速水螺旋人のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
戦争しても戦争しても、なお戦争を止めないこの人間の世界に訴えかけるものがあります。
描かれているのが独ソ戦ということもあり、現在のウクライナ情勢と重なります。酷な内容ながらも知っておかなければならない、同じ地球での惨状に胸が痛みつつ、ページをめくる手は止まりませんでした。
本書はコミックなので手に取りやすいし、状況や内容がわかりやすかったですしね。
自由がないどころか、殺戮が仕事という戦時下の異常さ。
ショックだったのが、毎月の生理に対して、男性の将校たちはまったく理解がないこと。
彼女たちが歩いた後、経血がポタポタ落ちてしまったあとが残るんです。
下着の用意もしてもらえず、血が乾いた軍服はガラスのようになり、当たる部分が切れたりすれたりして傷になる。
川を見つけると、弾丸が危険だろうとも、群れをなしてザブザブ入っていくそのシーンが衝撃的でした。
原作のレクシエーヴィチさんは2015年、ノーベル文学賞を受賞されています。
世界中の学校で、教材として取り入れてほしい作品です。 -
Posted by ブクログ
スラヴ・北欧文化圏ベースの話から日中戦争従軍兵と妖怪、機械と超常が融合したファンタジーなどなどバラエティ豊かな短編作品集。
『男爵にふさわしい銀河旅行』にハマって以来、やっぱり絵のタッチが好きだし、画面のわらわらドヤドヤ感とか埃っぽさとか速水先生が描く架空のノスタルジックな空間の読み心地が最高。
元ネタ・モチーフがいまいちわからない部分もあるけどそこはご愛嬌。
以下、好きなエピソードをいくつか。
〈総選挙の魔女〉…現代社会に生きる魔女の活動を描いた話。ただし、主人公の〈花柄たまら〉はグルジア系ルーマニア人で見た目がそれっぽいからと担ぎ上げられた偽物。エセ魔術で選挙戦を有利に進める内に対抗勢力が本物の魔女を投入してきて…という話。ジョージアの旧国名は「サカルトヴェロ民主共和国」と言うんですね。全く知りませんでした。コーカサス史はほとんどわからん。
〈勇者は如何にして心配するのを止めてコロナウイルスを愛するようになったか〉…コロナ禍の日本に生きる、かつて魔王を倒した元・勇者一行のゆるい日常。コロナ禍生活も先生の手にかかればこんな風にアレンジされるのね。確かに、いっときイソジンが効くとか色々ありましたね。彼らの作るポーションはちゃんと効果があるのでしょうが、見た目が豚汁ではちょっと。それに、なぜよりによって公園で炊き出し風に売り出したのか。
〈わからず屋〉…これ好き!’なんだかわからないものを売っているわからず屋’という店に、ある日’なんでもわかる男’が現れる。男は次々と売り物を鑑定してしまい、やがて…という話。先生が時々やる、さらっと早送りで地球を救ったりしてる小ボケについ引っかかっちゃう。
〈フセスラフ人狼公の花嫁〉…調べてびっくり、11世紀ルーシに実在したというリューリク朝の大公〈フセスラフ〉を題材にした話。「人狼公」というのは『イーゴリ公物語』に’フセスラフは夜半になると狼に化けて駆け回り、月食を引き起こしたりした’(超意訳)と記されている事によるか。花嫁候補のふたり、というかひとりと一匹が可愛い。なぜに関西弁?妖術の正体は’畏れ’というのはよく聞く話。
先生の引き出しの多さに吃驚。現代劇もSFも好きだけど、世界史題材のお話とかもっと読みたい。先生の可愛い絵柄ならイナルチュクの例のシーンすらコミカルに描けると思うので、是非「速水螺旋人風・元朝秘史」とか読みたいなあ。
1刷
2023.6.24 -
Posted by ブクログ
ネタバレ第二次世界大戦時のロシアの女性兵士の証言文学を原作とした漫画の第4巻。
恋は戦時中の唯一の個人的な出来事であり誰もが率直には語りたがらなかったという話が特に印象に残っている。女性兵士は戦後、従軍しなかった女性からアバズレをみるような侮蔑にさらされたからだ。
たとえば第20話の元女性射撃兵の証言。戦後、共同住宅に住んでいる女性からこう言われる。「戦地ではたくさんの男と寝たんでしょ?」。
戦場は基本的に男の職場である。男たちは女に飢えている。そんな環境に志願していくのは男漁りをするために違いない。そんな偏見をもとに差別されたのが、義憤に燃えて国に精魂を捧げた元女性兵士たちだ。現在よりも潔癖な恋愛観の時代だったことも中傷に拍車をかけたのかもしれない。
このようなやるせない仕打ちを受けては率直に恋愛について語りたがらないのも当然だろう。障害者のうち高齢の人ほど障害を秘匿したがるのに似ている。ハンデが露見したら露骨に差別されるのをリアルタイムで目撃あるいは経験してきたのだから。元女性兵士たちは大戦後、第二の戦争を戦ってきたのだと言えるだろう。
それでも一緒に戦った男が理解してくれればまだいい。元女性射撃兵は復員してきた司令官と結婚するも、1年経って男の方は不倫相手のもとへ出ていった。「彼女は香水の匂いがするんだ 君は軍靴と巻布の臭いだからな」と言って。それ以来彼女は天涯孤独の身として暮らしている。国のために時間と若さを差し出した彼女にいったい何が残ったというのだろう。
以上のように、本書では国家の統制によって戦争が青春にならざるを得なくなった人々──当人たちは自らの意思で志願したと思っている──の悲哀がそこかしこに散りばめられている。
当局に逮捕された家族の返ってこなかった元看護婦、戦時中の極限状況で落ちた恋が今も焼き付いている元衛生指導員、戦争時の悪夢に毎晩襲われる元斥候。
本来は自分の好きなことや好きな人に自身の時間と情熱を向ける権利があるはずだった人々の、誰一人として同じ話のない、歴史に埋もれて残らなかったかもしれない苦悩の合唱がここにはある。
いくら国家に愛と忠節を示しても、国家は彼女たちに報いてはくれなかった。きっと国家にとっては意味があったのだろう。しかしいったい、彼女たちはなんのために戦っていたのだろうか。読み終わったあとはひたすら沈痛の念が胸を渦巻いた。 -
Posted by ブクログ
原作より先に漫画を読んで良かったかもしれない。
少女達は可愛らしい絵柄で読みやすいのだが、『戦場』を書く上ではどれだけの想像力を要しただろう。 特に三巻目が一番衝撃だった。少女達はもちろん、幼い子供達にとっても『戦争』は、決して拭い去れない記憶だ。 何よりも十代の少女達が自分から前線へと志願していく姿(時に男性以上の熱量を持って)、スターリンによる統制教育など、現代で生きる日本人ならなおさら想像し難い。女性が銃を撃つなんて、まず想像できない。『女性』であることの誇りを捨てざるを得なかった戦場で、少女達を突き動かしていたものはいったい何なのか。原作も読まなければ。
戦争は『記録』に遺された正しい事実以上に、『記憶』の中でなお息づく物語の中に見えるものがあると痛感した。
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Posted by ブクログ
当時のソ連にとって、第二次世界大戦は「大祖国戦争」であり母国防衛戦だった。それでも、このような悲惨な話が山のようにある。もちろん、原作でも言及され本書にもあるように、語り部の主観を「あえて」そのまま記録されたもの。それゆえに事実と異なる部分も多いだろうが、個人にかかる心理的圧迫感はより如実に伝わる。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってしまった昨今。今度は祖国防衛戦ではない(がプロバガンダでさもそのように国民には伝えられているらしい)。取材された女性たちのほとんどは恐らく鬼籍に入っているだろうが、このことを知ったらどんな顔をするのだろうか。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ今、ウクライナで起こっていることは、わずか百年もたたない前に他国によって行われていたことだ。
百年も平和が持たない世界。男も女も銃を取り、大統領は核ボタンを押すことをためらわないと語る。
わずか30年前、世界は一つの節目を迎えたソ連邦の解体、ベルリンの壁の崩壊。そして、偉大な研究と言われたEUができた。
長い歴史の中ではまばたきのような一瞬であることが哀しい。
ここに描かれている彼女たちはどう思うのだろう。
『戦争が終わるまで生き延びられたら、戦争の後の人々はどんなに幸せな人だろう!』
『どんなに素晴らしい生活が始まるんだろう』
『こんなに辛い思いをした人たちはお互いをいたわりあう』
『それはもう違う人間になるんだね』
その言葉は焔の中で今も焼かれている。 -
Posted by ブクログ
眉目秀麗文武両道、その名も高きスパロウランド領主ミハルコ男爵の宇宙を股にかけた壮大な大旅行記もこれにて一旦終幕。
最終盤で怒涛のように色々な事が起こり、もろもろ収まるべきところに収まった素晴らしいラスト。
てっきりアースライト姫に会って終了のつもりでいたので、そこからの御都合院を巻き込んだ宇宙の因果を揺るがすなんやかんやが、なんというかもうとっても良かったです。
個人的には第33の冒険の’バスの恋路を助ける’という摩訶不思議な話のセンスが好き。先に断っておくと魚のバスではなくて乗り物のバスの方です。交尾によって子孫を残すのです。
第30の冒険の幻のような余韻もまた良い。
地球から連れて来ちゃった彼は⁇そういえば伯父上は?と気になる部分もあるにはありますが、男爵のバラッドはまだまだ続くのでいずれ何とかなるのでしょう。
男爵同衾記念にまつわる金の板が、いつか地球にも飛来してくる事を祈りつつ本を閉じます。
1刷
2022.2.5