつも言っていて、それすらしない姉にとても腹立たしく思うが、自分の役割は果たしたからと変な頑固はやめて、親のために、出来る限りのことはするべきだと思う。百合の70年前の生活を通して、現代の普通の生活は本当に平和で贅沢で、70年前の人たちが、文字通り死ぬほど欲しかったものなのだと思った。戦時中の人々は、もし戦争がなければ、とどれほど思ったのだろうか。今の自分は、その思いに応えられるような自分であるだろうか。何か特別なことはできなくても、せめて平和な世の中は過去の犠牲があってのことで、極めて幸せであると言うことは決して忘れずに生きていきたいと思う。
話は変わるが、ラブストーリーとしてもめっちゃ良かった。死ぬとわかっている人へ想いを寄せる切なさがよく描かれていた。途中の、甘味処での会話もめっちゃ良かった。最後の手紙は感動した。百合が人目も気にせずわんわん泣くのもわかる。上でも書いたが、特攻前に百合の花が咲く丘での情景描写はすごかった。まるで自分もそこにいるかのように感じた。映像がまざまざと流れてきた。