中谷友紀子のレビュー一覧
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ネタバレ数十年も前の未解決に終わった女性失踪事件に取りつかれ、書類を家に持ち帰り事件の細部を日夜見直す警部ヴィスティング。
流れゆく歳月の中で、被害者の夫であるハウゲンとは交友を深め毎年事件のあった日には言わずもがな集い、想いを馳せる習慣すら生まれている。
だが、今年に限ってハウゲンを訪れると不在。
そんなとき、また別の未解決事件の新たな証拠が見つかりその容疑者として浮上したのがハウゲンだった。
クリポス(国家犯罪捜査局)からの協力要請を受け、ハウゲンに探りを入れることに半ば強引に同意させられたヴィスティングだが、肝心のハウゲンは所在不明。
容疑者不在の真相を追いかけるのかと思いきやあっけなく帰還。ヴィスティングとハウゲンの交友は実は疑いを礎に築かれていたと知らされるワンシーン。序盤から中々の引き込みっぷり。
容疑を裏付ける事実が徐々に固まり、自白を引き出そうとするヴィスティングとハウゲンの間の緊張感の高まりも読みどころ。 -
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傑作ですね。評判通り。
たっぷり怖いです。腐臭もカビ臭さも不穏さもムシのガサガサ感もしっかり味わえます。イギリスの田舎が舞台ですので、ゴシックとまではいかないですけど現代のやさぐれ感のバックキャストに土地の呪いが浮かび上がる語り口は上手い。
そして綺麗な回収に謎解き。くわえて敢えて解かない「遊び」としてのオカルト部分の配分が超絶妙。ぱっきりと合理的に説明されちゃうのが欲しいなら横溝正史を読めばいい。このハイブリッドな読書感が本作の1番の魅力でしょう。油断してるとびっくりするくらいの騙しに遭ってるし。
僕にとって最も味わい深かったのはハードボイルド要素ですね。主人公はギャンブル依存症で作った借金のせいで逃亡している男性英語教師。亡くした妹への愛や惜別の情、いじめられっ子の生徒への優しさや正義感を見せながらも、だらしないところや決して誠実と言えない自分の性格を自虐する一人称は素晴らしく魅力的。散々自分のことを「嘘つき」と貶めるその態度が最後までこの作品のテーマでもあります。
酒飲みらしい作者の嗜好からか、華美ではないけども飲み食いのシーンがとてもよく描けているところも好きです。全編を通して居心地の良い瞬間はほとんどないのですけど、それでも同僚の女性教師ベスとのパブでのシーンは数少ないほっこりする場面のひとつ。このベスとの距離感がまた主人公の内向きの食えなさを表現していることに終盤気付かされるのだけど、なんだろうこの全方位に神経張り巡らせたペンの行き届き方!
読んでるうちに3回くらいジャンルが変わるような本です。それも静かに気付かないうちに。あまり枠にはめて理解しようと躍起になって読まないほうがいいでしょう。怖くて気持ちの悪い世界に漂っていると、とんでもないものに足を掴まれていた、そんな感覚を楽しめる小説です。 -
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第二次世界大戦下のニューヨーク。エディ・ケリガンは一時、デューセンバーグを乗り回すほど、羽振りを利かせていたが、株の大暴落があってからは、すっかり落ち目に。今は養護院仲間で港湾労働組合委員長のダネレンに雇われ、裏金の運び屋稼業で辛うじて家族を養っている。難病で寝たきりの娘に車椅子を買ってやりたい一心で、十二歳の姉アナを連れ、アイルランド系と角逐するイタリア系のギャング、デクスター・スタイルズの邸を訪れる。
デクスターは十六歳の頃、父に内緒でギャングの陰のボス、ミスター・Qの下で働き始めた。禁酒法時代は田舎道を高級車で走り、法を破る快感に酔いしれた。禁酒法時代が終わるのを予見したデクスターは、儲けた金をナイト・クラブ経営に回し、今では複数のクラブを経営するまでになっている。妻は金融業界の大物の娘で、義父にも能力を認められている。デクスターの次の狙いは戦時公債を安値で買い、その金を元手に表の金融業界に浮かび上がることだった。
十九歳になったアナ・ケリガンは父にくっついて、マンハッタン・ビーチに建つデクスターの邸を訪れたことを覚えていた。その父は五年前に家を出たきり帰ってこなかった。かなりの金を残していったが、病気の妹がいては大学は諦めるしかなかった。海軍工廠で戦艦ミズーリの部品検査をしていたアナは、ある日、はしけで訓練中の潜水士に目を留める。潜水士の募集を知り、上司に頼み込みテストを受ける。ところが、合格したアナをアクセル大尉は潜水士として認めなかった。女に潜水士は無理、というのだ。
美人ではないが人を惹きつける、アナが魅力的に描かれる。母とその姉のブリアンはかつてフォーリーズで踊っていたダンサー。父も舞台に立っていたというから、人目を引くのは血筋か。物怖じしない態度に初めは、反発を感じる上司も、次第にアナのことが好きになる。もちろん、同僚の男たちははじめからアナの味方だ。しかし、アナが魅かれたのは、デクスター・スタイルズだった。アナは、デクスターの運転するキャデラックに妹を乗せ、海に連れ出す。
小道具の使い方が粋だ。はじめてデクスターの邸に行った日、父が手土産に持たされたのが、真っ赤に熟れたトマト。そのトマトが、デクスターが戦時公債ビジネスの話をするため訪れたミスター・Qの家で再び登場する。あの日、エディはミスター・Qに引き合わされていたのだ、とここで分かる仕掛けだ。だとすれば、エディの失踪がギャング絡みであることも分かってくる。エディとデクスターの間にどんな経緯があるのか。
子どもの頃、カード・ゲームの相手をしていた老人から、いかさまだけはするな、と言い聞かされ、その手口を見破る方法を教わったエディ。賭場で誰がどのようにいかさまをやっているか、手にとるように分かる。それを武器に、デクスターの上がりを掠め取っている輩を監視する仕事を手に入れる。エディの仕事ぶりにデクスターは惚れこみ、仕事は順調だったが、他人の目と耳となって働くことでエディは自分を見失いつつあった。そんな時、養護院仲間で今は犯罪組織を捜査しているバートと再会する。
禁酒法時代を切り抜けたデクスターは、権力を持ち、他人を支配できるようになった。しかし、所詮裏稼業の成功者でしかなかった。そんな彼は、大統領ともつきあいのある表の世界の成功者である義父のアーサーを尊敬していた。デクスターは、戦時公債を大量に買い、国家に貢献することで、金融業界に仲間入りしたいと相談するが、義父の答えはにべもなかった。能力は認めても、同じ場所には入れない、ということだ。
妻や子ども愛する良き夫で、人に抜きんでる度胸と才覚を持ちながら、スタート地点を過ったがために、戦時国債でどれだけ国のために尽くしても、ギャング上がりはギャング上がり。どこまで行っても日の目を見ることがない。WASP(ホワイト・アングロ-サクソン・プロテスタント)の牛耳るアメリカで、イタリア系やアイルランド系がのし上がるのがいかに難しいか。このデクスター・スタイルズの境涯がなんとも切ない。
優れた能力と意志力を持ちながら、出自や運、ジェンダーの壁に阻まれ、今いる状況から脱出しようと懸命にもがく三人の男女の交錯する運命をスタイリッシュに描く。憂いを帯びた本格的なノワールであり、海の男の闘いと友情を描く海洋冒険小説であり、時代に先駆け、男の職場に生きる道を切り拓く勇気ある女性の物語でもある。普通だったら、纏まりそうもない趣きの異なる物語を、巧妙に張り巡らされた伏線、綿密なプロット、脇役にまで細部にこだわった魅力的な人物造形を駆使して纏め上げた作者の力業に脱帽。これはお勧め。 -
Posted by ブクログ
ギリアン・フリンの第2作。新刊コーナーに並んでいたので新刊かと思い、購入したのだが、『ダーク・プレイス』というタイトルで映画化されたことを機に増刷され、映画宣伝用にオーバーカバーされた文庫だった。未読作だったので良かったのだが。
一家惨殺事件の唯一の生き残りのリビー・デイが25年後に有名事件の真相を語り合う『殺人クラブ』に招かれたことから、事件の真実に辿り着くというミステリー・サスペンス小説である。
現在と過去が交互に描かれ、当時の事件関係者を巡るうちに一つずつ複雑に絡まった糸がほぐれていく過程が面白い。しかし、登場人物の全てが脛に傷を持つ、屑ばかりで、読んでいて良い気はしない。一種のイヤミスという感じの小説。