戸部淑のレビュー一覧
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衰退した世界に示す「自分らしさ」とは
人類は衰退しましたシリーズ最終巻。思えば年末から読み進めたので1ヶ月でシリーズ九巻読破という働いている中ではフルスピードで楽しめた作品であった。
世界の仕組みが解き明かされる最終巻、読み手のわたしが感じたのは衰退していくという、いわば緩やかな死に向かう世界において、「今」を生きるには、そして「未来」を生きていくために必要な「自分らしさ」の確立であると思った。
自分は特段優れているわけではない、そういった感情はどの人も心の中に持ち合わせている。ただ、我々も不確定な世界の未来を生きていくためには「生きてきた意味」を祝福し。「生きている意味」を自らの中に持ち、「生きていく意味」を覚悟として示し続ける必要がある。
少しでも得意なことがあれば、それを生きていくために使えばよい、苦手なことがあれば人と手を取り合いながら生きていけばよい、苦手に見えることも見方や常識、囚われを変えれば、外せば、それは得意に、よさになるかもしれない。
生きていく中で一番大切なのは明日への希望、生きるために必要なその瞬間への喜び、そして生きてきた自分たちを信じる思い、そういった「生に対する熱量」を私たち読み手も何気ない日々に感謝、何気ない関わりに感謝しながら、「人間らしく」生きていきたい。 -
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「衰退した」現実に別れ、「理想的な」夢に溺れて
人類は衰退しましたシリーズ第8巻。随分と読み進めてきた今回のテーマは衰退した現実からの逃避。「夢」の存在や「拡張現実」の存在を通して都合の良い理想に溺れ、依存していく様を考えることができた。
これは何も小説の中のメルヘンな世界だけに存在する話ではなく、我々の今生きている現実社会にも起こっているデジタル空間との向き合い方なのだろうと思った。何をしても上手くはいかない、良くならないという現実に向き合うとどうしても自分にとって都合の良い理想の世界に溺れてしまう。
スマホ依存などもあるように私たちの熱量や意志の弱さから、主体がいつの間にか「我々」から「デジタル媒体」に移行し、理想を果たしている姿から、理想に溺れている姿になってしまう経験は多かれ少なかれ我々読み手にも存在する。
夢や仮想から現実に戻っても我々の「外の世界」は変わっていない。ただ我々の「内の世界」は夢や仮想の干渉を受け日々変化してしまう。自己内世界の変化は自己による外の世界の見え方や解釈を変えてしまう。それをコントロールするのは「自己」。制御下に置かれなければ次第に自己内世界が飲まれ、外と内の境が無くなる。それは自己の消失の一歩目とも言えよう。
我々読み手も良い作品を読むと世界の見え方や解釈が変わる。それは素晴らしい自己内世界の変化による「外の世界」の見え方の変化と言える。我々は自分達の意志を持って本と出会ったり、また読み返したり、浸ったりすることが大切ではないだろうか。その本との出会いが本の世界に「溺れる」ことなく、本の世界を通して読み手の世界を「拡張」していけるように。 -
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衰退した世界の「これから」に遺す「人」と「記録」は、先史時代を生きた旧人類の生きた証
人類は衰退しましたシリーズの第7巻は、「わたし」が教師になったり、ヒトモニュメントと呼ばれる記録媒体に関わったりとこの衰退した世界の「今」より先の「未来」に焦点が当てられていた。
衰退した世界において、過去をどう「生きてきて」、今をどのように「生きている」かが重要視されてきた中で未来をどのように「生きていく」かを見ると今を生きる者たちの未来の世界における責任としての教育や記録が大切なのを改めて感じた。
教育として、記録として人の営みを人の生き方を伝えていく、その様式を繋いでいくことがまさに生物としての本能であるが故、この妖精さんたち新人類に主が渡ったこの世界の旧人類の人々たちにその本能が薄れているのを感じた。
それはこの作品だからというわけでなく、今の我々が生きている世界、変わりゆく世界においても人の営みを、生き方を人の温もりで伝えていかなければ、そこに「熱」がなければ、「愛」を感じられなければ伝えられた営みも生き方も価値がなくなってしまうのではないだろうか。
世代を超えて愛されるという言葉があるように、人と人とを繋ぎ、伝わっていくものには他とは違う何かが存在する。それが何なのかに気づき、それから目を背けずに大切に伝えていくこと、それこそが我々の世界においても、「衰退」してはいけない「生きていく」心なのかもしれない。 -
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衰退してもなお、心の中に湧き上がる浪漫
人類は衰退しましたシリーズの第六巻。田中ロミオさんによる妖精さんのメルヘン(少々の毒味)の世界が心地よい作品。今回は「鳥人間大会」や「同人誌販売」といったものに近いものが描写されておりそこにあるのは衰退してもなお人々の心の中にある浪漫、エネルギーであった。
文化レベルが衰退し、自分達の時代が終わりつつある旧人類の中にもこのような自分達がやりたいと思うこと、やってみたいと思うことに対するパワーがこのように描写されたら人類はどの段階でも知的欲求に満ち、常に進歩し続けるような存在であるんだなぁと思った。
描写にはバカらしいと思うところもあるかもしれない。それは私たちの今の世界にもあり、一歩外側からのテレビの前、スマホの前では人の熱量を小馬鹿にしたり、冷笑したりすることもある。ただ内側の世界にいる人々にとってはどんなにバカらしく見えてもそれが喜びであり、楽しさであり、「生きている、生きていく。」ということだと思う。
そう思うと私たちがこれから生き抜いていくためには、自分達の思いで何かに取り組み、汗を流し、楽しむ。そういった当事者意識が大事なんだなと思った。そういったものが生きがいになるのであればそれはその人それぞれ何事でも良いし、その何事もその人の生きがいであるのであれば何人たりともそれを犯すことなく、その人らしさをただ受け入れる。それだけで少し世界の見え方も人との関わり方も変わるかもしれない。 -
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何が生きていて、何が生きていないのか、読み手の視点、主観が揺さぶられる。
人類は衰退しましたシリーズの五作品目は「わたし」の過去の学校生活での話。少しずつこのメルヘンかつダークなこの箱庭世界の不思議が明らかになりつつある中で、過去編を通してより今の「わたし」ができるまでの深掘りが行われていた。
学校編では久々に「わたし」と人間(旧人類)の生き生きとした会話ややり取りを見れことができ、学園ものに少しの不思議をスパイスにするとそこに世界が生まれる様子が手に取るようにわかった。妖精さんがあまり出てこない、同時に妖精さんを見つけ出そうとする集団もいる中で出会えた妖精さんとのやりとりは「切なさ」を感じさせ、同時にこの世界の有り様がまた深掘りされつつ揺らぎを見せつつであった。
後編のゲーム編ではすごいメタ描写のある中でこのゲームのように作られた世界を「わたし」たちはどう見ていて、その世界を読み手の私たちはどう見ていてという二層構造が面白かった。同時にラストにかけての伏線回収、設定の真相、そして最後の挿絵を読むとこの世界の見えようがまた変わるというより、今まで私たちが読んできたこのメルヘンかつダークな世界は何が本当で、何が偽りなのかがまたわからなくなりそうなゾワっと感があった。
何気ない描写や一文、そしてそこにいる「わたし」の死生観などが読み手の読み取った世界に干渉し作り変える、私たちが読みの主体のはずなのに、気づいたら主体を読み物の世界の者たちに奪われているような、そんな体験。次回も楽しみ。 -
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2026年最初の一冊は昨年最後の方に読んだ「人類は衰退しました」の続編。田中ロミオさんによる、不思議でほんわかしたメルヘンワールドの中に旧人類の「わたし」が様々な新人類の妖精さんや様々な怪異との出会いが描かれていた。
2巻は不思議な世界での不思議な出来事といったものがギュギュッと詰められており、身体がちっちゃくなってしまったり、何度も同じような場所と時を繰り返してしまったり、自己の縮小、消失といったこのような不思議な世界であったらはちゃめちゃに楽しいなぁ(読み手として)といったことがたくさんあった。
またその不思議な出来事、怪異とも呼べるソレに対する解決策もとてもよく、なんだろう人を傷つけないような世界観が広がっていた。特に後半の「自我が曖昧な少年」探しに対しての不思議な出来事の影響には、ありがちかもしれないがでも万人が好きな展開や解決がなされていた。
作品全体として気に入っていることとして読み手として、ある種箱庭とも言えるこの「ほんわか」には「わたし」、妖精さんの両方の行動ややり取りに引き込まれる世界観があるのに対して、
主人公の「わたし」にとってもある種箱庭と言える世界観が妖精さんたちの関わりの中で描かれているところ。不思議な力、タイムリープ、得体の知れない妖精たちが織りなす、2層構造の箱庭がこれからどのような世界観を見せてくれるかを次巻の楽しみにしたい。 -
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作品名はあえて伏せさせてもらうが名作アドベンチャーゲームのシナリオライターとして有名な田中ロミオ氏による小説作品。わたしはアニメ化された本作も見たことがないので作品の世界観に触れるのは初めてだった。
人類が衰退する中で新たに台頭してきた新人類は争いをしない、お腹も空かないちっちゃな妖精たち。そんな妖精たちの織りなす生活はときにのんびり、ときに急速といったマイペースなものであった。
妖精さんたちの一つ一つの言動がとても可愛らしく、まるでそうお人形遊びをしているかのよう。そのような可愛らしい妖精さんたちと触れ合うかつての人類である「わたし」はそのセカイの観測者であるとともに、そのセカイを分岐させ影響を与える上位存在たるものにも感じた。観測者の影響によりセカイが分岐するというと15年前ほど、2010年代に流行した世界線系のループ作品を彷彿とさせる。そういえばこういったほのぼのさは2000年代の日常系作品らしさも感じる。
ほのぼのとした暖かい世界観にも「なぜ人類は衰退したのか」「なぜ妖精さんたちは現れたのか」などといったさまざまな伏線が張られている。作者の作家性にも注目しながら観測者である「わたし」をさらに観測する「読み手」といった構造を楽しみながらこの世界の秘密をこれからも知っていきたいと思った。 -
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ネタバレめちゃくちゃ面白かった。
昔アニメを見ていた記憶があって、十数年越しに結末がどうなったのか読みたくなって手を出し、見事にハマってしまった。
ゆるっとした童話のような世界観から繰り出される少しブラックで、サブカルチックなコメディはやっぱり面白かった。特に友人Yが暴走する回はどれも個人的にお気に入り。そして、後半で明かされる世界の全容には、物語の設定的な面白さだけに留まらない、人類に対する作者の哲学も含まれているように感じた。
終盤、その設定の部分でキーワードになっていた「光」という概念は一体なんだったんだろう。それは妖精さん達が憧れる人類だけが持つ心の光とも、それがこの世界の推進力となっているとも語られていた。
これは読んだ人によって感じるところが変わる部分だと思うが、個人的には、精神的な困難を乗り越える人間の心の強さじゃないかと感じた。
作品全巻を通してのわたしちゃんの行動はまさにそれを体現していて、困難な課題に直面して孤独や無力感を感じた時でも、調べ、行動し、時には周囲の力を頼って課題を解決してきた。
そんな活動を通してわたしちゃんが成長していく姿に心を打たれたし、人類の底力を信じて自分自身も頑張ってやろうと励まされている気がした。