岸政彦のレビュー一覧
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中編が2つ.表題作は二人の男女の小学生が公民館の図書室で出会い、本からの知識に沿った人類滅亡への対応行動を淡々と描いている.大晦日に食料として缶詰を買い込んで河川敷の小屋で夜を過ごすものの発見され連れ戻される.小屋での話に図書室を作ることが出てくるが、意図のつかめないままだった.「給水塔」は大阪に惚れた男の話で著者の回想みたいな感じだ.ウッドベースが出てきて驚いた.私も持っているからだ.バブル時代の浮かれた話やバイトで飯場にいたことや子猫の話などエピソードが次々に現れて楽しめた.昔ピカピカだった町が寂れてしまう現実を的確に描写している点が良かった.
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社会学者・岸政彦による小説「図書室」と、自伝的エッセイ「給水塔」からなる。個人的に「給水塔」が面白く、この作品があることで、「図書室」の面白さが増すような気がした。「給水塔」の最後が、そのまま「図書室」につながっていく。「図書室」は小説としては読みやすいが、やや淡泊。もっともっとドラマを込められるだろうが、そこは社会学者による小説、ということでかろうじて我慢できる。たとえ小学校高学年であったとしても、男女が小屋にこもったら、肉体的な触れ合いの、そのヒリヒリ感ぐらいもっと描けよ、と突っ込みたくなったが、まあいいか。これが庶民ということか。
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読書開始日:2022年6月3日
読書終了日:2022年6月11日
所感
【リリアン】
人間はなにかしていないと怖い。
リリアンはうってつけ。
意味のないものを生み出し続けるが、なにかをしてる感じは持てる。
虫も、菊池も、美沙さんも、そう。
考え始めるとなにもかも自責の念に囚われる人種。
もちもん主人公もそう。
揺れ続けている。
落ち着かない。
そんな人らの記憶を潜水している気分だった。
どんどんと暗くなるが不思議と引き込まれる。
息が続かす戻った頃に、ドミンゴママの一言。
一緒に寝る人がいたらええ。
そう。
人は欲している。
リリアンもいらない、あったかい、愛情をくれる人。
戻ってくる。
E♭ -
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ネタバレゆっくりゆっくりと語られるなんということはないエピソード。
最初はひとりでシュノーケルを持って海に潜る話。
それからスナックで知り合った10こ年上の美沙さんとの付き合い、会話。
美沙さんが好きなリリアンの話、音楽のコードの話、ふたりの昔を思い出す話。
主人公は音楽で一応食べているけれどやめようかと悩んでいる。
ひとつひとつのエピソードは脈絡がないようで、物語が進んでいくと何度か同じ話を繰り返しながらつながり意味が編まれていく。ゆっくりのペースを乱さないように。
物悲しい雰囲気を終始保ちながら少しだけの希望を持って終わったように思う。特に夢も希望もないけれど、ふたりが一緒にいられそうだという -
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第156回芥川賞候補作
よく聞くラジオ番組で何度か岸政彦さんがゲストだったり、Eテレの「100分で名著」にも講師として出演されていたので、社会学者であるということは知っていた。
そして、大阪愛はもちろん、「人」というものに対する興味や愛情が本当に深い方なんだなぁ、とその熱量の高いトークから感じていたのだが、小説はまた違った趣きだった。
読み始めてすぐ、なぜか柳美里さんの「JR上野公園口」が思い浮かんだ。
私自身は、大阪という街をあまり知らないので、この小説の舞台が大阪のどんな所なのかは、読んで受けたイメージしかない。
ゴミの吹き溜まりの少しすえた匂いのするような、寂れかけた一角に暮ら