つらくて、悲しくて、優しいご飯を求めている人がふと誘われる、あたたかい『お夜食』を出してくれる料理屋さんと、そのお店に誘われた女の子の物語です。
主人公は、志望校に合格できず、受験を失敗したことを引け目に感じている高校一年生の女の子。自分のせいで家の中はぎくしゃくし、せめて大学受験はがんばらな
...続きを読むければと必死に勉強をするも、学校の部活や友人関係はうまくいかず、家族との関係も悪くなっていくばかりで、毎日の塾通いも嫌になっていってしまう。段々食べるごはんまで味を感じなくなってしまっていったある夜、『お夜食処あさひ』に誘われて、自分のためのお夜食を作ってもらうことに。
そのお店にやってくるのは、常連さんの他に、特別に『誘われた』人。ダイエットのために「食べたくない」女の子、健康志向の親に普通のお菓子を「食べさせてもらえない」男の子、愛犬を亡くした悲しみで「食べられなくなった」男の人。さまざまな人の気持ちにそっと寄り添う、優しくてあたたかいその人のためのお夜食を通して、ほっとお腹の中が温まるような話が続く。
作中で、『本当の夜はこれから始まる』というようなフレーズが何度かあるのだけれど、この言葉だけを見ると『本当の夜』⇒『辛くて苦しい暗いもの』というイメージを思い描いてしまいそうなところ、この作品では『ぽっと灯りがともるような優しく包み込んでくれるもの』という位置づけで描かれているのが印象的です。
寒い夜、眠れない時に誰かが作ってくれた優しい味を思い出します。
お話自体は淡々と進むため、起伏は少なく感じるかもしれませんが、とても優しく染み入る作品でした。
作中で出てくるお夜食レシピ、私も真似したいと思ってしまいます。
誰かに優しくしてほしい時、誰かに優しくできなかった時、そっと読み返してみたい一冊です。