恋に無縁な若君・祐高と頭脳明晰な行き遅れの姫君・忍は「取引」をして結婚をした。八年後、検非違使別当へと上り詰めた祐高だが、周囲からいじられたり浮いた話の一つも無かったりと何だか不甲斐ない。夫の株を上げるため、忍は御簾の中から不可解な事件の謎に迫る。
平安時代を舞台にしたラブコメ? ミステリ? です。
平安が舞台のミステリというのもなかなか珍しいと思いますが、主人公であり探偵役の中納言家の姫君(忍)が既婚者3人の子持ちというのも珍しい気がします。
とはいえ、作品タイトルでは奥様の忍が御簾越しに事件を解決する安楽椅子探偵のような印象を受けますが、探偵はあくまでも忍と祐高の二人。というのも、この2人、夫婦ですが手に入れられる情報が全く違っているからです。夫の祐高は検非違使別当で事件が起こると現地で調査ができ、関係者から話も聞ける。世間のことも分かっている。真面目だが、荒事は苦手で事なかれ主義。妻である忍は基本的に自分の家からは出られず、夫以外の男性とは直接顔を合わせることも口を利くこともなく、世間知らず。その代わり女性同士でのうわさ話や物語などには詳しく、頭が良い。
どちらも一長一短で、二人の情報がそろわないと事件の全貌はわかりません。忍がある程度推理を組み立て、祐高がそれをもとに修正を加えて……というパターンが多かったかな。忍が頭脳明晰と書かれていますが、祐高もかなり頭が良い気がしました。
平安時代の文化・風俗が事件や謎解きやストーリーにも深くかかわっていて、表紙から想像するライト文芸・キャラ文芸っぽさに反してなかなか難しい。時代物を読みなれていないと、役職や小物の名称などがすっと入ってこず苦労するかもしれません。
後半ラブコメ色が強くなってくるのもあり、慣れてきてだんだん盛り上がってきます。
さばさばしていてあけすけだけどやっぱり‘‘姫君”な忍と、ちょっとヘタレだけど真面目で忍をちゃんと愛してくれている祐高の、不器用な恋愛小説としても楽しく読めます。