(十二章)
ミサ聖祭の日に大聖堂の天井が崩れ、79人が亡くなる大惨事が起きた。瓦礫の下でアリエナは出産する。大聖堂が崩れた後、町の活気はなくなり、元の寂れた村に戻りつつある。アリエナはジャックを探すため、スペインへ。人に尋ねてまわり、ついに見つけたのはパリのサンドニで。ジャックの父の故郷も見つけ、徐々に真実に近づいていく。
(十三章)
ウィリアム再襲来。リチャードによって悪い知らせがもたらされたキングズブリッジ。森の中へ逃げようかと考えもしたが、選択したのは「戦う」ことだった。しかし、白兵戦では敵わないと悟り、囲壁をつくって対応する。
(十四章)
七年後。凶作によって食物の価格が高騰。修道院の財政状況が再び厳しくなり、大聖堂建立にブレーキがかかる。生活がかかっている石工たちはアルフレッドに伴ってシャーリングに行ってしまった。
(十五章)
無法者(アウトロー)を率いたリチャードとスパイとして城に潜り込んだアリエナの二人によって、ウィリアムから城を奪い返す。
(十六章)
アルフレッド再び来る。アルフレッドがアリエナに暴行を加えようとしているところにリチャードがかけつける、刺殺する。リチャードは罪の償いをするため聖地パレスチナに行くことを決め、リチャードに代わってアリエナが城を統治することに。長い間(十年間)アルフレッドとの離婚が認められなかったが、寡婦となった今、やっとジャックと結婚式を挙げることができた。
(十七章)
十五年後。大聖堂は完成し、キングズブリッジはかつてないほど輝きに満ちている。しかし、ウォールランがまたまた陰謀を企む。ジョナサン(トムの息子)はフィリップの子どもではないかと疑い、フィリップを裁判にかけた。このピンチにフィリップを毛嫌いしていた二人、エリンとリミジアスが真実を証言する。
(十八章)
国王から手紙がとどく。その内容は「ウォールランをリンカンの新司教に推薦し、キングズブリッジの新司教にこれまたフィリップの敵である人物を推薦する」というものであった。この最悪の人選を阻止すべく、フィリップはフランスのトマス大司教を訪ねる。このとき、トマスはヘンリー王と対立しており、ウィリアムを含む暗殺団に殺されてしまう。イングランドじゅうの町や村でトマスの「殉教」を語りきかせようとフィリップらは立ち上がる。
大聖堂完成のシーンを描いてほしかったのだが、いつの間にか完成していて残念。
ウォールラン、ウィリアム、アルフレッドの「悪玉トリオ」が登場過多なのがクドい。
(中)が面白かっただけに、(下)の失速感を覚えた。
〈考察(って言うほど大したものではない)〉
「エリン」の存在
物語を読み進めていくと、(上)の冒頭である男が処刑されたときに鶏の首を切り落とし、呪いの言葉と思われるような言葉を発した謎の娘がエリンであることが判明する。奇妙なことに彼女に敵対していた人物は不幸になっているのである。「エリンの魔女パワーなのか」もはや大聖堂の完成よりもエリンの存在、役割が気になっていた。敵対とまではいかいないが、エリンのことをよく思っていなかったという意味では、亡くなったトムの妻も彼女の犠牲になった。エリンが生き延びるための生け贄ではないか。(上)の4分の1で息を引き取るという場面は衝撃だった。「え、ここで退場させるのか」と。これに関してはツッコみどころがある。その前の場面でトム一行は牛を連れていたのだが、無法者に奪われてしまう。牛を取り返そうとある村まで行ったときに、妻が妊娠しているにもかかわらず、二手に分かれて探そうと提案するトム。しかも、供につけるのは娘のマーサである。差別するわけではないが、女性タッグがないでしょうよ。そこはアルフレッドじゃねえかと。いくらパワフル女房でも、さすがにダメージがあったんだよきっと。妻が出産後息を引き取る原因にトムの判断力が一役買っていたのは間違いない。
さてさて話を戻します。
ジャックは最愛の人アリエナと結婚し子どもをもうけ、フィリップは大聖堂の完成を目にするという、この物語の登場人物たちを善悪で分けるとするならば、善側が自分たちの目的を果たしたのに対して、悪側の人間はことごとく辛酸をなめる結果に終わっている。ウォールラン、リミジアス、ウィリアム、アルフレッド...。
しかし、その代償とでもいえばいいのか、エリン自身はどうかというと(あくまで僕の見方ですが)どちらかというとハッピーエンドでしょう。こんな微妙な言い方になってしまう。「彼女は文句なしのハッピーエンドです!」こう言い切れない。彼女にとって最愛の人であるトムを、ウィリアムがキングズブリッジを襲撃してきた際に失い、義理の息子であるアルフレッドはジャックに刺殺される(彼女はもともとアルフレッドには良い感情を持っていなかったから特別悲しんでいないと考えられる)。その後、彼女はジャック夫婦と一緒に暮らすのではなく、元いた森の中で暮らすのである。(前半はトムより存在感があったにもかかわらず、後半は息子のジャックが前面に出てきて彼女の存在感は希薄になっている。)
なんだか俗世では生きていけないということが宿命づけられているかのような人物だと思う。
夫を理不尽な理由で処刑された、その出来事で与えられた彼女の対宗教、対俗世間の感情がいかに禍々しいものであったか。
だから、息子のジャックは何としてでも幸せになってほしいという気持ちが伝わってくる。
「あなたが幸せであれば、私はそれでいいのよ」みたいな。現代で「あの人は魔女なんだって」と言ったところで驚く人はほぼいないだろうし、「今日はハロウィンだっけ?」ぐらいのリアクションしか期待できないだろうけれど、12,13世紀は魔女という存在の恐ろしさは現代より大きかったと思われる(勉強不足なので、参考文献挙げられずこのような言い方です)。
「エリンの魔女的役割」みたいな観点で本格的に考察したらおもしろいだろうなあ。