2014年に発表された日本のSF短篇アンソロジー。素直な作品から実験的なものまで個性的な作品が揃っている。巻末の解説で2014年のSFの概況をまとめているので、これから読む作品を選ぶのに参考になる。なお、本書で個人的に好きなのは、「φ」が圧倒的によかった。他には、「猿が出る」「雷鳴」「スピアボーイ」「薄ければ薄いほど」といったところ。
以下、各作品の感想。
◎10万人のテリー(長谷敏司)
カードゲーム(マジック・ザ・ギャザリングやデュエルマスター、バトルスピリッツなど)を少しは知ってないと楽しめないかも。私は知っていたので楽しく読めた。囲碁や将棋の次はカードバトルでAIが活躍するのは現実の延長線上にあると思う。
◎猿が出る(下永聖高)
面白い。多重人格ものかと思いきや、どちらかというと生物の神秘に触れた作品と言った方がいいかもしれない。それとも輪廻転生ものか。
◎雷鳴(星野 之宣)
巨大な恐竜がどのように活動していたのか、その体重をどのように扱っていたのか、納得する理由を説明してくれるマンガ。恐竜が鳥の祖先である説があるので、このような体の作りであることが納得する。非常に面白い。
◎折り紙衛星の伝説(理山 貞二)
物語の風景は頭の中に浮かんでくるのだが、だから何? という感想。辛口かもしれないが、オチがないのである。もしくは、私がオチに気づかないのである。
◎スピアボーイ(草上 仁)
西部劇風のエンタテインメント小説です。理屈なんかいらない。スピアを操る老齢なスピア乗りと血気盛んな若いやつとの決闘シーンなど、ただ楽しむのみ。
◎φ(円城 塔)
円城塔さんの作品にしては読みやすいなと思っていたら、この作品での本当の意味、実験内容に気がついたのは、一段落の長さが一行を切ってからだった。実験内容に気がついた時、冒頭まで文章を遡った。震えた。なんだこれは! 実験までして内容が面白いなんて、ずるいよ。
◎再生(堀 晃)
手術という非日常を見事に表現した作品。私も手術の経験があり、やはり非日常を感じた。一方で病院側はというと手術は日常なので、何の特別感もなく手術は終わった。分かるよこの感じ。
◎ホーム列車(田丸 雅智)
意外な始まりに意外な結末。ものすごく短い作品だが、きっちりと楽しませてくれる。面白い。
◎薄ければ薄いほど(宮内 悠介)
最後の一行に胸を打たれた。ホスピスという人間の死が日常にある舞台で物語を展開するのは、ある意味卑怯である。誰もが自分や肉親について考えさせられるから。でも、良い意味で言ってます。SFの要素よりミステリの方が強いけれど、胸に響く作品です。
◎教室(矢部 嵩)
食事中に読んでしまった。後悔。
◎一蓮托掌 R・×・ラ×ァ×ィ(伴名 練)
ラファティをほとんど読んだことがないので、この作品の面白さを味わえなかった。奇想天外な物語であることは分かったが、そこまで。ラファティ作品を読んだことがある人はきっと楽しめるのだろう。
◎緊急自爆装置(三崎 亜記)
こんな恐ろしい装置をよく想像できたなというのが正直な感想。あまりにも死が軽く扱われていて気持ちが悪い。作品としては悪くないし、アイデアもいい。でも納得してはいけない気がする。
◎加奈の失踪(諸星 大二郎)
実験マンガ。途中で不自然な台詞があるなと思っていたら、なるほどそういうことかと納得。内容が面白いかどうかは問わない。
◎「恐怖の谷」から「恍惚の峰」へ〜その政策的応用(遠藤 慎一)
シンギュラリティ後の人間がAIに対する印象を研究した架空の論文である。リアリティを増す効果はあったと思う。
◎わたしを数える(高島 雄哉)
舞台は怪談だが恐くはない。突飛な世界でおこる“数える”という行為は、時たまついていけなくなることもあったが、楽しめた。
◎イージー・エスケープ(オキシ タケヒコ)
静かに始まり大きく終わる。とてもSFっぽい作品。本格的だが気軽に読める。ハードSFとして読むと、いろいろ突っ込みたくなる部分もあるので、物語として素直に読むのがいいと思う。
◎環刑錮(酉島 伝法)
悲しい物語なのだが、主人公がミミズのような生き物だと思うと、個人的にはあまり好きではない設定である。物語としては面白いので、映像ではなくてよかった、小説として(文字として)楽しめたのは自分にとってよかった。挿し絵があったけど、そこは我慢した。
◎神々の歩法 (宮澤伊織)
第六回創元SF短編賞受賞作として収録されている。作品自体はラノベチックなところ(ニーナのキャラ設定であるなど)もあるが、普通に楽しめる作品である。続編も期待できる。物語の展開が想像の範囲であるので、読後の驚き範囲少ない。