浅倉久志のレビュー一覧
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SFの長編小説をがっつり読んだのはたぶん初めてだったけれど、おもしろくてするする読めた。今までちょっと避けがちだったのがもったいないと思ったくらい。
ディックはブレードランナーの原作者として有名だけど(『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)、このユービックの方がディック初心者向きらしい。
SFってパキっと明るいものだとちょっと思ってたけど(思い込みだらけ。。。)、ディック特有なのかは分からないけれど退廃的な印象も強かった。特に中盤あたりのゆるーい絶望感。それがSFと絡み合うと絶妙なんだということを初めて知った。
物語としては、SFだしきちんと読み進めないと途中で分からなくなる系統だと思う -
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あらゆる仕事が機械化された時代が背景の小説。(もはやそんなに遠い未来のことでもなさそうだ。)バーもすべてが機械化されて回転寿し屋のように酒が回ってたりする。オープンしたての頃はその目新しさで話題を呼び、大盛況となったのだが、すぐにつぶれてしまう。その数ブロック先に、生身の人間がカウンター内に立ち、ジュークボックスが置かれているバーがあったのだ。結局はみんなそこへ帰っていった。
そしてここから革命が生まれることになる。この酒場の描写箇所だけはこれがいつの時代だといっても通じる。外へ出れば、未来世紀ブラジルなんですけれど。人間が集まる場は人間を求める。酒場は永遠なんじゃないかと希望を持てた。ただ嬉 -
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ヴォネガットの作品は皮肉と温情の闇鍋である。ある部分だけをつまみ出せば、それはあまりに口汚い世間への罵りであり、またある部分を切り取れば、まるで宗教の説話のような訓辞になっている。しかし全体として作品を見れば、どうしようもなくひどい世界でも愛してやまない作者の理想主義である。
この『デッドアイ・ディック』でも、ライフル銃で妊婦を撃ち殺してしまった少年の人生を、かばい立てすることなくえがいいている。兵器、銃器というものは、使用者の善意・悪意・無為を問わず、使用すれば人を傷つける他はない。中性子爆弾にしてもそうである。見かけがきれいに残っていれば、それは破壊ではないのか。居抜きで占領者が殺戮後の都 -
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トラウトとヴォネガットのグランドフィナーレを飾る、ヴォネガットの最後の長編小説。
タイムクエイクとは、過去十年をリプレイする現象だ。
これまで過ごしてきた十年間を、自分の意思とは無関係にやり直さなければならない。
あのときの事故を防ぐことも、あのときの失敗を防ぐことも、あのときの失言を取り消すこともできない。
皆一様に、自らのたどってきた、愚かしくも誇り高き十年をなぞる羽目に陥る。
ところが、リプレイ終了と同時に、自分の意思で行動をしなければならない。
何にも考えずに行動してきたのに、ある瞬間を境に、「自由意志」のスイッチが入る。
そうすると、人はどうなるか。たとえば、動く歩道に乗って移動を -
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副題は「または、もう孤独じゃない!」。ヴォネガット1976年の作品。
ここでのテーマは拡大家族。そう、ヴォネガットが生涯テーマにした「拡大家族計画」だ。
「スラップスティック」は、設定も展開も登場人物も、なにもかもがハチャメチャで奇想天外。
特に、主役のスウェイン医師と姉のイライザとの「お祭り騒ぎ」のくだりは爽快そのものだ。
この爽快感がヴォネガットらしさなんだなぁ。
テーマ的としては、「猫のゆりかご」でヴォネガットが提唱したボコノン教をうんと推し進め、
現実的にしたもののように感じた。
人びとをカラースで分類した代わりに、「スラップスティック」ではミドルネームを政府が発行し、
無数のいと -
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後期ヴォネガットの代表作のひとつといっていい。
ヴォネガットらしさに満ちて、構成もうまい。
「ローズウォーターさん」同様に、ここでのテーマは「金」。
ヴォネガットは、金や富をファンタジーとして扱う。
金持ちは、金を用いて富を分配することで世の中をよくしたり、
人々を救うことができると真剣に考えている。
違うのは、エリオット・ローズウォーターは幸せだったが、
「ジェイルバード」のメアリー・キャスリーンはそうとは言い切れなかった、
といった差だけ。彼らは資本主義社会のファンタジーであり、魔法使いなんだな。
「ジェイルバード」では、本人の意向や思惑を大きくそれて、誤解の上に待ち受ける、
思いがけな -
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ヴォネガット初の長編小説。1952年。
500ページ近くあり、かなり長いが、やはりヴォネガットは長編がいい。
最初の長編ということもあり、いつものノリとはちょっと違う。
まず、なんと言っても時系列順に物語が進んでいる。これはヴォネガット的に珍しい。
それから、トラルファマドール星人もキルゴア・トラウトもいない。
あんまりイカレた人は出てこない。しかしながら、「イリアム」という地名が登場する。
この先何度も出てくるこの地名、わたしは実在の都市だとばかり思っていたら、
架空なんだそうな。うーん、やられた。
そんなオーソドックスな手法で書かれたこの作品だが、
中盤くらいからだんだん箍が外れてくるの -
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「デッドアイ・ディック」の主役は銃であり、ドラッグであり、中性子爆弾であり、人々の偏見だ。
これらがたくみに物語の中で影響を及ぼしてくる。その主役たちの周りで、
へんてこなダンスを踊らされているのがルディ・ウォールツであり、
ルディの父であり、母であり、兄であり、ドウェイン・フーヴァーとその妻だ。
途中途中にさし挟まれるレシピ、これがまたいい。
そして、人生は演劇だ、ときどき台本までもが登場する。
「デッドアイ・ディック」は「ジェイルバード」のあと、1982年に書かれた小説で、
名前から「ジュニア」が取れた『近年の作品』の範疇に入るのではないかと思うが、
「デッドアイ・ディック」のヴォネガッ -
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エッセイ?小説?よく分からない作品。
本の中心になるストーリーは、時間が突然10年前に逆戻りし、人々はまったく同じ10年間をデジャブの中でリプレイする。それが突然終わった時の混乱で、おなじみのキルゴア・トラウトが活躍する、というものなのだが……。
冒頭で作者は、「老人と海」を引き合いに出してこう説明する。「老人と海」で釣り上げたカジキはヘミングウェイが書いた長編小説のことで、それが鮫に喰われてしまうのは、批評家たちにボロクソにけなされたことの象徴なのだと。
釣り上げた魚は食われる前にバラしてしまえばよかったのだ。
今回、作者は自分の作品が気に入らないので、自分でバラバラにして、いろい -
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創元SF文庫から山形浩生さんの訳、「暗闇のスキャナー」の邦題で出ていた"The Scanner Darkly"を、浅倉久志さんが新訳したのがこのスキャナー・ダークリー。
内容に関しては、ディック後期の傑作ということもあり、色々なところに書かれているので、僕は翻訳の違いに関して感じた事を。
ハヤカワやサンリオの浅倉久志訳でディックの作品に親しんでいた僕は、山形訳の暗闇のスキャナーの翻訳は言葉が少しシャープ過ぎる感じもしていたけれど、今回浅倉訳が出て、改めて読み比べてみると、登場人物のボブ・アークターが壊れてしまった後なんかは、山形さんの訳の方がしっくり来て、アークターが人