下村敦史のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
江戸川乱歩が還暦のとき創設された江戸川乱歩賞、推理作家の登竜門として歴史を重ね、賞として還暦を迎えた年に、本作が受賞した。主人公が盲目というユニークな設定で、主人公が常闇の中で、歯痒いながらも推理を重ねて、真実に近づいていくプロセス、読んでいる途中で、謎が複線化していき、人間関係に違和感を感じた推理が、最後にどんでん返しにあうか、主人公と同じ真実の闇の中で手探りする感覚が味わえる。
満州開拓団として満州に送り込まれた人々、終戦間際にソ連が攻めてくる情報から、日本を目指して過酷な帰国路を歩む。幼い主人公も、母と兄とともに川を渡って逃れる途上、兄が流されていき、生き別れになる。戦後結婚するが、無理が祟り、主人公は盲目になる。盲目状態への苛立ちや傲慢さにより妻から離婚され、娘も家を出て行く。主人公の自分勝手さにより、娘の結婚相手は去り、娘は未婚のままで孫娘を育てていく。この孫娘は腎臓に問題があり、透析を続けて命をつないでいる。孫娘は娘から生体腎移植を受けるが完治せず、主人公の腎臓は移植には不適合となる。この孫娘の命運が一つのテーマになる。一方生き別れとなった兄は、中国残留孤児として主人公が失明後に帰国し、母とともに過ごしている。主人公は、本物の兄か疑念を持ち続け目が見えない不便さを顧みず調査を始める。この不信感のなか、突然本物の兄だと名乗る人物から電話を受けたり、主人公のもとに、点字で謎めいた手紙が届くようになる。目が見えない故、調査はままならず、不信感が募っていくなか、結末へ滑走していく。 -
Posted by ブクログ
「あなたをプロデュースします」——。
恋愛塾に通う冴えない主人公のもとに届いた一通のメール。それはAIによる人生の指南だった。
AIがワールドカップの番狂わせを連続的中させたことで主人公はその指示を信じ、思考を委ねていく。
人生が好転したかに見えたが、やがて不穏なトラブルに巻き込まれていく。
展開自体は先は読めるものの、続きが気になり面白く読むことができた。
印象的なのは、主人公として描かれた現代の若者像だ。コスパ・タイパを重視し、考えることを放棄して最適解に従う姿は、闇バイトなどに普通の若者が流されてしまう構造とも重なる。努力を避け、テイカーとして生きることの危うさがリアルに描かれており、単なるサスペンス以上の社会性を感じた。
また本作は、自分自身のAIとの付き合い方を省みるきっかけにもなった。知らず知らずのうちに「自分の頭で考えるプロセス」を省略し、AIの思考回路に偏らされていることと同義ではないか、
便利なツールであるからこそ、表面的な処理を任せるのではなく、最終的には「自分の言葉」で思考し、話すよう意識しなければならないと痛感した。
サクセスストーリーに見せかけた転落劇であり、AIに依存して窮地に陥る主人公をどう描くのか、今の時代に非常に相性の良い一冊だ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレおもしろかった!
ただ、かなり重い話でなかなか読み進められず、正直読むのに時間はかかったな…でも終盤に入ってからは一気にスラスラ読めた。
学生時代に授業で習ったことはあるけど、中国残留孤児や満州事変について、改めてちゃんと知るきっかけになってよかったなと思う。知識として知っているだけのときと、物語として読むのとでは、受け取る重さが全然違った。
全盲になったうえに、育ててくれた親が本当の親じゃなくて、しかも自分が純中国人だったなんて、設定としてもしんどすぎる…。どれか一つでも相当きついのに、それが全部重なってくるのが本当に重い。
でもその分、話の作りはすごくうまくて、途中で感じていたモヤモヤが最後に全部つながって「そういうことか!」ってスッキリした。重たい話ではあるけど、最終的にはちゃんとハッピーエンドだなと思えたのもよかったな。
嘘の上に成り立っていたとしても、愛情は本物だったし、一緒に過ごした時間まで嘘になるわけじゃない、っていうところが好きだった。そこは読んでてちょっとほっこりした。
あと、目が見えない世界の描写が印象的で、「見えないってこういう感覚なのかな」と思いながら読んでた。なんとなく、自分も目をつぶったまま読んでいたみたいな感覚…。
★4.5かな
最後まで読むとかなりおもしろいけど、内容が重めで、私の好みど真ん中って感じではなかったので… -
Posted by ブクログ
下村敦史『ガウディの遺言』PHP文芸文庫。
サグラダ・ファミリア、或いはガウディの歴史を下敷にした重厚なミステリー小説にして、家族の物語でもあった。
下村敦史の作品はまさに変幻自在というくらいにその都度、舞台や作風を変化させるので、なかなか底が見えて来ない。これだけサグラダ・ファミリアやガウディについて調べることは並大抵のことではないだろう。そして、それを小説という形に昇華させる腕前には驚かされた。
舞台は1991年、スペインのバルセロナ。現地で父親と共に暮らす佐々木志穂は、真夜中に出掛けて帰ってこないサグラダ・ファミリアの聖堂石工である父親を探している最中に、父親の友人であるアンヘルの遺体がサグラダ・ファミリアの尖塔に吊り下げられているのを発見する。
父親の失踪もアンヘルの殺人に関係していると考えた志穂は、手掛りを求めてサグラダ・ファミリア建設に関わる人々を調べ始めるが、その過程でガウディが遺したサグラダ・ファミリアの幻の設計図を巡る陰謀に巻き込まれていく。
本体価格1,000円
★★★★ -
Posted by ブクログ
「口外禁止」
読後にこのタイトルに、恐ろしさを感じました。
もしかしたら、そういう時代が直ぐそこに迫っているのかもしれない。
いや、もうその時代なのかもしれません。
陰キャで自己肯定感の低い大学生金崎恵介のもとに、一通のメールが届く。
「あなたの人生、プロデュースします」
スーパーAI「AI(あい)ザム」が、人生の様々な出来事に対して、正しい選択を助言してくれるとのこと。
金崎は、AIザムの力を借りることに。すると女性と仲良くなり、楽しく遊べる友達もできたが、ある事件をきっかけに人生は暗転していくことに・・・
といったあらすじ。
AIに相談すれば、最適解を導き出し、無難な人生を過ごすことができそうです。
しかし、AIの助言に頼り何もかも選択して生きた人生は、はたして自分の人生なのか?
そして、今まさにAI第一世代として生きている自分。
考えさせられる作品でした。 -
Posted by ブクログ
兄の正体を探るために知りたかった──、村上竜彦に成りすました偽残留孤児なのかどうか。
──私には真実を突き止める必要があった。
第60回江戸川乱歩賞受賞作。
全盲、中国残留孤児、腎臓移植。これらだけ並べただけでも、かなり見応えのあるパワーワードの数々。
そして盲目が故、一度不信感が募った結果、膨らみ始めた猜疑心はどんどん加速していく。
下村敦史氏の作品は、アルテミスの涙を読んだことがありましたが、物語の構成が面白い。
他作品も楽しみー。
・
・
・
・
・
『第60回江戸川乱歩賞』受賞
『週刊文春2014ミステリーベスト10』国内部門 第2位
『このミステリーがすごい!2015年版』国内編 第3位
歴代の江戸川乱歩賞受賞作で両ランキングのベスト3に入ったのは史上初の快挙!
村上和久は孫に腎臓を移植しようとするが、検査の結果、適さないことが分かる。和久は兄の竜彦に移植を頼むが、検査さえも頑なに拒絶する兄の態度に違和感を覚える。中国残留孤児の兄が永住帰国をした際、既に失明していた和久は兄の顔を確認していない。
27年間、兄だと信じていた男は偽者なのではないか――。
全盲の和久が、兄の正体に迫るべく真相を追う。
選考委員の有栖川有栖氏が「絶対評価でA」と絶賛し、選考会では満場一致で受賞が決定。
第60回を迎える記念の年にふさわしい、江戸川乱歩賞受賞作! -
Posted by ブクログ
スッキリ度80%。
無罪病判事と揶揄されるほどの判事から立て続けに受ける無罪判決。その真意を探ろうとする検事と、判事の孫、妻とも繋がっていく、意図を辿るような話。
途中で嘘?!そんな理由!?と思いましたが、ラストまで読んでなるほど、と納得。
他人から見ただけでは推し量れない重責と覚悟があったんだと思うと、複雑な気持ちになります。
自分や家族が被害者になったとしたら、無罪なんてとても許せません。でも逆に加害者にされたら、なんで、と絶望すると思います。
どちらにならないためにも、慎重になり、知識をつけて、大切な人をちゃんと大切にしたいと思いました。
法廷が、起訴された罪状について有罪無罪を決める場であり、殺意がなければ無罪もあり得る、なんて初めて知りました。
改めて、数々の激務をこなしながら市井を守ろうとする方々に敬意を表します。