津原泰水のレビュー一覧
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40代の今を主軸に、高校時代を回想する形式。高校時は「一体何なんだ」と言葉にできない、掴みどころのない経験が、時間を隔てる事で肝がわかる感じになってると思う。
だから、つい自分の高校時代を思い出す。
行ったことないけど、きっと同窓会に行ったら同級生の事を「あの頃あんな事してたから今こんなだわ」とか、「上手いこと世渡りしよるんは、気づかんかったけど、あの頃から策士だったんだろうなぁ」とか、過去に結びつけるような解釈を、頭の中で勝手に繰り広げるんじゃないか。それを大掛かりにした感じの小説かもしれない。
一番気になるのは、来生が何者か。
少し前の小説なので違うと思うけど、もしも今、映画化されたら -
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不思議な感覚で意識が曖昧、頭にモヤがかかった状態で読むとなんとなく理解できる。そして文豪作家より読みやすいと思ったら少女向けの小説も書いていた作家。羅刹国という夢の中の精神世界とでもいうのか、そこは砂漠で最終を探すため歩き続ける。留まる事は死を意味する。
死に至った主人公はまた羅刹国に戻っていたそこで話は終わるが本当はまだ続くらしいが完結する前に作者が亡くなって未完のまま出版された。
でもこのまま終わっても読み応え充分な作品で羅刹国の描写や主人公の心情は理解できるしもっと深い意味があるという余韻に浸る事ができる。
初期の精神疾患を患っている設定なのか常軌を逸していないので理解不能には至らない作 -
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ネタバレいつまでも目覚めることができない悪夢のような小説だった。
けれど流れるような美しい文章にスーッと吸い込まれていくようで、読んでいて苦にならない。語り手が冷静で、あまり感情的でない点もいい。難しくてなんのことを言っているのか分からないシーンもあるのに、読む速度が落ちないのが不思議だった。
自暴自棄のような木根原の生き方も、すべては娘の事故から始まったと分かった瞬間に嫌悪から同情に変わった。第一章の終わりで、死んでいく娘と語らうシーンは特に良かった。娘と父親だけが知っている美しいシーンだった。この別れのためにあの幻覚があったのかと納得した。
第二章で理沙が消滅していないことが判明したときは鳥肌が立 -
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理恵は十二歳のとき、崖から叔父を突き落として殺した。高校生になった理恵は、見知らぬ少年に「人殺しのくせに自分が鬼だと気づいていない」と言い放たれ、自分の額に二本の角が生えているのを知る。それから理恵の夢は角を持つ者たちが互いを貪り合う〈羅刹国〉へと通じるようになった。2000〜2001年に発表された作品の初の書籍化。
未完扱いらしいけど本当に続きを書くつもりあったのかな。確かにもう一段深いところへ潜り込んでいくところで終わっているようにも思えるけど、強烈だけど魅力もある悪夢から、灰色で虚無的な現実に着地する宙ぶらりんの余韻が相応しい作品にも思える。空想的な飢えと争いから、現実的な経済と労働 -
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解説の方は自己完結的なフィクションだと最初思ったと書いていたけれど、私には最初からこれは社会と人のありようを示した寓話のように思えた。本当は対立がないかもしれないところに二項対立を自ら作り出し、どちらかの側に着くと決めて戦う。それがいつの間にか生きるよすがになっている。多分、そうしている方が楽だから。でも、その二項対立を超えて次の世界へ至る様がラストシーンなのだろうと感じた。きっとそうする力が、個人にも、社会にも、あると信じたいという気持ちが結実したようなラストだった。読み終えてしばらく、感慨に耽ってしまって動けなかった。きっと折に触れて思い出し読み返す作品になるだろうと思った。(人によって解
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圧倒的なまでの90年代の香りを醸し出す作品。
バブル期日本の思想が無く、目的もなく、ひたすら周りよりいかにイケてるかという軽薄なかっこよさと同時に存在する虚無感と死への誘い。
岡崎京子のリバーズエッジや岩井俊二のリリィ・シュシュのすべてを思い出さずにはいられなかった。
解説でラストがオープンエンドであることに触れられていたが、エヴァにしろ何にしろこの時代の作品はオープンエンドが多い。結局目指すべき方向性とその基となる思想を失っていた時代なのだからきっちりとした結末を用意できない事は仕方がない。
心地よいナルシシズムと表裏一体の自己破壊願望を存分に堪能しつつも、やはり時代と寝た作品でもあると思っ -
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ネタバレどの短編もそれぞれの個性があって濃厚だが読みやすかった。意味はわからなくてもなんだか頭に残るという作品が多い。たぶん最後の一行が余韻を残しているのだと思う。
書かれている女性たちがリアルな女の姿に思えた。こういう人いるよね、となんとなく思うことが多かった。
全部良かったけれど「五色の舟」「手」「クラーケン」「YYとその身幹」「土の枕」が印象的かな。
中でも「土の枕」は凄いと思ったが、まさかほぼ実話とは!
戦争で混乱しているときならあり得ることなのかもしれない。偽りの身分で騙し通したこと、本当の名前をもう自分以外に知っている人はいないこと、奇妙な虚しさに包まれた。
私は、自分が何者かを決めている -
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例えばこういった感想のようなものを書いていると、自分の文才の無さに絶望的な気持ちに陥ってしまうのですが、津原泰水は文章を綴ることが楽しくて仕方がなかったのだろうなと思わせるような多様な文体で楽しませてくれます。
幻想小説というのは、ストーリーよりも、その文体が持つアトモスフィアによって成り立つものだと常々思っていたのですが、まさにその通り。どの作品も作品の中に溢れる空気がもう違います。
ただ、興味深く読んだのは、「赤仮面傳」「玄い森の底から」「ドービニィの庭で」。僕自身はストーリー重視のようです。
津原泰水は川上未映子の「わたくし率 イン 歯ー、または世界」が本書収録の「黄昏抜歯」からアイ