山極寿一のレビュー一覧
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京大総長、国大協会長、日本学術会議会長という三足のわらじを履いた“ゴリラ学者”山極寿一先生の新書(2021年11月発行)
「国立大学法人化は失敗だった(p75)」
と有馬朗人元文科大臣と同様に断言しているほか、
・大学設置基準の大綱化…「疑わしい」
・大学評価システム…「疑わしい」
・大学院重点化…「教養・基礎教育がおろそかに」
・大学改革強化経費…「自律的な大学経営など望むべくもない」
・学校教育法と国立大学法人法の改正…「大学の力を削ぐ結果に」
・3つの重点支援の枠組み…「失敗だった」
・期限付きの補助金…「失策と言わざるを得ない」
など政府・文科省の施策を痛快に論断している。
他方、自身 -
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人間の独特の能力であるフィクションを駆使して世界の可能性を紡ぎ出す作家と、サルやゴリラを通して人間を理解しようとしている研究者。この対比は、巻末に紹介される両者の往復書簡にて、研究者側が表現したものだ。本著はまさに、霊長類が保有する物語や現前性について、それを比較探求する事で真理に触れんとする試み、或いは、その探求や比較の楽しさを伝える本だ。
例えば、子殺しの意味について。社会生物学的に解釈すれば、自分の子どもを殺したオスは、自分の子どもを守れなかったオスより強い。だから一層、これから作る子どもを守ってくれるに違いない、とメスが見なす。こうした仮説は、人間側が自らの感性でゴリラ側に当て嵌めた -
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次世代の人たちはぼくたちが滅びた後の世界を見る権利をもっていて、彼らが見る世界のためにぼくたちは義務を果たさなくてはいけない。そして若者たちも、自分たちの次の世代に対し、どういう責任をもって、どんな世界を渡したらいいのかを十分に考えなくてはいけません。(p169)
スマホを使って頭だけで友だちとつながるのではなく、面と向かって声で話し、相手の表情や態度をきちんと読んで付き合うことが必要です。相手ときちんと向き合うことは、人間が信頼関係をつくり、それを高めるためにかけがえのない行為だからです。人間の五感は人と会って身体で共感し合うためにつくられているのです。その最も原始的な行為が食事です。(p -
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霊長類学者山際寿一と作家小川洋子の対談集。山際さんは京都大学学長になる人を巻き込む言い方が出きる人だなと感じ入った。小川さんは対話する人のこれまでの経験や記憶のかけらをうまく言葉にさせる力がある人だなと思った。山際さんの人だけが持つ家族を結びつけるものを愛と叫ばせたのは、小川さんの力だなと思い、吉本の対幻想を思い起こさせた。ゴリラの子殺しの話は結局原因が自分の子供を残したい雄の欲望の発露なのか、人に生息域を狭められたことによる反動なのか結論が出ていない。なんとも陰鬱な話だがゴリラもチンパンジーも子殺しをするなら、人間の児童虐待も動物としての性なのかとも思ってしまった。さまざまな感慨を生む刺激に
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京都大学総長を務めたゴリラ学者が、自身の経験や大学論、未来と学術の関係等について論じる。
2004年に国立大学が法人化され、国の財政から切り離されて予算が不足したり教員の業務が増えたりといった弊害が生まれた。
アフリカでのゴリラ研究のフィールドワークの体験談も面白い。アフリカの学生に学位を取得させる努力家も。
教育は贈与。人間には家族とその外の共同体があるが、ゴリラには家族しかない。人間はジャングルを出て直立二足歩行によって食物の運搬と分配をすることで高い共感力を有するようになった。その結果家族を越えた共同体が生まれた。
オーグスタン・ベルクのコスモス国際賞受賞時の「西洋近代の古典的パラダイム -