深沢七郎のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
戦国時代。江戸の士農工商というカースト制度が、各身分を分離する以前、このころは、農民が領主のためにいくさに参戦し、死に、あるいは手柄を立てて褒美をもらったものらしい。
この小説に出てくる農民の一族は、武田信玄の一族のために戦い、死ぬ。あるいは富裕になりすぎて妬まれ殺されたり。やがては武田氏の敗退とともに、追い詰められることになる。
それでも彼ら農民は領主にさからうでもない。黙々と肉体を捧げ、黙々と死んでゆく。この無限の繰り返しが、妙に日本人的であるとともに、不気味な生の成り立ちをイメージさせる。
最後の方で末子が
「この土地の者は、みんなお屋形様のおかげだ」
と言いだし、周囲の者たちはそれは逆ではないか、われら一族、お屋形様のせいで犬死にしていったではないか、といぶかる。
しかしこの<転倒>がこの小説の要であって、虫けらのごとき平民が殿様のためにひたすらに生命を捧げてゆくその円環を決して壊さないために、歴史は言い換えられ、<主人>の権力の強さへの盲目的な賛美を要求するのである。
かくして円環は永遠に回り続ける。生はそこに呑み込まれ、無言で従うだけだ。犬死にで終わる生のすべては再び、何度でも、繰り返される。永劫回帰である。
しかし小説としてはやはり冗長な感じがないでもなかった。土俗的な世界観は面白いのだが・・・。