大阪・大正区に生まれ、市岡高校から大阪府立大に進んだバリバリの大阪っ子なのにいまは東京に住む柴崎友香氏、名古屋から関西大学を卒業したあと大阪に住み着いた岸政彦氏。この二人が語る大阪、ただし、それは古き良き日の大阪であって、いまの大阪ではない。
二十年ほど歳が離れているのと、同じ大阪市内でも住んだ地域
...続きを読むが違うので、この本で描かれている大阪は、わたしの記憶とは少し異なるところがある。それでも二人の描く世界は、まだ東京とはまた異なる文化を持っていた大阪を感じさせるものがあって、それも楽しく読める。
同窓会に行って大阪弁を喋っているつもりでも、「ちょっと違う」と言われてしまう。そうだろうなぁ、18で大阪を離れて、もう50年以上経ってしまった。子供の頃、ローラースケートをして遊んでいた心斎橋筋商店街の大丸・そごう前、そごうの再築は行ったことがあるが、大丸は解体されたところしか見ていない。「都構想」とか騒げば騒ぐほど、大阪の没落はなおさらひどくなっている。
柴崎さん。岸さんがともに懐かしむ小さな商店は、なまじ出来のいい子は東京の学校に行き、そのまま帰ってこない。親も先行きが明るくない家業を継がせはしない。東京以外の「その他」は、柴崎さんも書いているように、そして彼女自身もそうであるように、生まれた地・大阪を捨てるしかない。若くてお金があれば、とにかく楽しい東京に向かう、年老いてお金がない者には非情な街であることもわからず。
しかし、この本、「文藝」の連載をまとめたものらしいが、大阪に縁もゆかりもない読者は楽しめるのだろうか?