深沢七郎のレビュー一覧

  • 笛吹川

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    甲斐の武田三代の時代が舞台。例えれば川が海へ流れ入るごとくに、戦で無為に命を奪われ続ける反復。戦にかかわる理由は個々にあれ、好むも呪うも等し並みにどうしようもなく巻き込まれる人間を、おそろしく無慈悲に描く。

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    2014年01月25日
  • 甲州子守唄

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    山梨の農村からアメリカに出稼ぎに出て財をなし、戻ってくる長男を中心にした一家の、母から見た戦前戦後の年代記。

    田舎の村の感じがこれでもかと書かれていて怖い。文体も独特で、冗語を多用してキレがないところが、田舎の雰囲気をバッチリだしている。

    主人公や主体といったものを軸にドラマが展開する近代の小説とは全然趣きが違う感じがする。もっと集団的、集合的な田舎の人々のあり方が、じわじわと描かれている。
    その点、マルケスの百年の孤独とおんなじような読後感。とってもいいけれど、ただ、あちらのドキドキ感に比べると、面白さでは一歩落ちるか。

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    2014年01月09日
  • みちのくの人形たち

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    不思議な文体に、うねうねと続くトンネルを這っていくような気持ちがした。
    ほの暗い、それでいて湿り気のある、長くて細いトンネル。そこを進んでいくのは、まるで胎内めぐりをしているかのようだ。

    収録されている短編はどれも土着的な色合いが濃く、直接的にはそれらに関係のなさそうな短編でも、不思議と土の匂いがする。
    私は特に、「秘戯」にもっとも打たれた。どぎつくて、生々しくて、それでいて悲しい、とても好みの短編だったと思う。

    しかし、どうしてこう、土俗的な話というのは恐ろしいものが多いんでしょうねぇ。

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    2013年08月16日
  • 花に舞う・日本遊民伝 深沢七郎音楽小説選

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    深沢七郎の、音楽に関連する小説を集めた短編集。
    深沢七郎は小説を書くよりも前からずっとギターを弾き、歌ったり作曲したりもしていた。彼の音楽上のスタイルはよくわからないが、たぶん、民謡系/歌謡曲系/本来の意味での日本フォーク系だったようだ。
    この短編集に収められている作品には、既読のものもあり、相変わらず妙な味を残すもののどうということもない小品もあるが、最後の2編にとりわけ惹かれた。
    「変化草」は中学生のとりとめもない日常を描き、なるほど深沢の語り口は、思考のまとまりのない中学生的光景をうつしだすのに適していたんだな、と気づいた。イデオロギーとも芸術とも「内面」とも関係なく、ひたすらに生き続け

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    2013年07月29日
  • 庶民烈伝

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    深沢七郎のこの本を読みたいなあと思っていたら、ちょうど中公文庫が出してくれた。ありがとう。これからも深沢七郎出して下さい。
    最初の「序章」と「おくま嘘歌」はちくま文庫の『深沢七郎コレクション 転』にも掲載されていたので再読。
    「序章」は「インテリ」や庶民あがりの金持ちとの談話で「庶民とは○○だ」という可笑しい議論を繰り広げるのだが、よく読むと、作者本人とおぼしき「私」が最後の方で自分は庶民なのか、庶民でないのかと自問する場面がある。
    「庶民」ばかりが横溢する小説を書いた深沢は「庶民」だったろうか? ふつうの意味での「文学者」たちとは一線を画した彼はやはりどちらかというと「庶民」の方にいるのだが

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    2013年02月11日
  • 甲州子守唄

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    「笛吹川」「千秋楽」などと同様に、延々と流れ続ける無窮の川のような趣の、深沢七郎作品。
    土俗的な「庶民」の生活をたいした起伏もなく描き続けるが、つまらないわけではない。退屈はしない。しかしクライマックスとか、見事着地、といった感の結末もない。
    冒頭、笛吹川岸辺に住む貧乏家族の徳次郎がアメリカへの出稼ぎを決意しているところから、徳次郎が主人公で、彼の視点から語られていくのかと思ったら、彼がアメリカに行ったとたん、視点は彼の母親(オカア)に切り替わる。アメリカでの出稼ぎ生活が具体的にどんなものなのか、最後まで謎のままだ。
    そしてアメリカから徳次郎が戻ってくると、まもなく彼の視点に語りの座は移り、ま

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    2012年11月18日
  • みちのくの人形たち

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    深沢七郎の名作『楢山節考』を読んだのはたぶん高校生の頃で、よく覚えていない。その後見た映画版のほうが印象に残っているくらいだ。
     しかし深沢七郎はどうやら「奇妙な作家」ということで他にも面白い小説をたくさん書いているらしいことは知っていた。
     ようやく43歳を目前にして読んだこの短編集、実に面白い。
     表題作の冒頭から、とにかく特異な文体にめまいを覚える。文法的にもなんか妙なところがあるし、「・・・なのだ」という文末が変なタイミングで執拗に出てくる。一体、こんなふうにしゃべる日本人がいるのか? これは異邦人の言語、ねじこまれ変容した日本語である。
     そんな独特な語り口に乗せられながら、『楢山節

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    2012年09月14日
  • 甲州子守唄

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    相変わらず、自分がこれをどう捉え、どう感じているのかを言い表すことが難しい作品です。
    土俗的な語りと言われているが、素朴とか純真さはあまりなく、登場人物たちはどこまでも現金だ。人々の身も蓋もない本音の部分を包まず見せるからだろうか。母親の息子をみる眼が、最後まで子への無償の愛などからはかけ離れ、何を考えているのか分からない他者としてみているのが印象的だった。
    また、太平洋戦争時に田舎の百姓がどう振舞ったか、一つの補強資料になった。

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    2012年08月24日
  • 笛吹川

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    武田信玄ものはいろいろ読んだが、
    この作品は甲斐の国の領民を描いている。
    領民と言っても笛吹川沿いに暮らす最下層の農民たちの
    六代にわたる物語である。
    日常の中に飢えがあり、自然死があり、農民の逞しさあり、
    洪水で家が流される・・・・
    若い時読んだ印象に比べ。、いま再び読んでみると「笛吹川」が問題作、名作と言われる所以が少しはわかる気がした。

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    2012年03月23日
  • 深沢七郎コレクション 流

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    ネタバレ

    この本の一番最後に載っている「みちのくの人形たち」が読みたくて購入した.読みたかった理由は,昔どこかである人が,今まで読んだ中で最も怖いホラーとしてこの話を紹介していたためである.
    この本には6つの話が掲載されている.「東北の神武たち」と「揺れる家」,「千秋楽」,「女形」,「流転の記」,「みちのくの人形たち」である.「女形」のみ中編であり他は全て短編である.以下それぞれについて覚えている限りのあらすじと感想.
    「東北の神武たち」:確か,寡婦が毎晩村の男に順番に抱かれにいくというときに,主人公だけ順番を飛ばされるという話.主人公の執着心が凄まじかった.
    「揺れる家」:主人公は子ども.母親と祖父が

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    2011年08月03日
  • 笛吹川

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    不気味で読んでいて恐ろしくなってくるにも関わらず、読む手を止められないという不思議な体験。人が生まれ死んでいく、世界とはその繰り返しなのであると、語られているわけではないのにそう感じずにいはいられない薄気味悪さがあった。

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    2025年11月21日
  • 作家と犬

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    犬の話は、いつの時代の話でもどこの犬の話でもいやはやなんとも言えず可愛いものである。
    ましてや、作家先生の犬の話ともなるとそれぞれの筆致がユニークでなんだか楽しかったなぁ

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    2025年11月17日
  • 作家と犬

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    坂口安吾目当てで読みました。
    知ってる人のお話だけ読んだけど、ワンコとのほっこり話もあまりないし、ちょっと期待外れかな…

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    2025年08月28日
  • 作家と犬

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    今の時代だったらアウトな内容の物もあったけれど、その当時はそれが当たり前で通常だった。
    時代と共に在り方が変わって来たけれど、いつから変わったのか明確な境目ってあるのかな…なんて読みながら思った。
    それぞれの家庭でのルールに従い、犬も一緒に生活をすることは人間にとってもかなり良い効果をもたらすと私も実感をしている。
    犬を育てるということは心配な事も度々起こるけれど、存在自体がとっても可愛いし癒しである。
    ずっとこれからも元気に長生きしてほしいと願うばかり。

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    2025年08月09日
  • 作家と犬

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    作家や著名人の犬エッセイショートショート。

    著名な作家を中心に、漫画家、イラストレーター、映画監督など、著名人が犬について書いたエッセイ集です。犬との出会い、犬との思い出、別れなど、テーマ別にまとまっていて読みやすかったです。が、それぞれが短いということもあってなかなか頭に残りませんでした。印象的なエピソードは、椎名誠のお母さんのトラウマ級の非道で、そんなことされたら僕も一生恨むだろうなあ、と思いました。あとは彫刻家の舟越保武さんの章や、寺山修司の話もよかったです。いせひでこさんのイラストエッセイはほんわかしました。うんうんそうだよね、犬ってそういうヤツだよね。
    しかし全体的には昭和が中心の

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    2024年07月23日
  • 作家と犬

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    作家さんたちと犬の関わりを通してプライベートをちょっと覗き見したようなかんじになる。あの作品を書いてる傍らにいたのかなーとか。

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    2024年06月29日
  • 言わなければよかったのに日記

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    軽めのエッセイである。抱腹絶倒とかいてあるけど、さほどおかしいことはない印象。最後の武田百合子さんとの対談も雑談以上のものはなかった。

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    2022年04月09日
  • みちのくの人形たち

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    タイトルのお話が一番よかった
    暖かいまなざし
    優しい言葉
    さりげないおもてなし
    でも、その裏にある厳しい現実と、
    引き継ぐ思い・・・
    思い

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    2022年01月13日
  • 笛吹川

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    楢山節考の深沢さん、小説を読むのは7年ぶりくらいか。甲州武田家の盛衰に合わせ、無惨に殺される農民一家。次々に生まれては、次々に殺される。武士の機嫌やなんでもない病気、ちょっとした不注意や勘違いなどで呆気なく死ぬ。知恵も金もツテもない。実際にこんなふうだったんだろうなと思わせるリアリティを感じる。リアルすぎて、救いがなく、嫌な感じ、残念な感じが残る。みてきたかのように描く筆力がすごい。

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    2022年01月06日
  • みちのくの人形たち

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    エディプスコンプレックスの物語ってやつは
    ひっくり返せばライオスコンプレックスとべったり背中合わせだ
    つまり、子殺しの欲望がはじめにあって
    それへの反発から親殺しの欲望も生まれてくるわけだ
    「楢山節考」で親殺しを書いた深沢七郎も
    キャリア末期には、子殺しばかり書いていた
    間引き、去勢、近親強姦などといったものである
    しかしその語り口は軽く
    因果と言ってよいものか、ちょっとよくわからない
    最後は、まつろわぬ民の自死を経て
    自らも子供に戻っていく

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    2021年10月08日