矢野浩三郎のレビュー一覧
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三部作の最終巻。物語の主人公たちは二世代目に。話はイギリスから飛び出てフランス、スペインへを経て再びイギリスへ。数十年にわたる物語は、当初のなぞを明かして完結。ストーリーの初期に姿を消していたウザキャラが、終盤に再登場するも最後はハッピーエンドに至る。イギリスの無政府時代の国内政治の状況が物語の基盤にある。スティーブン王とヘンリー王のいさかいには相当ページを割いている。行政組織が不在ななかで、教会が行政や自治体としての機能を果たすことにも多くの説明がされる。イギリス人ならおそらく誰もが知っている歴史にのっとって進行する話なのだが、そこに関する予備知識が全くないことがもどかしかった。
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(六章)
ウィリアムに襲撃され没落したバーソロミュー家。アリエナと弟のリチャードは王に会うためシャーリングからウィンチェスターへ向かうが、王は別の地にいることを知らされる。次の手段として、父の助言をもらいたく、投獄されている牢屋に会いに行くと そこにいたのは骸骨同然の変わり果てた父だった。そこでリチャードはシャーリング伯になることをアリエナはそれを実現させるため弟を支えることを誓う。父と最後の会見の後、父が金を預けていた修道院を訪れるが、金はほとんど使われていた。金を稼ぐため仕事を探す二人だったが、身分もなく後ろ盾もないため、なかなか見つからず。叔父のサイモンのところにも行くが、匿ってもらえず -
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権謀術数蠢く権力闘争。二転三転する物語。最後は民衆の総意が権力を凌駕して大団円を迎える。
著者が描く登場人物はなんと魅力的なことか。悪の限りを尽くすウィリアム。寛容でありながらも姦淫を許さぬフィリップ。後半の主役であるジャックも天才肌ながら一癖も二癖もある性格で描かれる。癖のある登場人物たちが織り成す出来事が物語に深みを与えている。
当初、時代考証が甘いのではないか?と感じていたが、あとがきにて著者は敢えて先の時代の事柄を盛り込んだ理由に納得した。
それにしても著者はアリエナに厳しすぎる。次から次に悲劇が襲う。もうちょっと優しくしてあげて欲しかった。それに負けないアリエナは、文学史上に残 -
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上中下というボリュームに加えて、中身が濃い! 親子、夫婦、恋人、師弟やライバルなどのぐちゃぐちゃな人間関係に絡むようにして、陰謀、謀略、殺人、破壊、権力闘争に復讐劇などのこてこてのプロットが幾重にも重なってストーリーを肉付けしている。ドラマに目が行くかと思いきや、大聖堂建設にまつわる現場の息遣いや、信仰に対する独自のスタンスなど、ディテールが細かく、内幕モノとしても読める部分が土台を支えているので、全体的にバランスがいい。
ストーリーは潔く展開し、キャラクター造形もわかりやすい。長い物語ではあるが、大まかな流れは、敵対グループの非情な策略を経て、村と人々が着実に成長していくというもの。登場人 -
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綿密な構成と幾多の伏線が張り巡らされた荘厳な物語。大聖堂という一つの象徴を用いて変化のダイナミズムを描く筆力に圧巻させられる。
本作品を読むうえで読者側にもある程度の素養が求められる。まず12世紀のヨーロッパは現代と大きく異なり、暗黒時代を抜けたイタリアのルネサンス前の比較的後進的大地であった。品位と野蛮が交錯する、前近代的な混沌とした時代であった。そうした時代のなか大聖堂建築を夢見る野蛮な建築職人のトム、品位の象徴でありながら残虐なウィリアム、中立的な聖人と人間的危うさを兼ね備える修道院長フィリップスの対比が見事に冴える。国家と修道院で繰り広げられる権謀術数と、それに翻弄されるトムの姿が、