歴史が好きだ、古典の文章を読んでみたい、という嬉しいことを言ってくれた中学生の男の子からおすすめされた絵本。小さいときから、家に置いてあったそうで、何度も読んで大好きな絵本だそうだ。
内容は、源平合戦。源氏方の熊谷次郎直実が、海へ逃れようとした平敦盛の首を取る場面だ。『平家物語』の巻九「敦盛最期」のエピソードに寄ったものだそうだが、敦盛の首を取った後の直実のセリフなどを見ると、作者の解釈によって、原作以上に子を持つ親である直実像が浮き立っている。
ー戦いとは、なにか。
ー人をころすことが、てがらなのか。
ー一番のりは、てがらなのか。
ー武士とは、いったい なんなのか
当時の武士に、こうした言葉で表されるような葛藤があったのかは分からない。けれども、息子の小次郎直家と同じ年の頃である敦盛を討ち、むなしく「波うちぎわに立ちつくしていた」直実の様子は絵と相俟って、見入ってしまうものがあった。
「青葉の笛」というタイトルの割には、笛の存在がささやかな絵本だったな、とも思う。翌朝、源氏一万余の軍が攻めかかろうという夜、平氏方の陣から聞こえてくる笛の音。それを聞いた直実は、「死をかくごして ふいている笛か」「よほど りっぱな武将であろう……」と思う。
笛の音は、「露のようにしみる、静かな うつくしい音色」だった。そんなやさしい音色と、「立派な武将」であることが、どうして結びつくのか。それは、直実にとっての「りっぱな武将」が、ただ猛々しく、いくさに強いことではなかったからだと思う。
敦盛は、見逃そうという直実の申し出を断り、名笛「小枝」を残して潔く討たれることを選んだ。その姿に、直実は、昨夜聞いた笛の主=「りっぱな武将」が、敦盛であることを確信する。笛は、直実の考える本当に優れた武士が、どのようなものかをつなぐ役割を果たしていた。
小さい頃、この絵本を読み、中学生となった子が、『平家物語』を読んでみたいと言ってくれたことが嬉しい。古文に触れたとき、あまんきみこが見た「直実」とは違った「直実」に出会ってくれたらいいな、と思う一冊だった。