王谷晶のレビュー一覧
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初・大谷晶
2025年のダガー賞の翻訳部門受賞の『ババヤガの夜』で有名になりましたが、それで興味を持ったわけでは無く、この本についての好意的な書評を目にしたのがきっかけです。むしろミステリーには手を出さない事にしている私は、受賞を聞いて大谷晶=ミステリー作家と勘違いして、ちょっと躊躇したのです。
しかし、なかなか良かった。
5つの短編。どれも意外な終わり方です。最終盤で少し方向が変わって、かつ完全に決着をつけるのではなく少し曖昧な終わり方。オッそう来ましたかという感じ。個性的で嫌じゃない。
特に「リワインド」。タイムリープを繰り返すケン・グリムウッドの『リプレイ』や北村薫『ターン』の様な”ループもの”のSF的設定ですが、最後に主人公を同時大量発生させて。。。。どう決着をつけるのかと思ったら、その件は放っていきなり未来に戻っちゃった。でも、その放り出しっぷりがなかなか清々しく、突っ込むよりも面白がってしまいました。
もう一冊、どうしようかな。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ初読み作家さん。「君の六月は凍る」というタイトルにひかれて手に取りました。2篇収録。内容は全然違う2篇ですがどちらも私にとっては良作でした。
君の六月は凍る
名前を目にした途端に湧き出てきた、わたしと君の三十年前のこと。狭い世界、ありきたりの日常から兄が出ていくという変化が訪れたころ、ひょんなことから関わるようになった君。
初めての気持ちをうまく処理できず相手を傷つける。語られるわたしと君の過去は読み手の私の思い出も蘇らせる。
思い出でできた数珠玉が連なった糸をずるずると引き出すように語られる過去、その文章に身を任せるだけでその思い出に存在する熱と臭いが感じられました。
ベイビー、イッツ・お東京さま
二次創作BL字書き貧困女子の物語。超ニッチ。書かれる現実は悲惨なんだけど言葉選びが秀逸でテンポよく進む。30年以上前に数年二次創作を読んでた知識だけでなんとかなりましたが本当にニッチだなぁ。…帯に「半私小説的作品」とありました。そうでしたか。
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装丁が「どこかで見たことある感じ」と思ったらテッド・チャンの『息吹』などを手掛けられてる水戸部功さんという方でした。 -
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表題の『君の六月は凍る』と『ベイビー、イッツ・お東京さま』の二本立て。
どちらも匂い立つ(いい意味ではない)感じで、記憶に残りそう。
『君の六月は凍る』は登場人物の名前も性別もはっきりせず、読み手に想像させるのだが、それでも他人に抱く恋慕や恨みにも似た怒りというものは、そういう前提がなくてもスッと入ってくる感じがした。
『ベイビー、イッツ・お東京さま』は、主人公がTwitterやエッセイで読む王谷晶さんそのままで、「自伝?」とも思ってしまった。他県の田舎住まいとしては、東京は光の街のように見えるのだが、なるほど「メトロポリス」と「ゴッサム・シティ」ね。わかりやす…。『君の六月は凍る』でも大橋を境にそんな感じの位置付けになってたな。 -
Posted by ブクログ
「北口の女」があまりに良かったので、これが所収されている本書を手に取った次第です。もう、あんまり覚えていないのですが、最後の「タイム・アフター・タイム」が好きです。歌がらみの話が私のツボにはまるのかもしれません。女同士のドロドロなのも好みでした。SNSとかニコが若い頃には影も形もなかったもの。これの影響力のスゴさに感心すると同時に、こんなんに振り回されてんじゃねぇ、と言いたい気持ちも募ります。そういいつつ、最早、社会とか流行とか風俗とか、そういうものの第一線から遠ざかった、少なくとも外部からはそのように認定されるであろう私。その私に、シンディ・ローパーの気怠いバラードが染みるのです。
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23編の環境も立場も違う「あたしたち」の関係性の物語。百合要素が強めだかそうではない問題を提議する関係も。恋の始まりや終わり、友情やふとすれ違っただけの交流まで徹底して女と女で構成されていて正に帯の「女の人生を変えるのは男だなんて、誰が決めたのさ?」をにやにやしながら叩きつけるのが爽快。23編もあるからなんだこりゃ?な話もあるけどその分刺さる話は直球でやって来る。「しすか·シグナル·シルエット」「だからその速度は」「あなたのこと考えると無駄になる」「ヤリマン名人伝」辺りが好み。「ときめきと私の肺を」や「東京の二十三時にアンナは」の辛い時に静かに横にいる、というのも染みる。
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Posted by ブクログ
ネタバレタイトルにある「探偵小説には向かない探偵」というのがまず気になる。素直に読めば、「探偵小説には向かない」探偵を主人公とした「探偵小説」というのだから、これはもう相当に挑戦的である。本書の説明には、登場する探偵はヘタレとある。だが、ヘタレは探偵小説に向いていないのか、定かではない。一般的には、探偵小説に登場する探偵は、少し変わり者で、何かに偏執的なこだわりを持っていて、鋭い観察眼あるいは深い洞察力(推理力)を備えている。本作に登場するヘタレ探偵は、いずれもほどほどにしか備えていない。別の作品では、資産家の出自で金にものを言わせて事件を解決する探偵もいたが、ヘタレ探偵は有名な探偵の末裔でありながら残念なことに金にも縁がない。
そんなことを考えながら読み始めたのだが、途中からどうでもよくなった。幼少期をずっと山の中で過ごし、通常の文化的生活とは隔離されていたロランなる人物が登場する。山に住んでいたからか、何と動物と会話できる。これまたトンデモな人物が登場する。ロランはこの物語で準主役的な働きをするが、探偵という生き物に輪をかけた変人が登場するに至って、もはやヘタレ探偵が探偵小説に向いているか否かはどうでもよくなった。小説である以上、畢竟面白ければいいのである。
三話で構成されているが、話としては一つにつながっている。巣鴨というロケーションの選択も絶妙だ。巣鴨という名称が連想させるように、個性派集団と称していい連中が登場する。ロランは彫りの深いギリシャ彫刻を思わせるイケメンの設定だが、個性派集団のおばさまたちはロランにメロメロである。
ヘタレ探偵とロランはそれぞれにいくつもの危機に直面する。ヘタレ探偵の割に、時として命の危険さえ感じるような出来ごとにも遭遇する。ドタバタコメディの趣を伴って、物語は進行する。そうしたドタバタを経て、ヘタレ探偵はやおら鋭い推理を働かせるのである。
それはたしかに、これまで一般的に「探偵小説」に分類される物語に登場する探偵とは異なるかもしれない。だから、典型的な「探偵小説」には向いていないのだろう。だが、「探偵小説」に向いているにせよ、向いていないにせよ、ヘタレ探偵は素敵な愛すべき探偵であることは間違いない。本作の続編を望む声は多いが、その声にささやかな一票を投じたいと思う。