浅倉久志のレビュー一覧
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ヴォネガットの作品は皮肉と温情の闇鍋である。ある部分だけをつまみ出せば、それはあまりに口汚い世間への罵りであり、またある部分を切り取れば、まるで宗教の説話のような訓辞になっている。しかし全体として作品を見れば、どうしようもなくひどい世界でも愛してやまない作者の理想主義である。
この『デッドアイ・ディック』でも、ライフル銃で妊婦を撃ち殺してしまった少年の人生を、かばい立てすることなくえがいいている。兵器、銃器というものは、使用者の善意・悪意・無為を問わず、使用すれば人を傷つける他はない。中性子爆弾にしてもそうである。見かけがきれいに残っていれば、それは破壊ではないのか。居抜きで占領者が殺戮後の都 -
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トラウトとヴォネガットのグランドフィナーレを飾る、ヴォネガットの最後の長編小説。
タイムクエイクとは、過去十年をリプレイする現象だ。
これまで過ごしてきた十年間を、自分の意思とは無関係にやり直さなければならない。
あのときの事故を防ぐことも、あのときの失敗を防ぐことも、あのときの失言を取り消すこともできない。
皆一様に、自らのたどってきた、愚かしくも誇り高き十年をなぞる羽目に陥る。
ところが、リプレイ終了と同時に、自分の意思で行動をしなければならない。
何にも考えずに行動してきたのに、ある瞬間を境に、「自由意志」のスイッチが入る。
そうすると、人はどうなるか。たとえば、動く歩道に乗って移動を -
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副題は「または、もう孤独じゃない!」。ヴォネガット1976年の作品。
ここでのテーマは拡大家族。そう、ヴォネガットが生涯テーマにした「拡大家族計画」だ。
「スラップスティック」は、設定も展開も登場人物も、なにもかもがハチャメチャで奇想天外。
特に、主役のスウェイン医師と姉のイライザとの「お祭り騒ぎ」のくだりは爽快そのものだ。
この爽快感がヴォネガットらしさなんだなぁ。
テーマ的としては、「猫のゆりかご」でヴォネガットが提唱したボコノン教をうんと推し進め、
現実的にしたもののように感じた。
人びとをカラースで分類した代わりに、「スラップスティック」ではミドルネームを政府が発行し、
無数のいと -
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後期ヴォネガットの代表作のひとつといっていい。
ヴォネガットらしさに満ちて、構成もうまい。
「ローズウォーターさん」同様に、ここでのテーマは「金」。
ヴォネガットは、金や富をファンタジーとして扱う。
金持ちは、金を用いて富を分配することで世の中をよくしたり、
人々を救うことができると真剣に考えている。
違うのは、エリオット・ローズウォーターは幸せだったが、
「ジェイルバード」のメアリー・キャスリーンはそうとは言い切れなかった、
といった差だけ。彼らは資本主義社会のファンタジーであり、魔法使いなんだな。
「ジェイルバード」では、本人の意向や思惑を大きくそれて、誤解の上に待ち受ける、
思いがけな -
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ヴォネガット初の長編小説。1952年。
500ページ近くあり、かなり長いが、やはりヴォネガットは長編がいい。
最初の長編ということもあり、いつものノリとはちょっと違う。
まず、なんと言っても時系列順に物語が進んでいる。これはヴォネガット的に珍しい。
それから、トラルファマドール星人もキルゴア・トラウトもいない。
あんまりイカレた人は出てこない。しかしながら、「イリアム」という地名が登場する。
この先何度も出てくるこの地名、わたしは実在の都市だとばかり思っていたら、
架空なんだそうな。うーん、やられた。
そんなオーソドックスな手法で書かれたこの作品だが、
中盤くらいからだんだん箍が外れてくるの -
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「デッドアイ・ディック」の主役は銃であり、ドラッグであり、中性子爆弾であり、人々の偏見だ。
これらがたくみに物語の中で影響を及ぼしてくる。その主役たちの周りで、
へんてこなダンスを踊らされているのがルディ・ウォールツであり、
ルディの父であり、母であり、兄であり、ドウェイン・フーヴァーとその妻だ。
途中途中にさし挟まれるレシピ、これがまたいい。
そして、人生は演劇だ、ときどき台本までもが登場する。
「デッドアイ・ディック」は「ジェイルバード」のあと、1982年に書かれた小説で、
名前から「ジュニア」が取れた『近年の作品』の範疇に入るのではないかと思うが、
「デッドアイ・ディック」のヴォネガッ -
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エッセイ?小説?よく分からない作品。
本の中心になるストーリーは、時間が突然10年前に逆戻りし、人々はまったく同じ10年間をデジャブの中でリプレイする。それが突然終わった時の混乱で、おなじみのキルゴア・トラウトが活躍する、というものなのだが……。
冒頭で作者は、「老人と海」を引き合いに出してこう説明する。「老人と海」で釣り上げたカジキはヘミングウェイが書いた長編小説のことで、それが鮫に喰われてしまうのは、批評家たちにボロクソにけなされたことの象徴なのだと。
釣り上げた魚は食われる前にバラしてしまえばよかったのだ。
今回、作者は自分の作品が気に入らないので、自分でバラバラにして、いろい -
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創元SF文庫から山形浩生さんの訳、「暗闇のスキャナー」の邦題で出ていた"The Scanner Darkly"を、浅倉久志さんが新訳したのがこのスキャナー・ダークリー。
内容に関しては、ディック後期の傑作ということもあり、色々なところに書かれているので、僕は翻訳の違いに関して感じた事を。
ハヤカワやサンリオの浅倉久志訳でディックの作品に親しんでいた僕は、山形訳の暗闇のスキャナーの翻訳は言葉が少しシャープ過ぎる感じもしていたけれど、今回浅倉訳が出て、改めて読み比べてみると、登場人物のボブ・アークターが壊れてしまった後なんかは、山形さんの訳の方がしっくり来て、アークターが人 -
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電気羊に次ぐ2作目。電気羊が人間か、アンドロイドか?の曖昧な境界を攻めた作品とするとユービックは現実か、虚構か?という非常に入り乱れた不思議ワールドで、展開で魅せる作品です。
あらすじのとおり、敵となる予知能力者狩りを行うべく、精鋭の能力者11人を集めて、いざ決戦の地、月面へ!という、まさかのヒーローSFものが序盤で展開されますが、ほぼ戦うことなく(笑)、気づいたら時間が逆戻りする訳の分からない世界の話に急展開されます。
一体この世界は何なんですか?と戸惑いながらも、気づいたら不思議ワールドに引きずり込まれ、先が気になって一気読みでした。
あっと驚く伏線回収とか、衝撃のラストとか、そこまでドラ -
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SFってスケールの大きさとか展開で見せるイメージ。だけど、この作品はどちらかと言えば人間とは?アンドロイドとは?というように内面にスポットが当たっていて、文学作品の一面も強く、そこが魅力的でした。
血が通ってるか分からないような人間が出てきたと思ったら、まるで人間のように心が通ってるアンドロイドが出てきたり、境界が曖昧な世界だからこそ、上記のようなメッセージ性が強くなっていて考えさせられます。
あとは、動物がほぼ生息していない世界なので、動物の所有自体が社会的なステータスになっていたり、人のなかでも優良・不可みたいな格付けがされていたり、そういった設定もユニークで興味深かったです。
この作品の