【感想・ネタバレ】パクス・ロマーナ──ローマ人の物語[電子版]VIのレビュー

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ローマによる平和

一部ご紹介します。
・防衛を目的とした戦略を最も効果的に現実化する手段として、常備軍の設立がある。
・効率性を追求するために、ローマは集権と分権を共存させた。
・統治と街道には共通点がある。①不断のメンテナンスが不可欠と考える認識力②認識するや直ちに修正するのを厭わない柔軟な行動力③それを可能にする経済力。①~③のどれか一つでも欠けたら機能しなくなる。
・健全な「国家」は健全な「家族」の保護と育成無しには成り立たない。
・妄執は悲劇しか生まない。あくまでも運命を自分の思い通りにしようとする態度は謙虚を忘れさせ、それゆえに神々から復讐されるからである。
・公正を期して作られるのが法律だが、そのあまりにも厳格な施行は不公正に繋がる。
・ある墓碑の碑文「健康で人を愛して生きよ。あなたが墓に入るまでの全ての日々を」
・兵役の義務と納税の義務は常に重なりあって展開する。
・いかなる事業も、それに参加する全員が、内容はそれぞれ違ったとしても、いずれも自分にとって利益になると納得しない限り成功できないし、その成功を永続させることもできない。
・平和はただでは得られない。金がかかる。だがかかるからといって、かかるままにまかせておくと、財政赤字に繋がる。現代なら、国債を売って補足することができる。それがない時代は、経費を安く押えられる「補助兵」のシステム化でしのいだ。
・年少(17歳以下)の子供には、絶対に兵役に就かせてはならない。いかに国家存亡の危機にさらされようと、将来の国家を背負う世代には、必要な教育を受けるに充分な期間は保証されねばならない。
・盛者必衰は歴史の理(ことわり )。われわれにできるのは、戦争や滅亡の危機を「先延ばし」することだけだ。

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2022年09月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

アクティウムの海戦にてアントニウス・クレオパトラの連合軍を打倒したアウグストゥスに権力が集中する一方、アウグストゥスは危機管理を忘れなかった。内乱期に獲得した特権を放棄し、共和政に帰す事を突如元老院議員の前で宣言したのである。特筆すべき特権は課税権を伴った「イタリア宣誓」であり、これは対アントニウス戦のために国家ローマのためにアウグストゥスを総司令官と定めた特別法であったからだった。
チグリス・ユーフラテス川の両川を拠点とするパルティアの問題はオリエントの防衛にとって長らく無視できない重要な課題であった。初めて正面からぶつかったクラッススは無残な敗北を喫し、オクタヴィアヌスとの権力争いの中で自身のプレゼンス向上を図りたかったアントニウスも失敗ではないものの軍勢を削られる芳しくない結果に終わっている(どちらにも共通するのは自身の政治的な劣勢を覆す起死回生の一手としてパルティア遠征を活用している点が面白い)。パルティア問題は放置すればするだけ、東方の安定に影を落とすためカエサルであればアントニウスを打倒した直後にパルティア問題に着手していたであろうが、アウグストゥスはそうしなかった。3度目の失敗は取り返しのつかない事態に繋がることから、自身に軍才がないこと、右腕アグリッパも天才的司令官ではないことから軍事力での解決は絶対的な一手に欠けるというのが理由だと考えられる。着手は絶対権力者となってから10年後にパルティアの内紛(王の老齢化に伴い、王弟が政権簒奪を狙うが失敗する)に乗じてであった。この時、アルメニアは親パルティアの国であったが、アウグストゥスは義子ティベリウスに進軍させ、アルメニアの親ローマ化に成功する。パルティアは友国アルメニアの親ローマ化を受け自国の政情不安も重なってローマとの講和を結ぶこととなった。こうしてアウグストゥスは長年の問題であったパルティア問題を兵の損失なく解決したのであった。
特有の事情からアウグストゥスの私有地としていたエジプトであるが、アウグストゥスは灌漑工事に着手すると共に土地の私有化を推し進める。自作農でないと生産性の向上にインセンティブが働かないからである。灌漑工事は成功するものの、古来より小作農が一般的であったエジプトで私有化は上手く進まず一部のみに留まったが、生産性は飛躍的に向上した。
西方・東方の安定化にひと段落をつけたアウグストゥスはいよいよ、本国ローマの統治体制の改革に着手する。とはいえ、スッラ/カエサルの二の舞にならないようにであった。スッラは純血主義ともいえる形で元老院強化を推し進め、カエサルは統治体制の開国を図り反対派に暗殺された。アウグストゥスが着手したのは、ローマ市民権所有者全体の強化でった。統治改革の前提には、ローマ市民権所有者の質と量があると考えたからであった。内乱終結後のローマでは少子化が進んでおり、アウグストゥスは少子化対策として2つの法案(ユリウス二法:ザックリ独身だと税制面で不利になったり、不倫を公の罪にしたり、といった法案)を提出した。子供が産まれる産まれないは個人の特性にも依るため、子に恵まれなかったとしても税制面の不利が緩和された法案に修正され成立している。軍制改革にも着手した。パルティア問題が解決したことにより、ローマ軍の方針は「防衛」に限定された。パルティア以外の国境を接する国はどれも蛮族であり戦利品など期待できないからである。スッラ、ポンペイウス、カエサルのようにカリスマ性による軍の統制ではなく、システムにより統制されることが重要と考えた。常備軍の設立や、報酬の増額、退職金制度の設立、常備軍への兵役の年限など、数々の改革を行った。改革の中に、属州国民で構成される「補助兵」の正規兵化があり、除隊後はローマ市民権を付与するものであった。これは、防衛費の削減や自国は自分で守るという意識づけにも役立った(属州税だけ払えば防衛はローマがやってくれる、という意識は人間を堕落させるというのが古代の考えでもあった)。加えて、属州内での下層階級への失業対策や、「軍団兵(ローマ市民で構成)」と肩を並べて働くことによる文明化にも繋がった。

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2023年06月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

カエサルの後継者として選ばれたオクタヴィアヌス。

著者の宣言通り、華々しい戦闘シーンや痛快な戦術を駆使した勝利、という話はまったくなかったが、彼の政治センスはなかなかおもしろいものであった。

カエサルが見込んだのことはあるセンスにより、元老院議員の心を誘導しつつ、帝政ローマ建国へ向かう様子は、カエサルとはまた違った魅力を感じるところである。

あまりにも厳格な法の制定、特に「ユリウス姦通罪・婚外交渉罪法ユリウス正式婚姻法」には、疑問であったが・・・

現在の少子化対策において、このような法を制定したら、今の日本はどうなるであろうか? と考えてみたが、おそらく犯罪者だらけになってしまうであろう。

それにしても、彼の血統へのこだわりは異常ではなかろうか?

最後はなりふりかまわずといった感があったが、彼のイメージにはそぐわない行動に思えて、苦笑してしまった。

カエサルの後継者でありながら、彼独自の方法で(たとえば、処罰者名簿の作成など)進め、ローマ帝国を築きあげ、初代皇帝として名を残した功績は認めるが、やはりカエサルと比較すると見劣りしてしまうのは私だけだろうか?

カエサルと比較するほうが間違っているのか?

いずれにしても、最後のページで登場するエジプト・アレクサンドリアからの商船の船乗りの言葉、

「あなたのおかげです、われわれが生活が成り立つのも。 あなたのおかげです、私たちが安全に旅をできるのも。 あなたのおかげです、われわれが自由で平和に生きていけるのも」

が象徴するように、パクス・ロマーナは構築されたのは疑いようがないことであろう。

上に立つ者は、一般人から讃辞をささげられることこそが、政策の成功であるはずであるのだから・・・

共和制から帝政へ完全移行したローマ。

カエサルやアウグストゥスが望むようなローマになっていくのであろうか・・・

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2012年11月20日

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