ドリアン助川のレビュー一覧
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構成作家の卵である「ボク」は明日の見えない闇の中でもがいていた。
そんなある夜、何となく立ち寄った新宿ゴールデン街にある花梨花という小さな居酒屋で、野良猫を可愛がる夢ちゃんという女性店員と出逢う。客には無愛想だが不思議な優しさを秘めた夢ちゃんに「ボク」は惹かれてゆく。
2人は次第に距離を縮め、猫についての秘密を分け合い、大切な約束をするのだが…。
読んでいる最中に、これはもしかしたら、程度は分からないけれど作者の実体験も入っているのかな?と思った。というのも、夢ちゃんは詩作が趣味で、その夢ちゃんに影響されて主人公も詩を書き始めるくだりがあって、2人が書いた詩も作中に登場するから(作者は詩人でもある)。
新宿ゴールデン街にある小さな居酒屋の描写も妙にリアリティがあって、いかにも実在しそうな雰囲気。
読み終えた後にある一部分がノンフィクションであることが明かされて、やっぱり、と納得した。
「ボク」は色弱というコンプレックスを、夢ちゃんは生い立ちの壮絶さと斜視気味であるというコンプレックスを抱えていて、生きる上でのハンディを感じた経験から生きづらさを抱えながらもどうにか生活を立てていた。
そんな2人だからこそ、多く言葉を交わさなくても分かり合える部分があったし、惹かれ合ったのだと思う。
それが実を結ばないとしても、ずっと心の中に在って忘れることはない相手というのは実際にもいる。同じ世界の中で幸せでいてくれることを心から願える相手。
ドリアン助川さんの小説には生きづらさを抱える人が多く登場する。読んでいて共感する部分もあるし、うまく立ち回れない登場人物に胸苦しくなることもある。
だけどいつも優しい。他人から見れば幸福な人生には見えないかもしれないけれど、それぞれ幸せなかたちを見つけて生きていく人たちの姿が描写されているから。
読み終えた後はじーんと温かい気持ちになる。
この小説もそうだった。すぐ側にいそうな平凡な人たちのひっそりとした人生ドラマが、丁寧に綴られていた(ちなみに猫の描写もとても丁寧だった)。
「ボク」と夢ちゃんの、お互いを守り大事に思う気持ちが眩しく、そして切ない物語だった。 -
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主人公の望太は社内で起きた窃盗の罪を自分に被せようとした同僚を殺してしまい、6年間服役した。退所後も定職につかず、今はホームレスとして暮らしている。離婚した妻は娘の絵里を連れて再婚。しかし娘には父親の名さえ教えず、死んだことにしている。そして絵里は新しい家族の中でネグレクトされている。近くで生活しながらお互いに知らないこの親娘を交互に描きながら物語は進みます。
河に身を投げ自殺しかけた望太を救ったホームレスの指導者や仲間、どこか仙人めいたホームレスの老人・ブンさん、性依存症の女性、ホームレスを襲撃する若い男、望太が暮らす多摩川の流れのそばには様々な傷を持った人物が登場します。
そして家を出た絵里は典型的なDV男と同棲し、やがて知らずに望太に接近します。
ブンさん(=水辺のブッダ)のスピリチュアルな言葉もなかなか面白い。さらにそれとの関係は曖昧ですが、エンディングで望太と絵里がつながる様に得る前向きな悟りはとても心地良く。
この手の話にありがちな押しつけがましさの少く、良い話でした。 -
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売れない構成作家の卵と過去に傷を持つ女性の淡い恋の物語。
バブル期の新宿ゴールデン街にたたずむ居酒屋・花梨花。
山崎は色弱で、希望した就職ができず、有名構成作家の元で仕事を始めたが、大勢の人に向けたメッセージを生み出すことに喘いでいた。
花梨花にふらりと入った山崎は、店員の夢ちゃんと出会う。
夢ちゃんは斜視があり、不思議な雰囲気を持つ女性で、猫好きでもあった。
その店では、店の窓に現れる猫を予想して賭けをする「猫じゃん」をしていて、夢ちゃんお手製の「猫の家族図」が張ってあった。
次第に夢ちゃんに惹かれていく山崎は、ある日、夢ちゃんの悩みを聞くことになったが、2人の間は突然引き裂かれてしまう。
時代は流れ、2人は再会する。
ドリアンさんが描く雰囲気が好きです。 -
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新宿ゴールデン街。ちょっと怖くて胡散臭いけれどちょっと憧れます。
かつての捻じれた若者達が大人になった今、昔どうしてそうなったのか分からない事だらけで、どの扉を開ければ未来につながっているのか全然分からなくて、悶えていた時の気持ちは今も残っているでしょうか。
たくさんの猫がひょっこり顔を出す居酒屋。店員の女の子の書いた猫の家族図。猥雑でどこか暖かな人々。色弱というハンデを背負って夢であった映像の道を絶たれ、いつも背中を丸めてもがいているような主人公。初速は遅いけれど読んでいるうちに心に加速がついて、心が次々追い抜かしていく風景はかつて自分が見た風景だったような気がしました。
昔が懐かしく、過ぎ去った時間が戻らない事が悔やまれるように、今の時間も同じように戻れない愛おしい時間だと感じさせてくれる本です。
ドリアンさんの視点は優しい。
また信頼できる作家を一人発見。 -
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先日亡くなった樹木希林さんに敬意を表して読みました。
映画は見ていませんが、プロログの徳江さん(おばあさん)登場の場面は希林さんの演技を彷彿させました。なるほど映画の脚本のような書きぶりの小説でもありました。
どら焼きの中身、小豆の美味しい煮方指南などは微笑ましいが、すぐに徳江がハンセン氏病完治者とわかってくるのにしたがって、じっとりと空気が重くなってくる。
登場人物の3人が3人とも、それぞれ社会から疎外されている屈託を抱えている。それをことさら怒るんではなく、恨むのでもなく淡々としているように描写しているのが、かえって胸迫るのだろう。
そういうことはみんなあるよね、といいながらそれが「みんなの思い」にならないことがわかっているからである。
普通が平等にならない、しかし人間の存在はみんな同じではないとわかってみれば、生きにくさに向かっていく勇気が出るのだ。 -
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ドリアン助川さんの書くものって、いつも心に深く食い込んでくる。短いエッセイでも、人生相談の回答でも。映画にもなった「あん」の読後感など忘れがたい。これもまた、胸の奥に沈んでずっとそこに残るに違いない一冊。
音楽で生きようとニューヨークで苦闘する三十過ぎの拓人が主人公だ。語学学校で出会う若者たちや、バンドを組む仲間たちと、ぶつかったり心をふれあわせたりしながら、なんとか道を開いていこうとする姿が語られていく。みなそれぞれに、自覚しているか否かにかかわらず国や民族を背負っていて、その軋轢やそれを苦しみながら乗り越えようとする姿に胸が痛くなる。
これだけでも異国の地でもがく若者(三十過ぎてるけど。この点も切ない)を描いたものとして十分読ませる。コリアンのユナと近づいていくあたりなど、恋愛小説からはとんと遠ざかってるわたしだが、胸を締め付けられるようだった。
だがしかし、これだけではなかったのだ。読み出してすぐ、舞台が2001年年明けのニューヨークであることから、間違いなく同時多発テロがストーリーに関わってくるだろうとは思っていた。ツインタワーの姿も折に触れて出てくる。その予想通り最終章は9月11日の出来事である。それでも…、ここまでの展開になるとは思いもしなかった。
なにが起こるのかも衝撃だが、それ以上にその描き方に意表を突かれた。同時に、あのテロに対する自分の見方がいかに底の浅いものだったか、痛いほど感じずにはいられなかった。イスラムがどうとかアメリカがどうとか、そういうことは別次元で、あの時確かにたくさんの(本当に数限りない)世界が崩壊したのだ。その重みに、今さら打ちのめされる。 -
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多摩川、京王線、土手沿いの遊歩道の風景、これはまさに地元です。京王線沿線の啓文堂さん(これも地元の本屋さん)にお勧めのポップと一緒に平積みされてあり、思わず手にとった次第です。
8つの短いストーリーが微妙に絡み合い、そこかしこに出てくる多摩川周辺の風景に、地元ごひいきには、幾度となく”あるある”、”そう、あそこの風景”とうなずいておりました。
ストーリーはどれも仄かに切なく、じんわりと心にしみてくるお話し。中でもバードウォッチングの絡んだ「越冬」は、大栗川と多摩川の交差する知る人ぞ知る野鳥のスポットでもあり、私も幾度となく足を運んだ場所。どこかで作者のドリアン助川さんと出会っていないだろうかと思うと楽しくなってしまいます。
多摩川、多摩丘陵は東京の郊外で自然が残る本当に良いところです。是非足をお運びください。サイクリングロードの自転車散歩がおすすめです。