桐谷知未のレビュー一覧
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第一次世界大戦後にドイツが体験したハイパーインフレについて書かれた本。デフレ慣れした現代では想像できないが、インフレの恐ろしさが理解できる。初期の頃は、個人消費は活発になり、失業率は低下して株高になるなど見せかけの繁栄となるが、最後は社会がガタガタに崩壊し、あらゆる悪が助長され、病気や貧困がはびこる状況となる。時間が経過するたびに、インフレが猛烈な勢いで進んでいくので、読んでいるこちらも麻痺してしまう。終戦時に5000億個の卵が買えた値段で、その5年後には卵1個しか買えなくなったと表現されている。しかし、不平等が拡大した大混乱の社会を、うまく乗り切った人々も存在し、将来のインフレ時にとるべき行動のヒントになると思われる。
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三大英米SF賞(ローカス賞、ネビュラ賞、ヒューゴー賞)の受賞作・最終候補作を中心に、日本で独自に編まれた6篇の短編が収録されています。受賞は計8回、最終候補は7回です。
かなりソフトなSFです。
たとえば表題作の「陽の光が消えた町で」は、何らかの災害によって日照量が減ってしまった近未来の町で、住民たちが協力し合いながら生きていく姿を描いた、心温まる作品です。例えば、老婦人の命を守るために自転車発電チームを結成、必要物資は交換しあってコミュニティーを維持します。しかし、日照量が減った原因は語られず、描かれるのもその町とその周辺だけです。世界全体がどうなっているのかは見えません。不思議なことに、発電機の燃料としてプロパンガスは出てくるのに、ガソリンをはじめとする石油系の液体燃料は登場しません。でも、それはそれで構いません。科学的整合性を備えた一つの世界を緻密に構築するハードSFとは一線を画し、やや変わった背景設定を与えたうえで、そこに生きる人間のドラマを描くのがソフトSFだからです。
「怪物」と「海を見渡す四姉妹」の2篇にはやや暗い影がありますが、残る4篇は良識と善意にあふれた作品です。そして確かに、受賞作らしい質の高さは感じられます。世評も非常に高い。しかし、どこか私の好みとはずれているようで、何か物足りなさを感じてしまいました。 -
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ヒューゴー賞、ネビュラ賞ほか英米SF賞8冠・いまアメリカで一番人気のSF作家という宣伝文句に惹かれ一応最後まで読んだ。 人との繋がりの心温まる話やファンタジー寄りの作品が読みたい人には良いと思う。でもそれなら日本人作家の方が読みやすいしな、、とも思うので誰におすすめかと言われると難しい。 「報酬は猫の写真で」は割と好きだったので長編版が翻訳されたら読んでみたい。
◯よかった
・世界の流行が知れた
・陽の光が消えた街で(2024年度ヒューゴー賞・ネビュラ賞中編小説部門W受賞)
・海を見渡す四姉妹(2025年度ヒューゴー賞中編小説部門受賞)
・報酬は猫の写真で(2016年度ヒューゴー賞・ローカス賞短編小説部門受賞)
△微妙
・SF要素、驚き、感動は少ない(個人的感想)
・物語の本筋とは別の部分で読みにくかった(精神疾患の薬の種類や登場人物名の多さとか)
・値段が高いので人に薦めづらい(¥2970) -
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面白いけれど予想の範疇を出ない終盤に少し残念な気持ちにさせられた。
熱帯雨林のような地域に中世の世界観を持ってくる試みは面白い。リヴァイアサンという巨獣がもたらす副産物を使い、改変=遺伝子操作をし様々な能力をもった人間を作り出すという設定も、現代的な視座と感覚を上手くマッチさせている。
気になったのは「オフィス」「スタッフ」という用語が挟み込まれる点。中世ヨーロッパを彷彿させるような世界観の中に現代的な印象の強い言葉が出てくるのは違和感があった。
この世界のライフラインははっきりと明示されていないと認識しているが、少なくとも電気や上下水道はない様子だ(メイ・ランタンという蛍みたいな虫で明かりを得、蒸し風呂の用意に使用人がバケツで水を運ぶという描写がある)
体を改造できる技術を持ちながら上記のライフラインがないことにも違和感が残った。
続編があるらしいので、その辺で補足があるかもしれないが、そこまで評価される程の作品のようには思えなかった。 -
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ファンタジー×ミステリな感じ。
神聖カナム大帝国は、海から襲い来る巨獣リヴァイアサンの襲撃を阻止せんため、高度な生体改変技術を発展させている。その辺境のある豪邸で、技術省高官が体から巨大な木を生やした奇妙な姿で死んでいるのが発見された。
設定というか世界観がなんとも魅力的。。。のわりにミステリ部分にはそれほど生かされてないようにも感じてしまった。いや要所要所ではその特殊な技能がキーになっていたりもするんだけど、そういうファンタジーなパートとミステリなそれとは分かれてしまっているような印象でした。今はミステリ部分、今はファンタジーみたいな。
というか日本語タイトルにもなっているように完全記憶能力者である「記銘師」であるディンの捜査なり活躍が面白いところ。最終的な真相は安楽椅子探偵であるアナが解き明かすわけだけども、解き明かすための手がかり収集こそがこの小説のみどころかもしれない。戦闘から隠密からなにからなにまでこなす有能すぎるワトソン役ディンの活躍がなんともいえず爽快。
続編もあるっぽい終わり方だったので期待。 -
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原題は「When Money Dies The Nightmare of The Weimar Hyper-Inflation」、副題は「ドイツ「国家破綻の歴史」は警告する」。
1923年にドイツはハイパーインフレに見舞われるが、これは突然起きたのではなく1914年から1918年まで続いた第一次世界大戦の頃から徐々に進行していった結果だという。著者は、
「単純に貧しくなっただけなら、みんなで協力して問題を解決しようという気持ちが強まっただろう。 インフレ下では、そうはならなかった。インフレには差別意識を駆り立てる性質があり、そのせいで誰もが自分の最も悪い部分を引き出された」
と言う。経済格差と貧富の差が時間と共に拡大し、嫉妬や憎悪といった人間の負の面が助長されていく世の中になるということだろう。
本書は1975年に刊行され、2008年のリーマン・ショックでウォーレン・バフェットが知人に「必読の書」と紹介したと伝えられたために、人気に火がついて2010年に再出版された。 -
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同性愛は犯罪で、人種差別、女性蔑視が蔓延る18世紀。美男子の主人公は、伯爵の長男にして放蕩息子。密かに恋する相手は、自分とは肌色の異なる同性の親友。
その親友と、仲の悪い妹とともに自由を謳歌するはずのグランド・ツアー(周遊旅行)で、思わぬ大事件に巻き込まれていく。
いやはや、主人公がほんっとうにどうしようもない! 人生は配られたカードで勝負するしかない、というのは他のドラマで知った言葉だけれども、もう少し他者への思いやりがあっても……いや、分からないのか……と愕然としてしまう。
親友の言葉を引用↓
「人にどう思われようと気にしないっていうぜいたくは、誰にでもできることじゃないからだ」
しかしこの主人公だからこそ、差別や蔑視を受けながらもまっすぐな親友や妹の生き方が引き立っていたともいえるし、そんな彼らがなんだかんだ主人公を憎めないでいるところに、一面だけで人を語ることはできない、ということなのかもしれない。時代の歪さもある。
どうっしようもない主人公だと思ったけれど、どうか幸せになってほしいというのも本音。