「下村敦史」の長篇ミステリ作品『闇に香る嘘』を読みました。
「横関大」に続き、「江戸川乱歩賞」受賞作家の作品です。
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孫への腎臓移植を望むも適さないと診断された「村上和久」は、兄の「竜彦」を頼る。
しかし、移植どころか検査さえ拒絶する「竜彦」に疑念を
...続きを読む抱く。
目の前の男は実の兄なのか。
27年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた「和久」はその姿を視認できなかったのだ。
驚愕の真相が待ち受ける「江戸川乱歩賞」受賞作。
「週刊文春2014ミステリーベスト10」国内部門 第2位
「このミステリーがすごい!2015年版」国内編 第3位
歴代の「江戸川乱歩」賞受賞作で両ランキングのベスト3に入ったのは史上初の快挙!
選考委員の「有栖川有栖氏」が「絶対評価でA」と絶賛し、選考会では満場一致で受賞が決定。
第60回を迎える記念の年にふさわしい、「江戸川乱歩賞」受賞作!
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2014年(平成26年)の「第60回江戸川乱歩賞」受賞作です… 選考会での評価も高かったようなので期待して読みました。
開拓団として移住した両親の子供として満州で生まれ育った69歳の「村上和久」は、戦中・戦後の食糧難による栄養不足が原因で、41歳の時に光を失い盲目になった… それから数年後、満州での避難行の最中に濁流に飲まれ、もはや死んだものと諦めていた兄「竜彦」が中国残留孤児として日本に帰国し、再会する、、、
中国人の養父母に育てられた兄の言動に、日本人とは違う相容れないものを感じた「和久」は自然と距離を置くようになり、兄は岩手の実家で母親と暮らすようになる… 「和久」は視覚障害が原因で妻に去られ、やがて一人娘「由香里」との関係も悪化し断絶、時が経ち、69歳になった「和久」は、腎臓病を患う孫娘「夏帆」への腎臓移植の適合検査を受けるが、数値に問題があり、移植は叶わず、和解しつつあった娘からも冷たい言葉を浴びせられる。
そんな折、残留孤児支援政策の不備を訴え、国家賠償の集団訴訟を起こしていた兄から訴訟費用を無心する電話が入る… またかとうんざりする「和久」だったが、兄に移植の件を頼もうと岩手へ向かう、、、
久しぶりに母の手料理や懐かしい郷土料理を味わい、場の空気が和らいだのを見計らって、兄に移植の検査の件を伝えると、兄は言下に拒否する… せめて検査だけでもと粘るが、兄の態度は頑なだった。
諦めきれない「和久」は、なぜ兄がそこまで頑なに移植を拒むのか理解出来ず、検査を受けると何か困ることがあるのか、兄は本当に自分と血が繋がった兄弟なのか、まさか偽残留孤児ではないかという疑問が頭をもたげてくる… 兄が帰国した時、母はすぐに兄だと確信したというが、既に失明していた「和久」には確かめようがなかった、、、
兄の正体を探ろうと、同じ開拓団で生活を共にしていたかつての仲間たちを訪ね、手がかりになるものがないかと当時の様子を聞くと、兄にはあるはずの火傷の痕がないことが分かる… 間もなく、猜疑心に苛まされる「和久」の元に本物の兄を名乗る男「徐浩然(シュー ハオラン)」から電話が入り、疑惑はますます深まっていく。
時を同じくして、「和久」の元には差出人不明の不気味な内容の点字の俳句が連続して届くようになっていた… その俳句の謎、苦労の末に解いた秘められた暗号は「お前の兄は人を殺した――」と告げていた、、、
臓器移植を頼むが、検査さえも頑なに拒絶する兄「竜彦」の疑惑… 中国残留孤児の「竜彦」が永住帰国をした際、既に失明していた「和久」は「竜彦」の顔を確認しておらず不信感は募る、そして、その疑問をぶつけた母親は「そんな……そんなことしちゃいかん。今さら兄ちゃんを調べ回っちゃいかんよ」という反応だった。
27年間、兄だと信じていた男は偽者なのではないか――
主人公が全盲で満州からの帰国者、満州で生き別れになった兄は中国残留孤児として帰国… しかも主人公は狷介な性格で一人娘との間にも確執があるという設定なので、やや重苦しい展開だし、感情移入もし難い面はありましたが、、、
終盤に意外な真相が判明し、二人の兄のイメージが一変する展開が印象的でしたね… それまでの展開から、勝手に哀しい結末をイメージしていましたが、伏線が見事に回収されるハッピーエンドだったので、その意外性が愉しめました。
巧いなー って、思いましたね。
以下、主な登場人物です。
「村上 和久」
69歳。盲目。41歳の時に失明するまで、カメラマンをしていた。
差出人不明の点字の俳句が郵送されてくる。
記憶障害のおそれがあるからと医者に注意されているのにも関わらず、精神安定剤を酒で服用する習慣がある。
長らく断絶状態にあった娘・由香里との融和を図ろうと、
人工透析を受けている腎臓病の孫娘・夏帆への腎臓移植のための検査を受けるが、
数値に問題があり、叶わなかった。
兄に検査を打診するも断られ、兄が本物なのか疑い始める。
「村上 竜彦」
和久の兄。元中国残留孤児で、1983年の訪日調査で永住帰国した。
国家賠償訴訟中で、和久に訴訟費用を無心する。
「郷田」
大和田海運社員。
赤字が続く輸入事業の回復のため、コンテナでの密航を受けるが、開けておいた空気穴が塞がれ、
密航者たちが窒息死してしまう。
「磯村 鉄平」
「残留孤児の未来を取り戻す会」の会長。
「比留間 雄一郎」
残留孤児支援団体の職員。
「大久保 重道」
90歳。村上一家と同じ開拓団で生活していた。
竜彦への疑惑を聞き、本物ならば右前腕に火傷があることを教える。
「張永貴(ジャン ヨングェ)」
同じ開拓団で生活していた残留孤児二世。
「曾根崎 源三」
竜彦を探して張を訪ねてきたという男。
「徐 浩然(シュー ハオラン)」
本物の和久の兄を名乗り、和久に電話をかけてきた男。大和田海運のコンテナ船で密入国した。
「稲田 とみ子」
元満州移民。現在は北海道在住。