他のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
数多の西洋怪奇小説の紹介と翻訳で、本邦における怪奇翻訳の礎を築いた、翻訳業界そして編集業界の巨匠、平井呈一。彼の偉業である怪談翻訳集成第2弾、前半は平井をして「近世怪奇小説四天王」と言わしめた4人のうち、M.R.ジェイムズとA.ブラックウッドの傑作選、後半は平井の翻訳者の原点である初期翻訳作品2点の他、彼が翻訳したラフカディオ・ハーンの文学講義や平井氏の翻訳に対する姿勢が見えるエッセー等を収録。
以下、なるべくネタバレなしの収録作品各話感想。
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★ジェイムズ「消えた心臓」(1904)
半年前から孤児だったスティーヴァンは、年長の従兄弟であるアブニーに迎え入れられる。ある日、スティーヴァンは使用人から、過去に二人の孤児が屋敷に引き取られた後に失踪したことを聞かされる。そしてその夜、屋敷の古い浴室で怪しい人影を目撃する――。
(ジュブナイルの要素と魔術の要素をミックスした怪奇譚。)
★ジェイムズ「マグナス伯爵」(1904)
スウェーデンに関する本の執筆を思い立ったラクソールは、向かった先で風変わりな教会を発見する。そこに眠っている、怪奇な伝承が伝わるマグナス伯爵という人物に興味を惹かれた彼はその霊廟の前で、自然と「お目にかかりたいものだ」と口にする。その時、カチャンという金属音が――。
(吸血鬼ものを下敷きにしつつ、全く異なる独創的な怪異を表現した傑作。)
★ブラックウッド「人形」(1946)
インド駐在歴のある英軍人マスターズ大佐。彼の家の呼び鈴が鳴らされ、料理女が対応に出ると、そこには黒い肌の男がいて、大佐に渡してほしいと、彼女に小さな紙包みを押し付けて消えてしまう。
主人からそれを捨てるよう命じられた料理女が紙包みを開けると、現れたのは蝋細工の人形だった――。
(呪いの人形をテーマにした、オーソドックスな怪奇小説。事の真相は最後まで明かされないが、当時のインドは英国の植民地で、独立運動が盛んな時期でもあったので、読者はそこから推し量ることもできるだろう。)
★ブラックウッド「部屋の主」(1917)
急に思い立ってフランスのアルプスを訪れたミンタンだったが、それが災いして宿を取れない状況にあった。近くの民家に一泊を請おうとした矢先に、ホテルのボーイから「『予約済み』だが泊まれる部屋」があると伝えられ、詳細を聞いた上でその部屋に泊まることにする。だが、その部屋はどうにも厭な感じが――。
(いわゆる「旅行怪談」もの。はたして彼を嫌な気分にしていたものは、前の宿泊客の残念か、それとも部屋そのものか。)
★ブラックウッド「猫町」(1908)
心霊事件を追求してはそれを解明することに心血を注ぐ医師ジョン・サイレンス。そんな彼の元を訪れたアーサー・ヴェジンが語った旅先のフランスで自身を襲った体験とは――。
(原題である『いにしえの魔術』という邦題の方が有名な、"輪廻"を主軸にしたダーク・ファンタジー。ジョン・サイレンスものの代表作だが独立した作品として読んでも面白い。)
★ブラックウッド「片袖」(1921)
ヴァイオリン収集を趣味とするギルマー兄弟。彼らのもとには、鑑定家で演奏家でもあるハイマンが度々訪れては名器を演奏させてもらっているが、ヴァイオリンに対する認識の違いから、双方は密かに相手を嫌悪していた。
ある霧の晩、兄が帰宅すると、在宅中の弟は、つい先程までいたというハイマンとの間で起きた不気味な出来事を語り始めた――。
(「妄執」をテーマに黒魔術的な要素を絡めた短編。)
★ブラックウッド「約束」(1906)
深夜まで勉強に励んでいたマリオットを訪ねたのは、かつての学友であるフィールドだった。ささやかな食事で歓迎するマリオットに対し、沈黙を続けるフィールド。やがて眠そうな様子を見せた彼に、マリオットは快く寝床を提供するのだったが――。
(ジュブナイルな怪談話。ブラックウッドは小泉八雲の作品を読んでいるようなので、彼の『守られた約束』がモチーフになっているかもしれない。)
★ブラックウッド「迷いの谷」(1910)
容貌ばかりか趣味や思想も同じくする双生児マークとスティーヴァン。彼らはある年の夏に旅行に出かけるが、訪れた山中のホテルでスティーヴァンは美しい女性に恋をする。異性への好みも同じくすることから、スティーヴァンはこのことをマークから隠そうとするのだが、事態は思わぬ方向へ――。
(文中で語られる、死にきれない霊が集まるという「迷いの谷」の伝説が、その結末に彩りを添える、傑作の一つ。)
★コッパード「シルヴァ・サアカス」(1928)
女房とその間男になった友人に逃げられたハンズ。意気消沈している彼のもとを、サアカス団の団長が見世物の主役にスカウトするために訪れる。法外な値段で雇われ舞台に立ったハンズの前に現れたのは――。
(様々な意味で"人間"を描いた短編。その結末に抱く感想は、読者によって多く異なるだろう。)
★ホフマン「古城物語」(1917)
男爵一家の補佐を担う大伯父とわたしは、仕事で男爵の世襲領がある地に向かう。しかしいつも使っている城の部屋が折悪しく使えなくなっていたため、急遽別の部屋に泊まることになる。その晩、私はその部屋で不気味な現象に襲われる――。
(男爵一家の因縁物語を綴ったゴシックホラー。下に恐ろしきは人の妄執か。) -
Posted by ブクログ
・またである。何匹目の泥鰌になるのか。夏来健次編 「ロンドン幽霊譚傑作集」(創元推理文庫)、この手の物語の愛好家が多いのであらう。私もそれに当たるのか、何匹目かにもかかはらず私は買つた。この古風な物語にはこのまま捨て おき難いものがある。しかし、最後は忘れてしまふ。そんな物語ばかりである。本書には13編収録、 巻頭のウィルキー・コリンズ「ザント夫人と幽霊」のみ既訳あり、他の12編は初訳である。コリンズ 以外で知つてゐる人はイーディス・ネズビットぐらゐであらうか。「砂の妖精」の作者である。これ以 外の人は知らないのだが、ネズビットを含めて9人が女流作家である。意識して選んだのかどうか。たぶん意識せずにかうなつたのであらう。この19世紀末のヴィクトリア朝にはかくも女流作家多かつた のであらうか。「当時じつはその分野で最も大勢を占めていた現今知られざる怪奇系作家たち」(「編 者あとがきー魔の都、霊の市」388頁)とはあるが、女流には触れてゐない。19世紀末英国の、いかにも幽霊譚ばかりであつた。
・とは書いたものの、実は一番面白かつたのは巻末のウォルター・ベサント、ジェイムズ・ライス「令嬢キティー」であつた。共作だが、これは2人とも男性であらう。最初の解説には、本作は「ユーモア怪談で、小生意気な少女幽霊の憎めない魅力が微笑ましく、皮肉味のある落ちも利いた作品。」 (360頁)とある。珍しくユーモアに満ちた怪談である。しかもこの幽霊、昼間も出てくる。この手の怪談集でかういふ作品を読むのは初めてのやうな気がする。あつたかもしれないけれど、たとへさう だとしても、ごく少数でしかないであらう。何しろ、怪談を読むのは怖さを求めてである。ユーモアだ つたら最初からユーモアと謳つた作品を読めば良い。ところがこれはユーモア怪談であつた。先の引用の通りの作品で、「小生意気な少女幽霊の憎めない魅力が微笑ましく」といふのは正にその通りであつ た。幽霊に対する主人公(?)の男性も、簡単に少女の話に乗つてしまふ。このあたり、およそ怪談の雰囲気はない。最後もハッピーエンドである。世の中、かういふ怪談ばかりでは飽きられようが、かういふ怪談が少ないからこそ、この作品の存在価値がある。他の作品は普通の怪談である。例へばネズビット「黒檀の額縁」、これもよくある語り出しである。遺産として家を相続したところから物語は始まる。その居間に版画があつた。「暖炉の上の壁にかかる版画(中略)で、黒い額縁に収められていた。」(238頁)その額縁は「上質な黒檀製で、精妙で美麗な飾り彫りがほどこされてい」(同前) た。その版画をもとの油絵にもどすと、召使ひが「ほんとに素敵な肖像画ですこと!」(241頁)と 言つた。その絵は……といふことで、「以上がどのようにして愛する人を手に入れそして失ったのかの経緯だ。」(256頁)と終はる。額縁に関はる幽霊譚である。よくある絵から抜け出した人物であ る。絵にまつはる因縁も含めて、よくできた幽霊譚であつた。しかし、ネズビットは児童文学作家であ り、ファンタジー作家であつたといふ。私は「砂の妖精」しか知らない。こんな作品もあつたのである。アンソロジーといふもの、時にかういふ作者の別の面を見せてくれることもある。これもそんな作品であつた。本書はまともな幽霊譚ばかりだが、その中で「令嬢キティー」はいささか例外であつた。 これを良しとするかどうか。個人的にはかういふのもおもしろいと思つた。とまれ、何匹目かの泥鰌であつても、私は本書を楽しんだ。しかし、これがまだ続くとなるといつまでつきあへるかである。さて如何。 -
Posted by ブクログ
ネタバレタイトル通りヴィクトリア朝期英国、それもクリスマス限定でなくちょうどこの時季を舞台にした幽霊譚13編。内12編が本邦初訳だそうだが、全体を通しての味わいは期待通りだった。
好みの作品いくつかについて。
・クリスマスの日の情景を描いたエッセー的なC.ディケンズ「クリスマス・ツリー」。ツリーや種々の飾りに纏わる思い出話は次第に昏い色を帯びていき……。ツリーが造り出すクリスマス、そして冬の夜の光と影。
・「海岸屋敷のクリスマス・イブ」E.L.リントン
イングランドの西端コーンウォールの家を購入し移り住んだ若い夫婦。妻は家の管理人ベンリースという男に言い知れぬ嫌悪感を抱く。その後悪夢を繰り返し見るようになり精気を失って行く妻。心配した夫は妻の母親を呼び寄せるが……。
荒涼とした冬のコーンウォールの雰囲気も相俟って何とも陰惨な話。ただし10年以上土中に埋められていた(ネタバレ回避)の描写には少しツッコミたくなるのだが、これもコーンウォールという土地の為せること?
・「メルローズ・スクエア二番地」T.ギフト
翻訳業を営む主人公が借りた一軒家で体験した怪異が綴られるが、風評被害を受けたと家主から訴えられたことに対する弁明―という体で書かれ、明確な解決もないまま新たな情報を求めている……というラストは何となく今流行りのモキュメンタリー仕立てに通じるものがあるようにも感じられる。尊大で何か秘密を知っていそうな不穏な雰囲気をまとう家政婦のキャラクターは「海岸屋敷の~」のベンリースと似たところもあるが、謎が多い分より印象に残る。
・「幽霊廃船のクリスマス・イブ」F.クーパー
沼沢地での鴨猟の最中、廃船で一夜を明かす羽目になった男の体験。
漆黒の闇の中、何か異様なことが起きている物音だけがするという不可解な怖さと、朽ちた船内で酷く不安定な足下と寒さという物理的危機。この二重の恐怖は―明記されていないにせよ―心霊怪談であると同時に“監禁テーマ”恐怖譚の巧みな変奏とも読めるような。
・「本物と偽物」L.ボールドウィン
クリスマス休暇に大学の学友2人を実家に招いた青年マスグレイブ。修道院の跡地に建てられたこの邸宅に幽霊が出るらしいという言い伝えの話が出たことから、幽霊の有無について論争になる3人。否定派のローリーは2人を驚かすある悪戯を企むが。
幽霊の存在について肯定、懐疑、否定の三派に分かれるがそれぞれの主張が面白い。彼らは近所に住む若い姉妹とも親しくなって、どこか青春もののような雰囲気も帯びるだけに、一気に暗転するようなラストが一層効いている。
・「青い部屋」L.ガルブレイス
四代続いて或る名家に仕える家政婦が語る、屋敷内で封じられていた部屋の逸話。
発表されたのがドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズ初期と時代が重なることもあってか、部屋の怪異を解き明かす人物のキャラクターは、ヘッセリウス博士とジョン・サイレンスの間を埋めるゴーストハンターキャラの魁とも読める。それだけに著者の経歴が不詳で作品も少ないというのが何とも残念(著名な作家の別名義ってことは……ないよなぁ)。聞き手(という体の作者)の補足によって怪異の正体が明かされるラストが鮮やかで、その真相もガジェット自体は古典的であるのにどこかモダンホラーに通じている印象。
冒頭の「クリスマス・ツリー」が発表されたのが1850年で掉尾を飾る「青い部屋」は1897年。半世紀の間に発表された作品を年代順に読み進めることで、描写されるヴィクトリア朝の英国人や社会通念、その推移みたいなものを、怪談そのものの変化と共に垣間見れる―ようにも感じられた。
定番として常に店頭で手に取れるようにしておいて欲しい1冊。 -
Posted by ブクログ
鈴木智彦、望月衣塑子、西崎伸彦、鳥集徹、ほか『日本の黒い聖域』宝島SUGOI文庫。
2022年1月に刊行した宝島社新書『日本のタブー3.0』を改訂し、再編集、文庫化。忖度報道に終始する大手メディアが報道しない『聖域』をテーマにした15本の記事コラムを収録。
新型コロナワクチン。新型コロナウイルス感染症が5類になってからは感染状況が詳しく伝えられず、どう対処すべきか全く解らない。未だに会社では何人か感染者が出ているが、マスク着用が個人の自由とされたので始末に負えない。製薬会社や政府の広告収入が目当てでワクチンの副作用や接種後の死亡例を伝えないマスコミ。ワクチンを接種しようが、感染するし、感染後の症状や後遺症は人それぞれのようだ。幸い自分も家族も感染したことはないが、自分がファイザー製のワクチンを2回接種した際は腕が痛く、倦怠感があったが、1日寝ていたら治まった。問題は3回目にファイザー製の二価ワクチンを接種した後だ。腕は痛くならなかったが、胃がおかしくなり、さらには激しい動悸に苦しんだ。会社で階段を昇ると動悸が激しくなり、息が切れ、目眩がする始末。寝ていても動悸は激しくなり、眠っている時に呼吸が止まったのではないかと驚いて飛び起きたこともある。それが3週間続き、何とか治まった。
入管施設でのスリランカ人女性の死亡事故。在留資格を持たない、或いは喪失した外国人を収容する施設での人を人と思わない処遇には怒りを感じる。
カジノ利権。パチンコや競馬などで身を持ち崩す国民が多い中、カジノだと。巨大ビジネスがある所には必ず利権が渦巻く。
創価学会。そもそも自民党が宗教団体を背景に持つ公明党と連立政権を持っているのがおかしい。その上で、旧統一教会とも蜜月の関係を続け、票を集めて政権を獲得していたなど、どこに正義があるのか。
福島第一原発事故以来、溜まりに溜まった放射能汚染処理水を地元の承認を得ないままに、この夏に海洋放出すると決めた政府。一度、海洋放出が決まれば、処理水が貯まる度に海洋放出するのだろう。新型コロナウイルス感染価で明らかになった政府の無駄使い。使う道の無い小さい布マスクを配り、支援金という名のばら撒きを行い、経済活動のために強引にコロナを5類に引き下げた。ところが、ロシアのウクライナ侵攻もあり、経済は相変わらず冷え切ったままで、物価は高騰し、ガソリン価格もリッター180円を超える勢い。そんな中、東京五輪の汚職が明らかになったり、自民党を始めとする多くの議員がカルト宗教団体と蜜月の関係にあることが明らかになったり、総理大臣が文字通りの外遊を行い、各国に多額の支援金をばら撒き、個人情報がだだ漏れの訳の解らぬマイナンバーカードを広めるのにさらに無駄使いを続ける始末。こんな状況でも議員は利権と金に固執する。こんな腐り切った日本は終わりかも知れない。
定価900円
★★★ -
Posted by ブクログ
秋永真琴『ファインダー越しの、』:創刊号に載ってた『フォトジェニック」の森島さんが再登場で嬉しい。まだ続きがありそうで楽しみ。ただ、私は、完全に森島さんの興味対象外の「素朴な(婉曲表現)男性たち」たる「みやっちさん」側の人間なんで、ちょっとへこむ。
「自分は写真写りが悪い」という認識に「いやいや、だいたい実物通りに写ってますが?」、「そういうネガティブなのか自分に自信があるのかよくわからない人より、あたしのほうが前向きで幸せじゃないかな。」とばっさり切り捨てられて、かなり、ぐさっと来たけど、おっしゃるとおり。素敵です。みらいさん。
真門浩平『ルナティック・レトリバー』:単純に面白く読んで、この人の他の作品読みたいと思った。十分プロじゃないかと。それだけに、選評の指摘に、ミステリってやっぱり難しいんだなと。当たり前だけど。
ネイサン・イングライダー『二十七番目の男』:全然分からなかった。前提知識というか、教養不足。
高田大介『記憶の対位法』:前回に引き続き、「一体、何を読まされてるんだろう?」と。歴史の話語りすぎじゃない?もう少し進んで、物語の全体像が分かれば腑に落ちるんだろうか。 -
Posted by ブクログ
聖書について、10人の研究者や作家たちの解説やインタヴュー記事をまとめた本です。
本書の中心になっているのは、新約聖書学者である田川建三へのインタヴューで、やく三分の一のページ数を占めています。インタヴュアーを務めるのは湯川豊で、主に田川の来歴について尋ねながら、彼がどのような経緯で聖書の研究にたずさわり、どのような同時代的な問題関心のもとで聖書を研究する新たな視角を見いだしてきたのかといった話を引き出しています。
田川のインタヴューにくらべると短いものですが、吉本隆明も本書のなかで聖書とのかかわりを語っています。こちらでは、軍国主義少年だった吉本が、敗戦に直面した日本人のすがたと、聖書にえがかれているイエスのことばとの対比によって、どのような問題をつかみ出したのかということが語られ、やがてその問題意識が『マチウ書試論』へとつながっていったことが回想されています。