カリン・スローターのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
カリン・スローター作品群は、第一期のグラント郡、第二期の捜査官ウィル・トレントの二本のシリーズとそれ以外の独立作品に分類される。本書は第一期の過去シリーズのグラント郡第三作の本邦初翻訳作品である。
昨年一二期を合体させたミステリー大作『スクリーム』によって、現在のウィルシリーズと過去のグラント郡シリーズが一つになった。二つの時代を股にかける連続殺人事件の存在が明らかとなり、現在と過去が交互に語られる合体作が奇跡のように実現したのである。日本の読者はそれを体験した後で、またゆったりと過去シリーズにお目にかかることになったというわけである。
シリーズの現在から過去へと前後の脈略を逆に、翻訳されてしまっているこの状況は、日本人読者にとっても作者にとってもあまり幸福なこととは思えないが、それぞれのシリーズを往来するキャラクターが、歳を取ったり若返ったりするのを勘案しながら、それぞれの成長や変化や過去体験を楽しむというあたりで、ぼくら日本人読者は落ち着くしかないだろう。それもまた楽し、といったところか。
本作は、警察署長ジェフリー・トリヴァーと医師サラ・リントンを主役としたグラント郡シリーズでありながら、同時に一作目以来悲惨な体験を潜り抜けてきた女性警官レナ・アダムスに相当な焦点を当てた作品ともなっている。レナは、本作では驚いたことに前作までの職業であった警察官を退職し、今はグラント工科大学の保安要員として働き出している。その大学こそが、実は本作のほぼ全編に渡る舞台なのである。警察をやめたレナは、警察と協力して事件の真相を探る立場となっている。
まずは大学裏の橋からの男子学生の飛び降り自殺で物語はスタート。そこに駆け付けたサラが偶然同乗させたまま連れて来てしまった妹テッサが刺されて重傷を負う突発事件が発生。さらに翌日には飛び降り自殺の目撃者であった女子学生の死。こうして連鎖的に起こる凶事により、最初の男子学生の自殺も土台から揺らいでゆく。
怪しい人物が学内にも保安部内にも学生寮にも多く登場するに至って、真相は深い闇の底に沈んでゆくかに見える。薬漬けの学生。複雑な人間関係。学生とその両親間の葛藤。
大学組織そのものへの捜査の梃子入れが必要と思われる状況の中、第三、第四の殺人が起こり、さらに事態はもつれにもつれる。保安要員としてその中心軸のような立ち位置を保つレナと、捜査の先頭に立つジェフリーとサラ。彼らを取り巻く複雑な人間関係はどこへ向かってゆくのか?
事件とミステリーを中心の物語としながら、シリーズ作品としての人間関係の変化、進展、憶測を語ってゆく作者の目論見が、見事にはまる一作。パトリシア・コーンウェルとも共通する一シーン一シーンの長さが、相変わらずこの作者の特徴であり、ぼくの苦手とするところなのだが、一方で人間関係のディテールへのこだわりは、この手の女性ミステリー作家ならではのものと諦観を決めて楽しむべきだろう。
それにしても最後の最後、意表を突くエンディングには驚いた。この作者、やはり巧い! -
Posted by ブクログ
カリン・スローターの熱心な読者とは言えないのだが、最近はこの売れっ子作家の新刊が出ると、必ず読むという癖がいつの間にかついてしまった。シリーズものには特にそういう強迫観念じみた誘惑が秘められている。
前作までの記憶が大方失わた頃に開くのがシリーズ作品というものなのだが、ページを進めるに従って、その固有な世界、作品の持つ独自の雰囲気は次第に蘇ってくるので、過去作の印象的なシーンを、いくつも思い出させてくれる叙述はいずれ楽しみに変わることだってあるものだ。
このウィル・トレント・シリーズでは、前シリーズ(グラント郡シリーズ)のヒロインであったサラ・リントンが、警察医としてレギュラー化しているばかりか、ウィル・トレントとの恋人関係にある。グラント郡シリーズは日本での邦訳も復活、さらにウィル・シリーズと並行して読者に過去作品が現在順次提供されている。異例の形だが、それだけシリーズ人気が高まり、本書のように過去作との繋がりなしには現在作品も十分には楽しめない、という環境を作者はしっかりと整えているからだ。
さて、本書。700ページ超。この分厚い一冊は、実は過去シリーズから現在シリーズまでをまたいだ連続殺人事件を物語る一冊だ。かつてグラント郡シリーズでサラ・リントンの夫であった警察署長ジェフリー・トリヴァーが解決したはずの事件が、誤認逮捕の疑いも含めて、現在の連続殺人と結びついてしまう異例のストーリー展開なのである。
両シリーズの読者なら、まさに飛びつきたくなるような一冊である。サラがシリーズを繋ぐ事件、そしてサラという女性の二つのシリーズでの経歴、という二種類のフィルターを通し、ジェフリーとウィルという過去と現在の二人のヒーロー捜査官の個性を改めて表現しつつ、未だ邦訳で語られていないグラント郡シリーズの終わり方、ジェフリーのその後のこと等、事実上ネタバレとなっている。この先、グラント郡を読み続けようという読者にとっては今に始まったことではないが、出版の順序が変わる影響は翻訳小説の場合、読者側の本意ではないながら、避けられないところと言うしかない。
本書では、例によって、残酷な殺人が取り上げられるのだが、相変わらず怖いくらいの殺しの方法がのっけから示され、解決済みのはずの同種のおびただしい殺人件数と、実は現在も続いている連続殺人の類似性とが、徐々に示されるにつれ、徐々に高まってくる真偽の逆転の可能性がミステリーとしての読みどころである。
当然、サラの眼から見た現在と過去、ジェフリーとウィルとの個性の差、サラ自身の経験による変化・成長ぶりなどなど、女性小説ならではの読みどころともなっているように思う。二つのシリーズの読者のどちらともを引きつけざるを得ない、シリーズ中とても重要な転機となる作品なのである。
前作がとてもアクションに満ちた派手なストーリーだったのに比べ、本作は主要キャラクターの歴史や変化に触れつつ、現在進行形のシリーズにさらに厚みをもたらす趣向の書きっぷりとなっている。カリン・スローター読者ならこれを見逃す手はないし、新しい読者の方は、本書を機に両シリーズを追いかけてみるきっかけにして頂いてもよいかと思う。
ぼくは、どちらのシリーズとも次作が楽しみでならない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ上巻で被害女性達に共通すると思われる摂食障害に辿り着いたウィルとフェイス。
調べを進めるうちに、次第に犯人の足跡も見え隠れし始め怪しい人物も浮上。
第一被害者アナの自宅を捜査中に発見された幼児をめぐる関係者の傍若無人ぶりに見せたウィルの暴力性。
シリーズ通して暗躍するとされている妻アンジーにことごとく手玉にとられるウィル。
普段は平静な態度を崩さないウィルの内面の葛藤、底深さが垣間見え、さらにぐっと興味が引き立てられた。
物語には、あまりフーダニット的なことは考えていなかったこともあるが、真相に対する目くらましにもしてやられた。
答えはそこにあったのね。。
全体として、事件の残虐性が好みの分かれるところだとは思うが、とにかくウィル、フェイス、サラそしてなによりアンジーのキャラがとても立った物語展開で面白い。
続き読みます。 -
Posted by ブクログ
カリン・スローターのデビュー2作目。
2001年のデビュー作はほどなく翻訳されたのですが、このシリーズはその後なぜかすっ飛ばされ、ウィル・トレントのシリーズはじめ他の作品が何作も翻訳されていました。
人気が確実になったので、こちらも発行することになったのなら嬉しい。
医師サラ・リントンが主人公のグラント郡シリーズで、6作あるのです。
サラは診療所で働く小児科医で、郡の検死官も兼ねている。
優秀な女性で長身の赤毛、かなりの美人ですが、まじめさが勝ってそれほど目立たない、というか自分では目立たないと思っている。
警察署長のジェフリー・トリヴァーと結婚したが1作目では離婚していて、2作目では復縁しかかってます。
ジェフリーは、勉強もスポーツも出来て、顔も体格もいい学園のヒーロータイプ。2作目では意外と育ちには恵まれていなかったことが明かされます。
などと書いていると、けっこう平和にも思えそうだけど‥
カリン・スローターの名前には前から気づいていたけど、読み始めたのは最近のこと。
残酷な事件の凄惨な描写に定評があるから(笑)
ミステリに慣れていない人にはお勧めできません…が、ただの残酷趣味とかセンセーショナリズムで描かれているわけじゃないですよ。
実際にこれほどの事件も起きていないとは言えない現実があり、そういう被害者(主に女性)の苦しみがどれほどのものかということや、極限で発揮される勇気や真実に迫りたい意図もある印象です。
サラとジェフリーがデートしていた日、ジェニーという少女が少年を銃で狙う事件が起きます。
説得に応じないため、やむなくジェフリーが銃を向けることに。
ジェニーはサラの患者の一人だったので、サラは衝撃を受けます。しかも、ジェニーの遺体には思いもよらない傷痕が‥!
当初想像されたのとは違う方向へ、事件は複雑化していきます。
ジェフリーの部下のレナ・アダムズも重要な登場人物。
1作目の事件で過酷な体験をしたレナはまだ不安定。この時点では、傍迷惑な乱れっぷりでも、まったく責められない。よく頑張りぬいたという状況なのだが‥
シリーズ通して癖が強いトラブルメーカーなため、今一つ同情できないものがあったりして。
しかし、水と油なサラとレナの葛藤は、リアリティがあります。
サラは優しい女性で、すでに2回事件で被害に遭っているけど、まだまだ若く感情的、回復力はありますね。
ずっと後まで描かれている他の作品を読んでいるので、ミッシング・リンクが繋がることに期待!しています。
原著は2003年発行。