狩る!食べる!戦う!生きて輝け!!
北の大地で繰り広げる五感震えまくりエンターテインメント」ゴールデンカムイ9巻目。20冊ほど積読になっていたものを一気読み。内容の面白さと積読崩しの爽快感が両方そなわり最強に見えます。
カバーイラストは白石由竹。1巻目からのレギュラーで、まさに「愛され脱獄王」とか「脱糞王」とかのキャッチフレーズで親しまれていましたが、この巻にしていよいよ彼が「脱獄王」となった経緯とその手口が明かされます。
と、まあ白石のお話の前に。
間一髪で牛山に坑道から救い出された杉元と白石は、その流れで土方一味と顔合わせ。
ここでまた伏線が。のっぺら坊とともに獄中生活を送っていた土方は、どうやらのっぺら坊から何かを聞いていたのではないか。前巻でもそんな暗示(パルチザン)がありました。
この巻明らかになったのは、アシㇼパさんとのっぺら坊が親子であることに気付いていて、しかもそれを他人には知られたくない様子です。
「手を組むかこの場で殺し合うか選べ」と敢えて演出した緊張は情報を隠したいがため、でしょうか。アシㇼパさんのお腹が鳴ったことで曖昧になり、何となく杉元達と土方達で協力して偽の刺青人皮の見分け方を探ることになりました。
笑いとアクション、変態と生きる輝きが同居しているこの作品にあって、ストーリーラインが骨太であることに改めて驚かされます。
同じお宝を狙って争う3チームですが、時と場合に応じ、それぞれが手を組んだり殺し合ったりと一筋縄ではいきません。
さらに、3勢力それぞれに属するキャラクターたちはそれぞれのチーム内にあっても同床異夢です。遠大な目標のための軍資金が欲しい鶴見中尉と土方歳三はともかく、杉元に復讐したい二階堂、目的が見えない尾形百之助、何も考えてなさそうな白石と牛山、父の死の真実を知りたいアシㇼパさん。
そして杉元は、もはや大金を手にすることより、アシㇼパさんの願いが成就する手助けをすることに心が移っている様子。
こんなストーリーの柱を、暴力と笑いと変態とグルメの裏にしっかり立てていて、ところどころでその影がちらつくのです。
逆に言えば、面白さに油断して先へ先へと読み進んでしまうと、果て、どうして今杉元は尾形と共闘してるんだっけ?と考え込んでしまう羽目になります。一読、二読、三読しても新たな発見があります(読み飛ばしがちな自分の読み方が悪いのかもしれませんが)。
そんな濃厚な作品です。
江渡貝のアトリエでニセの刺青人皮の見分け方を捜索中、これを隠滅しに来た第7師団と戦闘になり、結局見分け方を入手できなかった杉元+土方チームが次に目を付けたのは贋作師である熊岸長庵。「偽物づくり」という共通点から、何か手掛かりを得られるのではないかとして、彼が収容されている樺戸集治監に向かうことになります。
この熊岸長庵も実在の人物熊坂長庵をモデルにしている様子。脱線しますが、白鳥由栄、熊坂長庵、樺戸集治監とWikipediaサーフィンを続けてぶち当たったのがかつてのNHKの大河ドラマ「獅子の時代」。そっか、北海道が扱われてるのか、菅原文太主演かあ…あれ、DVD出てるの?19,800円×2かあ…なんて、危ない方向に走りそうな自分が怖い。松本清張の小説くらいで止めておかないと…。
関連作品を追いかけるとお金はともかく、時間はあっという間に溶けちゃいますよね。まあ、次はあの本を読んでみたい、こっちも面白そう、って想像するのはとっても楽しいんですけれど。
で、その熊岸長庵と同時に収監されていた白石の思い出話として「脱獄王」と呼ばれるほど脱獄を繰り返した過去が語られます。
動機はともかく、その手口には執念が感じられます。なかでも、看守の目を盗んで作った合鍵の隠し場所は、漫画ならではの表現方法もあって凄みがありました。普段の「愛され」ている白石との落差に震えます。ああ、これがギャップ萌え…。
あまりのことに、白石のモデルとされる実在人物白鳥由栄を描いた小説「破獄」を買ってきてしまいました。
熊岸長庵と話すべく樺戸集治監へ向かう途中、一行が立ち寄ったコタン。しかし、そこは脱獄囚がコタンの男を殺してアイヌに成りすましている集落でした。
アシㇼパさんを人質に取られて我を忘れた杉元の切れっぷりは凄まじく、ほとんど杉元一人で偽アイヌの脱獄囚たちを皆殺し、その怒りは尾形をして「おっかねえ男だぜ」と言わしめ、また ヘペレセッから逃げ出した羆と一対一で対決して背負い投げでこれを撃退した牛山も霞むほどです。
杉元がアシㇼパさんに向ける感情は、おそらく尊敬から発して、ここしばらくは庇護欲が増してきたように思えます。逆にアシㇼパさんが杉元に寄せる思いには、父性に対する思慕を含みつつ、インカラマッと張り合いたくなる気持ちも少し混じっている様子。色気とは全く縁のないこの漫画の中で二人の関係性がどうなっていくのか、なかなか想像しづらいものがあります。
その他のコンテンツですが、恒例の「オソマおいしい」ネタは無し。
グルメ関係は家永製のナンコ鍋とヤマシギ(トゥレㇷ゚タチㇼ)のチタタㇷ゚。料理そのものよりも無理矢理チタタㇷ゚づくりに参観させられ、素直でかわいい牛山とやっていられない風の尾形の対比が見ものです。
どんどん人間離れしていく二階堂の行く末に固唾を呑みつつ10巻へ。
第81話 隠滅
第82話 二階堂
第83話 恋占い
第84話 獄中
第85話 恋路いくとせ
第86話 昔の話をしよう
第87話 お行儀
第88話 耳長おばけがやって来る!
第89話 沈黙のコタン
第90話 芸術家