佐藤さとる氏の新作が出版されたというのは聞いていたのだが、文庫本になったのを発見して購入。ジャンルは児童書、らしいが、40年位前の子供ならともかく、現代っ子は最後まで付き合えるか、要らぬ心配をしてしまった。
物語的には、与平が九郎丸を人に戻そうと大天狗に直訴するくだりをクライマックスにしてもよかっ
...続きを読むたかなと思う。九郎丸の出生が明かされるまでは、佐藤さとるらしいファンタジーで、一気に読ませるが、そこからは、それまでのキーアイテムだったカラス蓑や笛、といった小道具が活躍せずに、現実世界の話が進む歴史小説風になって、盛り上がりに欠けた気もする。
ただ、人物(と、天狗)描写はぴか一で、それぞれの人物の性格が手に分かり、誰もがいとおしく感じられる。さらっと描いてある脇役も、すごく味があってよい。さとる氏の物語には悪者はおらず、だれも憎めない。これが、安心して読める要素でもあるように思える。個人的には茶阿弥の出番がもっとあればよかったですが。
深いなーと思ったのは、「人間より力のある天狗が、なぜ人間の争いを止めてくれないのか」という与平の問いに、中峰(天狗)が「因縁のない人を攻めるために術を使うと、すべての天狗の術がいたむ」と答えたところ。宗教の「善悪」の概念に通じるところがあるように思える。