あらすじ
トムの死後、大聖堂再建を引き継いだ息子のアルフレッドだが、大聖堂が崩壊してしまう。そこへ、ヨーロッパを放浪して修行中だったトムの弟子のジャックが帰還し、大聖堂に新たな光が……波瀾万丈の大ロマン小説、感動のフィナーレ! 巻末には養老猛司による「解説」付き。
スパイ小説「針の眼」など、スパイ・冒険小説で知られるベストセラー作家フォレットですが、この長大な大ロマンである「大聖堂」は彼が10年以上の構想を練って世に送り出した、もうひとつの代表作です。約50年かけて大聖堂の修復にあたる職人トムやその息子をはじめ、幾多の魅力的な人物が織り成す壮大な物語に、あたかも目の前に壮麗な大聖堂が出来上がっていくような気がするでしょう。
感情タグBEST3
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中世の歴史をベースにフィクションを描いているのだが、話の中心となるのは大聖堂の建築である。
悪人はとことん悪く描かれ、何度蹴落とされても悪知恵を働かせる。
対してフィリップ修道院長をはじめとした善人達も、必ずしも清廉潔白というわけではなく、様々な欲望や感情を抱いている。
登場人物たち全員がとても人間らしく生々しく描かれており、ストーリー展開は痛快で、時間を忘れ夢中になって読んだ。
面白いと思ったのは、人の善悪の基準や何が正しいのかということは時代で異なるのだということ。この時代の人はとにかく神を信じている。しかし人間は積み重ねて行った知恵によって何を信じるのかを判断できるようになるのだ。
中世の人々の考え方を知ると言う意味でもお勧めの一冊。
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読書の醍醐味!違う時代の人々の人生にどっぷりと浸かることが出来た。中巻で幸せになってほしいと願ったアリエナは幸も不幸もあり波乱万丈。フィリップもジャックもジョナサンも登場人物皆それぞれに幸不幸があり、物語の奥行が素晴らしかった。老人になったとき、苦い悔悟の味を噛みしめ、これまでの人生がすべて虚しかったと知る(P615)哀しみを持たぬよう、結果はどうであれ今を精一杯生きようと思えた作品だった。ケン・フォレットは読破する。養老孟子のあとがきはいまいち。
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イギリス〜フランス〜スペインまでキリスト教の繋がりも垣間見え壮大なスケールを感じた。
また親と子、姉と弟、兄妹、夫婦の小さな関係の描写も面白かった。
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主人公はたくさんいるけれど,やはり,本当の主人公は大聖堂か。主人公側が必ずしも完全な善人ではなく色々な欠点を備えているところもしっかり描いている。肉食人種の旺盛な欲が興味深い。
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12世紀のイングランドを背景にしたあまりにも壮大な物語。
愛と憎しみ、野望と貪欲、欲望と怨恨と復讐(作者のあとがきより)。
たまには、こういう長い小説もいいな。
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勧善懲悪。
素晴らしい。
慈悲深い行いも、理解できないと思う人がいたとしても、寛大な心で受け入れてあげれば、将来的に自分に返ってくるんだね。
愛だね、愛。
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少し時間はかかったが全完読破。心地いい疲労感と満足感。
歴史背景を反映させた世界観、次が気になる展開、個性豊かな登場人物たち、絡み合う人間関係。
中世ヨーロッパの知識がなくても全く問題なし。エンタメ的にも、群像劇としても十分楽しめる。
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アリエナが旅をしジャックと再開するまでの物語が感動的。
アルフレッドはもうちょっと何とかならなかったのか。父親が人格者だっただけに残念。
リチャードは一時活躍したけど、最後はしょぼかった。何で権力を持つとケチ臭くなってしまうのか。
ジョナサンの父が判明するところが感動的。
ウィリアムは当然の報いを受けた。
最後でプロローグと繋がった。
フィリップはいろいろ報われてよかった。
それにしてもこれだけの複雑な物語を破綻もさせず、飽きさせず、感動的に仕上げる手腕は相当のものだ。すごい。
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情景描写がくっきりと脳裏に焼きつかれるような臨場感と共に、その時の時代を鮮やかに表現しているケンフォレットの書き方は、これまでの長大スケール連続小説初心者の自分としては度肝を抜かれた! 上巻から読み始める時、大聖堂なんぞという興味もわかないような内容の本を、如何ぞここまで長く書くことができようかとは思ったものだが、ただの素晴らしい人間物語だった。まさに人間の全てが巧妙に描かれていた作品であった。人との繋がり、愛、憎悪。今のように簡単に人と連絡をとることができない時代だからこそ、すべてのことに情が入り、決定的な一分一秒を逃さない人間の一面を垣間見れた。 レビューを書こうとした際に、ただ、「ありがとうございました」といったような圧巻の一言しか述べられないはずであったが、まとまりの無い文章だったにせよ、ここまでよく書くことができたな。
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当然のことながら、我々にとっての歴史というものは、当時を生きた人の現在に他ならない。だから、今でこそ当たり前の発明品が、その環境下では苦境を打破する会心の一手になったりする。
歴史小説を読む面白さはここにあるのではないか、というような気がしたんだけれども、そんなことはもはやどうでもいい。
あれこれと言葉を弄するのも馬鹿らしい。面白い小説を探しているなら、真っ先にこれ。
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この物語の悪党は何といってもウィリアム。女性を暴行しないと満足感を得る変態で、1人の女性をしつこく追い掛け回しなんとか絶望させてやろうとする。しかしそのウィリアムが歳を取り、たかが1人の女性を貶めたい欲望に狂って人生を棒に振ったのでは?と自問自答する。これは最大の復讐だなと思った。
全体のストーリーは、大聖堂を建立することに人生をかける修道院長と大工が、支配や暴力に屈しそうになりながらも立ち向かうというもの。最後に、もう立ち上がれないのでは?という絶望から道が開ける場面が圧巻。読後は、自分が人生の終わりに何を想うのかと考えざるを得ない。
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建築修行でヨーロッパを放浪していたジャックとアリエナ母子が再会。しかし、教会の掟で正式な夫婦になれない。大聖堂崩落後、意気消沈していたフィリップ院長、ジャックの帰還でふたたび建築への意思を固めるが、そこに邪魔にし入ったのはまたしても、ウォールラン司教%
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ようやく最終章に辿り着き、ある種の幸福感の中で読み終える。
読者は、長い長い道程を登場人物と共に歩き、
年齢を重ね、喜び、哀しみ、怒り、人間としてのあらゆる感情の発露と類稀なる経験を通して、成長し老いていく。
この長大な物語を著わしたケン・フォレットの鬼気迫る意気込みと、情熱の高さは、著者からのメッセージを読むまでもなく、作品の隅々から匂い立つ。無論、フォレットならではのロマンと官能もたっぷりと堪能できる。
娯楽小説として傑作であるばかりでなく、ヒューマニズムを高らかに謳いあげた名作として読み継がれていくだろう。
蛇足だが、養老某という名の稚拙な解説者は、
興醒めも甚だしい。
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中世イングランドの小町キングズブリッジと大聖堂に関わる人々の織りなす人間模様が、その空気感、息遣いまでも伝えて来るほどリアルで、本をめくる手が止まらなかった。本好きな友人に勧められたけど、自分も人に勧めたい。
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3巻、一気に読んでしまった。
まず、ネタ(題材)が面白い。
中世12世紀のヨーロッパ、「大聖堂の建築」を中心に話が展開していく。時代背景といい、今まで自分の中では馴染みがなかった「大聖堂」といい、好奇心を非常にかきたてられる。
そして人物描写やストーリー展開も素晴らしい。
個性的な登場人物の人物描写がとても良い。個人的には苦手な翻訳小説。なぜなら名前からキャラクターのイメージができないから。。。でもこの『大聖堂』の登場人物はそれぞれが個性的に描かれていて魅力的。
ストーリーも何十年にわたる物語とは思えない展開の見事さ。あきることなく最後まで読み切ってしまった。
ケン・フォレット、他の作品も興味深い。しばらくどっぷり浸ってみようかと思います。
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とうとう悪役のウィリアムもウォールランも成敗される日が来ましたや。やっぱり最後には悪に滅んでもらわないと気分がスカッとしません。
ラストはテレビドラマとだいぶ違ったので、もうひとつのエンディングを楽しめました。大満足です。
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最後はきれいにまとまりました!大聖堂という名がタイトルになっていますが、この時代の人はとにかく信心深い。神を恐ること尋常じゃぁない。だから大聖堂の建設が非常に重要になるのでしょう。最終巻では、アリエナが変われば変わるもので、謙虚で強く、冒頭からまずそこに惹かれました!一方、ウィリアムは相変わらずもはや夜盗、こんなん領主か?などいろいろ思いながら楽しく読め、最終章で、トムの妻が死んだ場所に戻った場面ではなんだかこの長い物語の終着を感じました。世界的大ベストセラーと言われるのも納得の作品でした。
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すべての事象がつながっていく、その構成はおもしろかったですが、以下、完全に個人の趣味なのですが、こんな構成なら冒険活劇のほうが好きだ~
いや、中巻と下巻は1日1冊読めたから、おもしろかったはおもしろかったんです!!
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三部作の最終巻。物語の主人公たちは二世代目に。話はイギリスから飛び出てフランス、スペインへを経て再びイギリスへ。数十年にわたる物語は、当初のなぞを明かして完結。ストーリーの初期に姿を消していたウザキャラが、終盤に再登場するも最後はハッピーエンドに至る。イギリスの無政府時代の国内政治の状況が物語の基盤にある。スティーブン王とヘンリー王のいさかいには相当ページを割いている。行政組織が不在ななかで、教会が行政や自治体としての機能を果たすことにも多くの説明がされる。イギリス人ならおそらく誰もが知っている歴史にのっとって進行する話なのだが、そこに関する予備知識が全くないことがもどかしかった。
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聖職者フィリップを中心としてその周りの人々を主人公とした群像劇。
600ページ級を3冊なので結構なボリュームだが最後まで面白く読めた。
群像劇なんで渡る世間は鬼ばかり的な感じがしたね。
こっちで事件が起きてると思ったらあっちの人はあっちの人で別なこと企んでて、そうこうするとあの時のあの人が再登場して・・・みたいなそんな話。
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大聖堂建設の件は思ってたより早く収束して、この下巻では話の本流から外れてしまう。けどそれを補って余りある程に群像劇が面白い。神の奇跡、逆転裁判、伯領奪還に市民の団結などなどテンション上がる要素がてんこ盛りで、ハラハラしながら徹夜読みした。こんな素敵な作品に出会えたことを神様に感謝。
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権謀術数蠢く権力闘争。二転三転する物語。最後は民衆の総意が権力を凌駕して大団円を迎える。
著者が描く登場人物はなんと魅力的なことか。悪の限りを尽くすウィリアム。寛容でありながらも姦淫を許さぬフィリップ。後半の主役であるジャックも天才肌ながら一癖も二癖もある性格で描かれる。癖のある登場人物たちが織り成す出来事が物語に深みを与えている。
当初、時代考証が甘いのではないか?と感じていたが、あとがきにて著者は敢えて先の時代の事柄を盛り込んだ理由に納得した。
それにしても著者はアリエナに厳しすぎる。次から次に悲劇が襲う。もうちょっと優しくしてあげて欲しかった。それに負けないアリエナは、文学史上に残るカッコいい女性だ。
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上中下というボリュームに加えて、中身が濃い! 親子、夫婦、恋人、師弟やライバルなどのぐちゃぐちゃな人間関係に絡むようにして、陰謀、謀略、殺人、破壊、権力闘争に復讐劇などのこてこてのプロットが幾重にも重なってストーリーを肉付けしている。ドラマに目が行くかと思いきや、大聖堂建設にまつわる現場の息遣いや、信仰に対する独自のスタンスなど、ディテールが細かく、内幕モノとしても読める部分が土台を支えているので、全体的にバランスがいい。
ストーリーは潔く展開し、キャラクター造形もわかりやすい。長い物語ではあるが、大まかな流れは、敵対グループの非情な策略を経て、村と人々が着実に成長していくというもの。登場人物の環境や立場がその都度変化するので、同じパターンの繰り返しという感覚はない。これだけの物語を読まされると、読者も登場人物のひとりなのかなあ、という気もする。キングズブリッジの中に溶け込み、住民と同じ不安や希望を感じる。ある人物には共感し、またある人物には殺意すら抱く(笑)
謎解きだトリックだ、という作品もいいけど、時折こういう大河ドラマに身を任せてどっぷり浸りたいと願うのは年をとった証拠かしら。早いうちに続編を読むぞ。
Posted by ブクログ
どんな立場の人であれ、必ずしも聖人君主ではなく、生々しい感情や欲望を抱えている。
そうした剥き出しの感情が物語の肝である。
それだけに分かりやすく、長いけれど読みやすい物語。
そして人間は今も昔も変わらない。
Posted by ブクログ
まぁ良くも悪くも大河物語でした、個人的な好みではないので正直長すぎるなと感じましたが、大河には必要な長さかなとも思います。人物造形もあまり深くはなくってわかりやすいキャラを立てる感じで、これまたそうなりますよね、というもの。
個人的にはこの本は本当にイギリスっぽいのか?が知りたいところ。ヨーロッパに住む人々の感覚を率直に伺いたい次第。
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ノートルダム大聖堂が焼け落ちた年に、やっとケン・フォレットの「大聖堂」を読んだ。12世紀内線の続くイングランドを描くスケールの大きな話で、確かに一気に読める。「巨人の落日」からの3部作から読み始めた私としては、「永遠の始まり」の尻すぼみ感にがっかりしたので、中世の大聖堂に期待したのだが、ワクワクドキドキではなかった。王と教会の争いにもう一つ実感がわかないことと主人公が歴史上の人物ではない点にあるかとも思われた。それだけ好きに欠ける自由度があることを「お話し」としてか「ウソ」としてかどう受け入れるかであるかとも思った。
Posted by ブクログ
(十二章)
ミサ聖祭の日に大聖堂の天井が崩れ、79人が亡くなる大惨事が起きた。瓦礫の下でアリエナは出産する。大聖堂が崩れた後、町の活気はなくなり、元の寂れた村に戻りつつある。アリエナはジャックを探すため、スペインへ。人に尋ねてまわり、ついに見つけたのはパリのサンドニで。ジャックの父の故郷も見つけ、徐々に真実に近づいていく。
(十三章)
ウィリアム再襲来。リチャードによって悪い知らせがもたらされたキングズブリッジ。森の中へ逃げようかと考えもしたが、選択したのは「戦う」ことだった。しかし、白兵戦では敵わないと悟り、囲壁をつくって対応する。
(十四章)
七年後。凶作によって食物の価格が高騰。修道院の財政状況が再び厳しくなり、大聖堂建立にブレーキがかかる。生活がかかっている石工たちはアルフレッドに伴ってシャーリングに行ってしまった。
(十五章)
無法者(アウトロー)を率いたリチャードとスパイとして城に潜り込んだアリエナの二人によって、ウィリアムから城を奪い返す。
(十六章)
アルフレッド再び来る。アルフレッドがアリエナに暴行を加えようとしているところにリチャードがかけつける、刺殺する。リチャードは罪の償いをするため聖地パレスチナに行くことを決め、リチャードに代わってアリエナが城を統治することに。長い間(十年間)アルフレッドとの離婚が認められなかったが、寡婦となった今、やっとジャックと結婚式を挙げることができた。
(十七章)
十五年後。大聖堂は完成し、キングズブリッジはかつてないほど輝きに満ちている。しかし、ウォールランがまたまた陰謀を企む。ジョナサン(トムの息子)はフィリップの子どもではないかと疑い、フィリップを裁判にかけた。このピンチにフィリップを毛嫌いしていた二人、エリンとリミジアスが真実を証言する。
(十八章)
国王から手紙がとどく。その内容は「ウォールランをリンカンの新司教に推薦し、キングズブリッジの新司教にこれまたフィリップの敵である人物を推薦する」というものであった。この最悪の人選を阻止すべく、フィリップはフランスのトマス大司教を訪ねる。このとき、トマスはヘンリー王と対立しており、ウィリアムを含む暗殺団に殺されてしまう。イングランドじゅうの町や村でトマスの「殉教」を語りきかせようとフィリップらは立ち上がる。
大聖堂完成のシーンを描いてほしかったのだが、いつの間にか完成していて残念。
ウォールラン、ウィリアム、アルフレッドの「悪玉トリオ」が登場過多なのがクドい。
(中)が面白かっただけに、(下)の失速感を覚えた。
〈考察(って言うほど大したものではない)〉
「エリン」の存在
物語を読み進めていくと、(上)の冒頭である男が処刑されたときに鶏の首を切り落とし、呪いの言葉と思われるような言葉を発した謎の娘がエリンであることが判明する。奇妙なことに彼女に敵対していた人物は不幸になっているのである。「エリンの魔女パワーなのか」もはや大聖堂の完成よりもエリンの存在、役割が気になっていた。敵対とまではいかいないが、エリンのことをよく思っていなかったという意味では、亡くなったトムの妻も彼女の犠牲になった。エリンが生き延びるための生け贄ではないか。(上)の4分の1で息を引き取るという場面は衝撃だった。「え、ここで退場させるのか」と。これに関してはツッコみどころがある。その前の場面でトム一行は牛を連れていたのだが、無法者に奪われてしまう。牛を取り返そうとある村まで行ったときに、妻が妊娠しているにもかかわらず、二手に分かれて探そうと提案するトム。しかも、供につけるのは娘のマーサである。差別するわけではないが、女性タッグがないでしょうよ。そこはアルフレッドじゃねえかと。いくらパワフル女房でも、さすがにダメージがあったんだよきっと。妻が出産後息を引き取る原因にトムの判断力が一役買っていたのは間違いない。
さてさて話を戻します。
ジャックは最愛の人アリエナと結婚し子どもをもうけ、フィリップは大聖堂の完成を目にするという、この物語の登場人物たちを善悪で分けるとするならば、善側が自分たちの目的を果たしたのに対して、悪側の人間はことごとく辛酸をなめる結果に終わっている。ウォールラン、リミジアス、ウィリアム、アルフレッド...。
しかし、その代償とでもいえばいいのか、エリン自身はどうかというと(あくまで僕の見方ですが)どちらかというとハッピーエンドでしょう。こんな微妙な言い方になってしまう。「彼女は文句なしのハッピーエンドです!」こう言い切れない。彼女にとって最愛の人であるトムを、ウィリアムがキングズブリッジを襲撃してきた際に失い、義理の息子であるアルフレッドはジャックに刺殺される(彼女はもともとアルフレッドには良い感情を持っていなかったから特別悲しんでいないと考えられる)。その後、彼女はジャック夫婦と一緒に暮らすのではなく、元いた森の中で暮らすのである。(前半はトムより存在感があったにもかかわらず、後半は息子のジャックが前面に出てきて彼女の存在感は希薄になっている。)
なんだか俗世では生きていけないということが宿命づけられているかのような人物だと思う。
夫を理不尽な理由で処刑された、その出来事で与えられた彼女の対宗教、対俗世間の感情がいかに禍々しいものであったか。
だから、息子のジャックは何としてでも幸せになってほしいという気持ちが伝わってくる。
「あなたが幸せであれば、私はそれでいいのよ」みたいな。現代で「あの人は魔女なんだって」と言ったところで驚く人はほぼいないだろうし、「今日はハロウィンだっけ?」ぐらいのリアクションしか期待できないだろうけれど、12,13世紀は魔女という存在の恐ろしさは現代より大きかったと思われる(勉強不足なので、参考文献挙げられずこのような言い方です)。
「エリンの魔女的役割」みたいな観点で本格的に考察したらおもしろいだろうなあ。