津原泰水のレビュー一覧

  • 羅刹国通信

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    どうやら未完らしい。確かに続きを感じさせるラスト。ルピナス探偵団の人がこういう幻想小説も書くなんて知らなかったな。連載が2001年ってことは出てきた震災は東日本じゃなくて阪神淡路なのか。当時に比べると、鬼になることがポジティブに捉えられる世の中になったかもね。

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    2025年05月17日
  • ブラバン(新潮文庫)

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    40代の今を主軸に、高校時代を回想する形式。高校時は「一体何なんだ」と言葉にできない、掴みどころのない経験が、時間を隔てる事で肝がわかる感じになってると思う。
    だから、つい自分の高校時代を思い出す。

    行ったことないけど、きっと同窓会に行ったら同級生の事を「あの頃あんな事してたから今こんなだわ」とか、「上手いこと世渡りしよるんは、気づかんかったけど、あの頃から策士だったんだろうなぁ」とか、過去に結びつけるような解釈を、頭の中で勝手に繰り広げるんじゃないか。それを大掛かりにした感じの小説かもしれない。

    一番気になるのは、来生が何者か。
    少し前の小説なので違うと思うけど、もしも今、映画化されたら

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    2025年05月08日
  • バレエ・メカニック

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    ネタバレ

    美しい、悪い夢だなぁ。
    巻き込まれる東京にとって悪夢なだけで、理沙は普通に夢を見ている。
    理沙の夢に引きずり込まれて、幻想世界かと思ってたらどんどんサイバーパンクへ。
    文章は美しいし、寂寥感が漂ってて好きでした。どうにかして対抗しようとしてももう、全てが手遅れな気配です。

    筒井康隆先生が帯書くはずだ…と、昔々に読んで観た「パプリカ」を思うなどしました。確か空気感が全然違うけど。
    幻想とSFの垣根をやすやすと行き来する津原先生の世界をもっと読みたかったです。

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    2025年04月29日
  • 夢分けの船

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    読んでからしばらく経ってから感想だけ書く。津原泰水先生の作品の中では凄く好きな方ではないかもと読んでいる最中は思った筈なのに読み終わってから何度も思い出してしまうのでやっぱり好きなんだと思う。印象的なシーンが多い。大きな蛾を二人で出そうとするシーン、目の不調のために回廊のような病院に行くシーン、最後の岡山と主人公の別れのシーン。そして特徴的な文体。きっとまた読み返すと思う。

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    2025年04月20日
  • ヒッキーヒッキーシェイク

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    え、ここで終わるのかよと思わず声が出そうになった。
    曲者揃いのとあるプロジェクトの顛末を追いかけているが、これがまあ本当に一筋縄ではいかないし良い意味で狐につままれたような気持ちになった。
    ネットを介しているのでその辺の展開やスピード感はとても早い。これは騙しているのか、それとも? こんな作品もあるのかと驚くばかりだ。

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    2025年03月25日
  • 綺譚集

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    ネタバレ

    妖しくて、恐ろしくて、美しくて、摩訶不思議な世界が、様々な文体で綴られている短編集。
    面白かった。
    幻想的な世界に引きずり込まれるような感覚が、実に気持ちいい。
    「天使解体」「玄い森の底から」「脛骨」「アクアポリス」
    あたりがお気に入りだった。
    ちょっと癖になる中毒性がある作家さんだな。

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    2025年02月12日
  • 羅刹国通信

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    不思議な感覚で意識が曖昧、頭にモヤがかかった状態で読むとなんとなく理解できる。そして文豪作家より読みやすいと思ったら少女向けの小説も書いていた作家。羅刹国という夢の中の精神世界とでもいうのか、そこは砂漠で最終を探すため歩き続ける。留まる事は死を意味する。
    死に至った主人公はまた羅刹国に戻っていたそこで話は終わるが本当はまだ続くらしいが完結する前に作者が亡くなって未完のまま出版された。
    でもこのまま終わっても読み応え充分な作品で羅刹国の描写や主人公の心情は理解できるしもっと深い意味があるという余韻に浸る事ができる。
    初期の精神疾患を患っている設定なのか常軌を逸していないので理解不能には至らない作

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    2024年09月01日
  • バレエ・メカニック

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    ネタバレ

    いつまでも目覚めることができない悪夢のような小説だった。
    けれど流れるような美しい文章にスーッと吸い込まれていくようで、読んでいて苦にならない。語り手が冷静で、あまり感情的でない点もいい。難しくてなんのことを言っているのか分からないシーンもあるのに、読む速度が落ちないのが不思議だった。
    自暴自棄のような木根原の生き方も、すべては娘の事故から始まったと分かった瞬間に嫌悪から同情に変わった。第一章の終わりで、死んでいく娘と語らうシーンは特に良かった。娘と父親だけが知っている美しいシーンだった。この別れのためにあの幻覚があったのかと納得した。
    第二章で理沙が消滅していないことが判明したときは鳥肌が立

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    2024年08月20日
  • 羅刹国通信

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    理恵は十二歳のとき、崖から叔父を突き落として殺した。高校生になった理恵は、見知らぬ少年に「人殺しのくせに自分が鬼だと気づいていない」と言い放たれ、自分の額に二本の角が生えているのを知る。それから理恵の夢は角を持つ者たちが互いを貪り合う〈羅刹国〉へと通じるようになった。2000〜2001年に発表された作品の初の書籍化。


    未完扱いらしいけど本当に続きを書くつもりあったのかな。確かにもう一段深いところへ潜り込んでいくところで終わっているようにも思えるけど、強烈だけど魅力もある悪夢から、灰色で虚無的な現実に着地する宙ぶらりんの余韻が相応しい作品にも思える。空想的な飢えと争いから、現実的な経済と労働

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    2024年06月02日
  • 羅刹国通信

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    解説の方は自己完結的なフィクションだと最初思ったと書いていたけれど、私には最初からこれは社会と人のありようを示した寓話のように思えた。本当は対立がないかもしれないところに二項対立を自ら作り出し、どちらかの側に着くと決めて戦う。それがいつの間にか生きるよすがになっている。多分、そうしている方が楽だから。でも、その二項対立を超えて次の世界へ至る様がラストシーンなのだろうと感じた。きっとそうする力が、個人にも、社会にも、あると信じたいという気持ちが結実したようなラストだった。読み終えてしばらく、感慨に耽ってしまって動けなかった。きっと折に触れて思い出し読み返す作品になるだろうと思った。(人によって解

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    2024年05月04日
  • 五色の舟

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    近藤ようこさんの絵は余白が多く、その空間に常に寂しさ悲しみ静けさが感じられます。そういった空気感と共に話が進行していきます。
    読み進めていくうちに物語の中に彷徨いこんでいき、読み終わったあとには不思議な読後感とともに印象的な話が懐かしい思い出のようにずっと胸に残ります。

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    2024年03月09日
  • 夢分けの船

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    『ヒッキーヒッキーシェイク』をきっかけに著者のことを知り、『たまさか人形堂』を読んでみたらこれがまさに好みど真ん中。本作では語り手の巧みな語り(方言もだけどそれだけでなく)に翻弄され、読者は時代や空間、夢と現実の境い目を行き来させられる。2022年に急逝されたので本書が遺作となってしまったが、過去作品が次々と文庫化もされているのでこれからの楽しみにしたい。

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    2024年02月07日
  • 妖都

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    圧倒的なまでの90年代の香りを醸し出す作品。
    バブル期日本の思想が無く、目的もなく、ひたすら周りよりいかにイケてるかという軽薄なかっこよさと同時に存在する虚無感と死への誘い。
    岡崎京子のリバーズエッジや岩井俊二のリリィ・シュシュのすべてを思い出さずにはいられなかった。
    解説でラストがオープンエンドであることに触れられていたが、エヴァにしろ何にしろこの時代の作品はオープンエンドが多い。結局目指すべき方向性とその基となる思想を失っていた時代なのだからきっちりとした結末を用意できない事は仕方がない。
    心地よいナルシシズムと表裏一体の自己破壊願望を存分に堪能しつつも、やはり時代と寝た作品でもあると思っ

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    2024年02月04日
  • 夢分けの船

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    宛字(借字)の文体に慣れるまでは、いちいち気になってしまうが、リズムが掴めてしまえばシンプルな青春物語だった。修文モテすぎやろと思いつつ、物語の終い方が好きだった。

    著者、亡くなっていたと知らず。あとがきで驚いた。

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    2023年12月12日
  • ブラバン(新潮文庫)

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    自分の結婚式で、高校時代のブラスバンドを再結成・演奏してもらおうと企画したのをきっかけで、当時の部員の今昔を描き出す。語り部となるのは立案した女性ではなく、彼女の一年後輩の男性となる。地元に残って酒屋(描写としてはバー)を営んでおり、昔の仲間とも

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    2023年10月09日
  • 11 eleven

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    ネタバレ

    どの短編もそれぞれの個性があって濃厚だが読みやすかった。意味はわからなくてもなんだか頭に残るという作品が多い。たぶん最後の一行が余韻を残しているのだと思う。
    書かれている女性たちがリアルな女の姿に思えた。こういう人いるよね、となんとなく思うことが多かった。
    全部良かったけれど「五色の舟」「手」「クラーケン」「YYとその身幹」「土の枕」が印象的かな。
    中でも「土の枕」は凄いと思ったが、まさかほぼ実話とは!
    戦争で混乱しているときならあり得ることなのかもしれない。偽りの身分で騙し通したこと、本当の名前をもう自分以外に知っている人はいないこと、奇妙な虚しさに包まれた。
    私は、自分が何者かを決めている

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    2023年09月12日
  • 綺譚集

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    例えばこういった感想のようなものを書いていると、自分の文才の無さに絶望的な気持ちに陥ってしまうのですが、津原泰水は文章を綴ることが楽しくて仕方がなかったのだろうなと思わせるような多様な文体で楽しませてくれます。
    幻想小説というのは、ストーリーよりも、その文体が持つアトモスフィアによって成り立つものだと常々思っていたのですが、まさにその通り。どの作品も作品の中に溢れる空気がもう違います。
    ただ、興味深く読んだのは、「赤仮面傳」「玄い森の底から」「ドービニィの庭で」。僕自身はストーリー重視のようです。


    津原泰水は川上未映子の「わたくし率 イン 歯ー、または世界」が本書収録の「黄昏抜歯」からアイ

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    2023年05月10日
  • クロニクル・アラウンド・ザ・クロック

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    色々と話題になった「ヒッキーヒッキーシェイク」を読もうと思いつつも、青春、音楽、ミステリと僕が読むべき要素満載のこっちの本を。
    音楽の描写もミステリ要素も面白かったけど、自分が青春小説を読む年代ではなくなってきたな…と思い至る。
    もっと早くに出会うべきだった作品。

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    2023年02月26日
  • ヒッキーヒッキーシェイク

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    早く寝なきゃ、なのにページを繰る手が止まらない。あぁ今夜も夜更かしだ…。
    久しぶりにそんな読み方が出来た。
    軽快だけど軽過ぎず、適度に読みやすい文体。

    変に道徳的過ぎないのも好ましい。全ての登場キャラクター達に純粋な意味でのハッピーエンドは無い。それぞれに甘辛ミックスな現実がある。
    だけど最後には一筋の希望の光が。

    スレてしまった大人でも心が温かくなる、爽やかな青春冒険譚。

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    2023年02月13日
  • バレエ・メカニック

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    津原泰水版ニューロマンサー。ようやく読めた。一章が二人称、二章が一人称、三章が一人称複数で書かれているところなども含めて、あらゆる技術を使って遊んでいるような印象の小説。すごい。そもそも幻想とSFの混じったようなこの世界観を人の頭に想起させつつ文章ひとつひとつも美しいのはどういうことなんだと頭を抱えてしまう。多分いろんな意味で理解できていないところもたくさんあるのでまた読み返したい。犬や馬の描写のあたたかみが好き。

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    2022年12月13日