深沢七郎のレビュー一覧
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多分、最初に読んだのは中学生の頃だと思う。
きょう、奈良の「ふうせんかずら」で発見して嬉しくなったので、即決で入手した。
冒頭の正宗白鳥先生との思い出が、とにかく面白い。
名前が白鳥だけど庭に池がないとか、同時代に活躍中の作家について「その人は今生きている人ですか」と尋ねて先生に教わったりといろいろ(本人的には)まずいこといっちゃったなあという思い出が淡々とつづられている。
読んでいると、深沢さんという人は、自分も含めて周囲の人をみんな好ましく思っていて、とにかく人間が好きなんだな、と思う。
新潮社のサイトでプロフィールをみると、戦前から活躍するギタリストでもあり、1960年に『風流夢譚』が -
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また中公文庫で深沢七郎の本が出たから買った。こうやって出てくるものをどんどん買っていくと重複も多く、この随筆集の巻頭「流浪の手記」は結構まえに読んだちくま文庫『深沢七郎コレクション 転』にも入っていた。
しかし読み終えてからやっと気づいたのだった。深沢七郎の随筆は完全に「話体」であり、読んでいる最中はおもしろく読むけれど、流れゆく川のようなもので、あまり強い記憶を残さない。そのように流転し続ける自然の河川のようなイメージが、作家・深沢七郎の本質でもあるだろう。
本書の中では、クラシック音楽について言及したところが興味深かった。
「クラシック音楽は音を楽しむのではなく音楽に思想だとか、感情 -
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深沢七郎のちくま文庫場版アンソロジー、この巻は小説集。先日の中公文庫と「みちのくの人形たち」だけが重複している。
民俗学的なようでいて民俗学でない、虚構の土着性がおもしろい「東北の神武たち」など。
すこぶる長い「千秋楽」が印象的だった。
役者の弟子である青年が、初めて舞台に立つことになったと思ったら、それは歌や踊りやヌードなどがごたまぜになったショーで、そこで妙な人物たちと出会い、3ヶ月に及ぶ興行の日々を延々と描いている。最後もオチらしいオチはなく、著者のエッセイのように、はぐらかしてストンと終わってしまう奇妙さ。だがこの長々と書かれた興行記は、深沢七郎ならではの味わいに満ちているし、何故か淡 -
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深沢七郎コレクション 転 (ちく 深沢七郎の文章にはものすごいオーラというか、魂というか、とにかくものすごいものがうごめいていると思った。むしろそのうごめいているものがそのまま文章になって跳ねたり跳んだりぐったりしたりしているような・・・。サラッとした「うまい文章」とは真逆の性質だと思った。この本は読んで面白いし、名言だらけでとても良かった。特に『秘戯』には深く感動した。そして解説まで読むと、また別の所から感動が溢れてきて涙が出そうになった。実はエッセイの方はあまり興味がなかったのですが、試しに読んでみて本当に良かった。本当に良い本でした
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犬も猫も好きだけどちょっとだけ犬に軍配が上がるかつて犬と暮らしていた私ですので、どのエッセイも愉しく、胸に沁みました。
好きな作家さんも多く、以前に読んだことがある文にまた出会えて嬉しい。
このシリーズは他にも猫、珈琲、酒、おやつ…とまだまだあるようなので少しずつ読みたいな。
以下好きなエッセイ覚え書き。(一部です)
犬の生まれ変わりに違いないと熱烈に思っている押井守氏、ノラの犬猫を見かけたら放ってはおけない愛情深い米原万里氏、手塚治虫氏による犬が人間のそばにいる理由を描いた漫画、坂口安吾氏がわがまま檀一雄氏のために秋田犬を無心するお手紙、椎名誠氏の犬の系譜と怒りと悲しみの別れ、深沢七 -
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ネタバレこのころの農民の命の重さが悲しい。親方様に従うのが悲しい。はらはらしながらよんだ。
お爺が粗相をして殺されたシーンが辛かった。足を怪我して手当じゃなく。汚したとして殺された。
最後まで褒美なんて貰えるはずもないものをきたいしてて。辛い。
すきなのはおけい。おけいがこどもが生まれない理由を責められて暇をいただきやす。とあっさりでていつたとこはかっこよかった。素直で働き者でマッぐな正確がとても羨ましい。
ボコ。戦。農民。
巻き込まれてしまうのは弱者。生まれ変わりの考え方が興味深かった。たくさんの人が死んでしまった。死には意味はないかもしれないけど、平和だったら生はまっとうできたのになとおもう -
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深沢七郎のエッセイ集。思いを迸らせるわけでもなく、斜に構えるでもなく、自然と出てきたという趣の言葉が並ぶが、その言葉が不思議で奇妙な味を持っている。「屁は生理作用で胎内に発生して放出されるもので、人間が生まれることも屁と同じように生理作用で母親の胎内に発生して放出されるのだと思う。私は一九一四年一月二十九二値、山梨の方田舎町ー石和に屁と同じ作用で生まれた。人間は誰でも屁と同じように生まれたのだと思う。」というのは、著者が紡ぐ言葉にも言えそうな気がする。
「私は手紙をもらったり、会って話したりすることは四季に咲く花をながめるのと同じで『いまはきれいだが、あとではシボんでしまうんだ』とそんなつも -
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戦国時代を舞台にした小説といえば、通常は戦国大名やその家臣の活躍を描いた歴史小説が挙げられるであろう。本作もまた武田信玄軍の一員を主人公にしているのだが、しかしその身分は武士ではなく、みずから軍に加わった農民である。これだけでもめずらしい設定であるといえるが、しかし本作の特異な点を挙げるとすれば、そのようなことではないであろう。とにかく、人が死ぬのである。中上健次の「紀州サーガ」にも似たような、田舎の前時代的な社会を描いているため、系図がないと容易に把握できないぐらい多くの人物が登場するのであるが、その大半がつぎつぎに亡くなってしまう。当時の平均寿命などを考えれば、それはとくにおかしいわけでも