津原泰水のレビュー一覧
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『バレエ・メカニック』から読みはじめた私としては、津原泰水ってこんな作品も書けるんだーと、ちょっと意外。
まったく毛色が違うけど、すごく好きな作品。
祖母の遺品として出てきた夭折の詩人の日記を孫・耿介に渡しに行く暁子。楽器職人である耿介はお礼に赤い竪琴を渡す。それを自宅に持ち帰る暁子。
翌日、暁子は耿介に恋をしていると気づく。
ここで、暁子と一緒に耿介に恋できるかどうかで、この作品の評価が分かれそうなんだけど、私は耿介の登場から完全に目にハートマークがついてました。
でも、よく読むと、耿介の容姿につてはまったく触れられてないのよ。
なのに、「この人好き」って思えるってどういうこと?
私はそれを、津原泰水の文章力の凄さだと思ってます。
暁子は夭折の作家となにか関係があったのではと思われる祖母との関係を、自分たちの関係になぞらえます。
こういう思い込みも、なんか共感できる。
私もそういう妄想タイプだ。
好きだと思いながら、積極的になれない、線引をしてしまう暁子と、それに呼応したかのように淡白な耿介の他人行儀な関係にイライラしつつもドキドキしてしまう、そんな恋愛小説です。 -
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このルピナス探偵団は元々1994、95年に講談社X文庫TEENS HEARTから『うふふルピナス探偵団』『ようこそ雪の館へ』の2冊が発売された。その後著者は少女小説家を卒業してしまったのだが、その後その2冊分を大幅に改稿し(『うふふルピナス探偵団』は「冷えたピザはいかが」と改題されている)+もう一編「大女優の右手」を書き下ろし、原書房ミステリー・リーグから『ルピナス探偵団の当惑』として2004年に単行本化された。今回はその原書房で単行本化されたものの文庫化である。X文庫版も、原書房版も読んだのに、また買って読んでしまった。普段なら文庫で756円なんて高い!!と思ってしまう私ですが、元々の文庫がそれぞれ400円、420円だったことを考えると2冊文+αで756円は安い!そして、面白い。10年間で3つの出版社にまたがって発売されていることからもその面白さはうかがえると思う。たまたま密室の謎を解いてしまった事によって(その事件については本の中では詳しく書かれていない)、刑事の姉不二子が持ち込んでくる事件を、解決するように迫られる日々を送る彩子。彩子は友人であるキリエ、マヤ、そして憧れの人祀島くんとともに謎を解く。どうして殺人を犯した直後に被害者に食べ残したピザを食べていったか、 どうして血文字のダイイング・メッセージは鏡文字になっていたのか、どうして女優の死体から右腕だけが盗まれたのか。少女小説らしい軽妙さと、本格的な謎の融合が魅力的。彩子の恋がどうなっていくのかも気になる。秋に発売される続編『ルピナス探偵団の憂愁』も楽しみだ。
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ネタバレ主人公達が羅刹国と呼んでいる夢の中での出来事と、現実での出来事が交互に語られていく形式で進んでいく物語。
物語の解釈について、単行本の解説内で解説者さんが幾つか提示されていたり、著者さんの思惑も記されていたりしたけれど、私は羅刹という設定の裏側に隠されている意味は深く考えず書かれているそのままを楽しみました。
羅刹国での共食いの様子とか、Gをどっかから出しちゃうとことか、結構グロテスクな場面があるんだけど、オノマトペで表現されてないからか割と淡々と状況が語られていて、それが良かったです。
気味の悪いオノマトペが散りばめられているお話も悪くはないと思うけど、オノマトペに頼らない表現方法で進んでいくお話の方が想像の幅が広がるように思える。
あと、ちょっとだけ違和感というか気になったというか。
主人公が固定電話使ってたり(2000年にスマホはまだ無い)、バスの運賃を現金で払っていたり(交通系ICカードっぽいのもまだ無かったはず)、昔よく耳にしたメントール系の細いタバコの銘柄が出てきたり。
25年ほど前に文芸誌で発表された物語だから、これはしょうがないよね。。
昨年読んだ「改元」に近い読み応えだったけど、設定はこちらの方が好みなので、羅刹国の新たな場所にたどり着いた所で終わってしまったこのお話の続きは永遠に望めないということが非常に残念です。
(と思う一方、むしろこの終わり方がより幻想的な感じを深めていて良いのかも…と思ったりもするけど)
表紙の、このグレーの淡い感じも内容に合ってる気がしてます。読む前は単に幻想的な感じを出してるのかなって思ってたんだけど、読み終えてからは、羅刹国の荒涼とした地に佇んでる理恵を横から見た場面(黒髪が風になびいていて、鼻元がちらっと映ってるような)にも見えたりして。
あと、カバーめくったら、ハードカバーの上下に若干の黒ずみがあって。表表紙は左上に裏表紙は右下にあるから、これは多分意図的ですよね… 羅刹国通信って、羅刹国から戻って来た あるいは羅刹国にいる間に理恵が書いたのかな、それともこの本を汚れた手で持って読んだのかな、そんな風に勝手に解釈して楽しんでます。 -
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百年に一度生まれ、未来を予言すると言われる生き物「くだん」。鬼の面をした怪物が異形の家族に見せた世界の真実とは。(『五色の舟』)
津原泰水さんの短編集。
幻想的だったりSF風、怪奇小説風だったり、作品によって変わる文調も印象的です。
個人的に好きだった話は『土の枕』。戦時中の話で、津原さんの母方の血筋の「ほぼ実話」だそうです。こんなふうに誰かと入れ替わったり、もとの戸籍を失ってしまった人なんかもいたのかな。色々と考えるきっかけになり、戦争に関する日が多いこの8月に読んでよかったです。
『クラーケン』も良かったです。大型犬を飼う女性の話。女性の鬱屈と後に起こるであろう悲劇に思いを馳せずにいられない。
『テルミン嬢』の悲劇的でありつつ壮大な雰囲気も好き。
どの話も閉塞的でありながら遠くに思いを馳せるような、望郷の念にかられるようなそんな短編集でした。 -
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始まった時点で、普通ならヒロインになるだろう存在が死んでるってのはなかなか凝った構成。
なんのかんので、柏木とか普天間とかとのエピソードが甘酢っぱい感じで、主人公モテモテだよなあ。元ブラバン顧問の先生ともそういう関係になっちゃうし。
父親にエレキベースを買ってもらうエピソードとか、事故で右腕を失った辻からベースを渡される話とか、バンド経験者にはたまらんな。名言もいっぱい。
再結成の話なのに、普通なら一番の見せ場になるはずの演奏シーンがないところが斬新。それでいてこれだけ魅力的な話をかけるということに驚いた。作者はホラーの人だと思ってたけど、こういう話を他にも書いているなら読みたいな。
以下は刺さったフレーズ。
すっかり酔ってしまった風情の笠井さんが僕をつかまえて言う。「他片くん、ビゼーはええねえ。ビゼーの曲はやさしいねえ」
ビゼーを優しいと感じる、あなたが優しいのだ、と僕は思った。
「どこ行っとった」
「平和公園に」
彼は目を見張った。「ローマ法王か」
「はい」
「聞いてわかったんか」
「日本語でした」
「ほうか」と彼は顎に手をあて、「ええ話じゃったか」
「僕らにじゃのうて、神様に祈っとられました」
「最後まで聞いたんか」
「はい」と僕は頷いた。
彼も頷いた。「ほいならええ。出席にしとく」
悪魔の手先ではなかった。
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40代の今を主軸に、高校時代を回想する形式。高校時は「一体何なんだ」と言葉にできない、掴みどころのない経験が、時間を隔てる事で肝がわかる感じになってると思う。
だから、つい自分の高校時代を思い出す。
行ったことないけど、きっと同窓会に行ったら同級生の事を「あの頃あんな事してたから今こんなだわ」とか、「上手いこと世渡りしよるんは、気づかんかったけど、あの頃から策士だったんだろうなぁ」とか、過去に結びつけるような解釈を、頭の中で勝手に繰り広げるんじゃないか。それを大掛かりにした感じの小説かもしれない。
一番気になるのは、来生が何者か。
少し前の小説なので違うと思うけど、もしも今、映画化されたら、きっと彼は黒幕だ。