30代、バツイチ、子供あり、大酒飲み、タフ、捜査一課検挙率1位、犯人射殺2回、無駄に美人、雪平夏見シリーズの第二弾「アンフェアな月」。1作目の「推理小説」が面白かったのでこれも読んでみた。これも面白い。映像を観るようにテンポが速く、さくさくと読める。
生後3ヶ月の赤ちゃんが誘拐された。半狂乱の母親。前の事件で犯人を射殺した翌日、男性に拒否反応を見せる母親への対応人員として雪平は駆り出される。犯人の要求の意味は?話の相手に雪平を指名してくる犯人の狙いは?
誘拐犯は誰なのか?赤ちゃんは無事なのか。さらに見つかる6人の少女の遺体。同一犯によるものなのか。そもそもこの事件、どうなっているのか。
雪平刑事のかっこよさはなんだろう。正義の人というわけではない。人間的にはつかみどころがなく結果を出す職業人として優秀だが組織人としては失格である。昔風に言えば一匹狼。犯人を捕まえるためには何物も厭わない。そのために自分が殺されても構わないと考えている。その潔さがカッコいいのだろう。ただ犯人逮捕という結果だけを求めてブレずにとことん突き進む。組織に属していながら組織に縛られず高い実力を発揮するというのは世の公務員やサラリーマンの永遠の憧れ。昔からある伝統的な美学だ。しかしながら雪平自身は幸せなわけじゃない。娘との関係はうまくいかないし、周囲との関係も言うまでもない。そこがまた判官びいきの古い日本人の琴線に触れるのだろう。
雪平の別れた夫が出てきて、初々しかった馴れ初めを回想する。雪平がどうしてこのような人間になったのか、の説明が始まるのかもしれないが、個人的にはそれは不要だと思う。その人がこのような人になった理由は…などと簡単に説明できるほど現実は単純ではない。お話としては単純化された説明でも良いのかもしれないが、どうもね。そんなことで共感したいわけではなく、むしろそんなことよりその個性を思い切り爆発させて欲しいのだ。