Posted by ブクログ
2013年06月02日
わが庵は都のたつみしかぞ住む世をうぢ山と人はいふなり
喜撰法師
現代短歌は「交通標語」のような歌ばかりで、平安期の在原業平らが見たら「こんなものは和歌ではない」と言うだろう―主人公がそんな辛口批評を投げつけるのは、高田崇史「QED(=証明終わり)」シリーズ二作目、「六歌仙の暗号」だ。
小説...続きを読む冒頭で、民俗学を学ぶ女子学生が「七福神」を卒業論文のテーマに選ぶ。だが、彼女の大学ではそのテーマは禁止だった。禁止の理由が明かされぬまま、薬学部の教授が実験室で突然死してしまう。さらに助手も刺殺され、残されたのは血文字のメッセージ。連続怪死事件の謎を解くべく、同大OBの薬剤師桑原崇が登場。京都をドライブしながら、事件と七福神、そして「六歌仙」の謎解きが進められていく。
宝船に乗った七福神と、古今和歌集の六歌仙。まるで接点のなさそうな両者だが、桑原は鮮やかに結び付けていき、目が覚めるような展開だ。言霊の時代であった平安期、和歌は事象をありのままに歌うということはなく、言葉の持つさまざまな力を信じていたことが再確認される。
掲出歌は、百人一首にも採られた著名な歌。「都のたつみ」とは、平安京の巽【たつみ】の方角で、東南を意味する。本書では「しか」に「鹿」の漢字をあてて新解釈がなされ、それも読みどころの一つだ。
薬剤師の免許を持つ作者だけに、薬学の知識が巧みに織り込まれ、さらにカクテルのうんちくなど、雑学好きな読者を喜ばせる仕掛けもあちこちにある。一作目の「百人一首の呪」も併せて読むことをおすすめしたい。
(2013年6月2日掲載)