奪衣婆さんのレビュー一覧
レビュアー
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安定のシリーズ
いくつもシリーズものがある速筆多才の作家だが、流石に熟知の専門職ものだけあって、雰囲気に借り物感がないのが良い。
同時に、長年の従事の中から感じ取ったであろう感触がテーマとなっていること、これに敢えて東洋格言・禅公案から採取した表題を付していることも、「死の不可思議」との遭遇~すれ違い感の醸成に向いていると思う。
人物造形はお手の物だし、表層の言語活動と深層の心理の距離感を示す独話と会話が、敢えて描写のおどろおどろしさを相殺す専門の日常」の描写に成功していることも熟達の筆致のなせる技。
ただし、プロット構成はこの作家にしては単純ないし簡素で、ミステリーとしてはシンプル、だから読みやすいと...続きを読む -
背後設定が甘い
アート・ミステリとしての出来は2作目以降徐々に向上していく。登場人物のからみ合いも同様だが、2作目ではまだ最初の構想の細部が詰まっていなかったのこか、スケッチ風のままで、人物設定に奥行きがなく、そのためどの人物のイメージもぼんやりしている。政治的背景を絡めたのはトライアルだろうが、実のところアイディアに頼っているだけで書き込みが足りない。おそらくこの作家の手に余る問題だっただろう。
3作目あたりから、アートそれ自体を焦点とする扱いになっていく。描かれる世界は狭くなるが、むしろ作家の美術と美術史に対する関心と調査が表面に出て、作品としての凝集度は上がっていく。BMとのつながりをさっさと切ったの...続きを読む -
プロットはそこそこだが・・・
よくある骨董探偵ものとしては、伏線配置も含めて安定感はある。しかしイギリスの下調べが不十分。実際に行っていないのではとさえ思う。旅行案内と地図と写真を活用か? 最初に引っかかったのは地下鉄をtube という表記だった。イギリスでも理解されないわけではないが、tubeは米語で、イギリスでは一貫してundergroundという。ロンドン市内随所の表記もそうなっている。地下鉄駅の地上案内板のデザインがお土産として人気なほど。 一度でも訪れたことがあれば、うっかりtubeと言ったときに「は? ああ・・・このガイジンさんは[もの知らず]・・・」という、やや冷笑めいた視線の経験があるはずだ。
さ...続きを読む -
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シリーズ第一作にして最高作
作者自身が抱えていたかと推測される「情の業」を描くために、超越存在(「神」)が「理」でさえないことを暗示する設定になっていると思う。ただし作者がそれをどこまで意識し得ていたかははっきりしない。
推測だが、作者の持つイメージのカオスが筆を引っ張って書かせたかたちだろう。テクニック的に未経験な部分が多い未熟さ故に重厚な「情の持つ本質的破綻」を描き出す結果となった作品と思われる。
この手の著作は、元来は連作第二作につながるだけの力量を伴わないことが多いが、実際、連作第二・第三は、プロットとしては小綺麗だが、テーマの扱いは第一作の半分にも達しない浅薄なものに留まっている。つまり、わかりやすいが軽い...続きを読む -
どんどん緩い出来になる
第2作に続く駄作。
そもそも舞台は似ているようでありながら、時代設定に歴史的連続性がない。これはつまり、一作目執筆時に二作目以降の構想が全くなかったことを示している。
プロットにもキャラクターにも一作目に匹敵する深みが全くと言って良いほど見られないのは二作目と同じ、というより三作目は二作目にも増して陳腐になっている。登場人物の系譜も、作ごとにこじつけでしかなく、前作にまったく伏線がない。
それにも気づかずにシリーズとして書いたということは、作者に、そもそもシリーズ構想のセンスがないことを示している。少しでもあれば、シリーズ化は断念したはずだ。一作目と二作目以降との間には、石像と張りボテほど...続きを読む -
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途中で投げ出したな
ジャンルって自己申告なの? ドタバタはすごく楽しいのだけれど、キャラが勝手に動き出して、作家のほうがついていけなくなって、まだ続くはずだったプロットに収まりきれないと、放棄したまま、という感じ。これはこれで楽しいのだけどね。 習作の失敗作、というところかな。
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奇妙な粗雑感
相当雑駁ではあれ時代背景の設定と掌握は、小説としては悪くはない。
だが肝腎のホラーのほうが。雑というかこじつけというか、末尾部分のタネ明かしにつながる伏線の設定が乱雑すぎる。
そのために通奏低音としての猟奇の浮き上がりが弱い。 もともとは短編向けの着装だったものを、乱暴に膨らませすぎた結果だろうか。
登場人物を三分の二程度にして、場面も三割方削って、丁寧に書き込んでいけばホラーとしての仕上がりも良くなっただろうに。
出来の悪い大正昭和の極彩色浮世絵の覗きからくりを見せられただけに終わった気分。著者好みの「おどろおどろ」がたたみ掛けて来すぎて、却って味が単調になってる、という感じかな。...続きを読む -
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キャラクター設定が・・・
明るく元気な主人公(という設定だが、ストーリーに関する限り狂言回し)が落ち着きのない考えが足りない(から可愛いになるのか?)女の子、って、大卒の年齢だと無理がないかな。
全体に軽く仕上げようという趣向なんだろうけど、要するにキャラクター設定が未熟で、ストーリー構成におんぶしてる。ライトノベルだからそれほどの読解力は求めてない、という前提なら読者を見くびってるし。
わたしの場合は主人公の描き方が鬱陶しすぎて、所詮は先が読めるストーリーをどう描くのかを見る邪魔にしかならなかった。 -
ここまでバカだとウソくさすぎる
主人公の身の上は次巻であきらかになるのだろうけど。
いくら「能天気」なキャラに士酔うったって。6歳児並のバカに作ることないだろう。
そのバカぶりをしつこく書かなければおそらく1巻で済んだと思われるほど、ストーリー展開がトロい。
読者の知性を見くびりすぎじゃないいかと思うわ。 -
そろそろダラダラ
「ひとの成長」みたいなテーマを織り込もうとしているのだろうけれど、新規エピソードの導入とかみ合わせたから、どちらも深みが足りない。
それはなによりも、書き始めのときはそれがテーマでなかったせい。惰性で書くくらいならせいぜい3巻でやめれば良かった。当初の準備が足りないものに書き継ぎで踏み込むには、おそらくまだ実力が足りない。
最終巻をすぐ続けて読む気が失せた。続けて読めばおそらく嫌悪感のほうが強くなる。いつかヒマを持て余したときのために取っておくことにする。 -
雑
テーマは長編小説向けくらいに深いが、セクシュアリティが定番すぎて(埒外へのはみ出しそのものが定番過ぎる)、メンタリティの偏りが逆に通り一遍になってる。
造りすぎだが、それはひとえに、設定したテーマそのものの深さを理解しきれなかった作者の能力不足のせいだろう。 -
日本発『指輪物語』
どこまで意識しているかはわからないが(用語からすると無意識にはかなり下敷きになってる)、プロットも人物描写も独自。
指輪物語を意識した海外小説はこれまでにいくつも読んだが、独創性の点ではおそらく最上級。でありながら、読み進むうちに積もっていくイメージのトーンが極めて良く似ている。
トールキンがキリスト教的西欧の価値体系の浸透を避けられなかったのに対して、唯一神に規定される直線的価値体系に囚われない、より柔軟性のある価値宇宙をイメージさせる二巻以降の展開は、日本人作家でないとできないことかもしれない。
既刊分の価値宇宙の統一性には緊張感がある。先に全体構想があって書かれたものでないだけに、...続きを読む -
性格描写が稚拙すぎる
西欧のおとぎ話に素材を取ってそれをシンデレラの靴でつないでみせるプロットはよくできている。ただ人物の描き方にまだ立体感が足りない。辞典の項目解説のように描いてみせるだけで、それを現していることになっている会話文はまるで禅の公案。つまり所詮項目解説のような地の文での描写がないと説得力が無い。要するに会話で人物を描こうという試みは、原則として全部、失敗していると言って良い。
とりわけ主人公の、気の弱さというか自信のなさを、会話文はもとより独語パートでさえ、冒頭の吃音で描こうとする手法が全巻を通して同一であるために、これだけの巻数を重ねて描き出しているはず(というより、結果としては成功していないか...続きを読む