【感想・ネタバレ】ユリウス・カエサル ルビコン以後──ローマ人の物語[電子版]Vのレビュー

あらすじ

ガリアを制圧したカエサルは、軍の即時解散と帰国を命ずる元老院の最終勧告を突きつけられ、国賊と呼ばれるのを覚悟でルビコン河を渡った。その勢いのままかつての盟友ポンペイウスを制し、イタリア半島、ついで地中海のほぼ全域を掌握。迫りくる暗殺を予知したかのように、新秩序樹立のためにあらゆることを為しとげたカエサル。彼のみた帝政という理想――、その真の姿を描き出す意欲作。 ※当電子版は単行本第V巻(新潮文庫第11、12、13巻)と同じ内容です。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

mac

ネタバレ 購入済み

内乱記

一部ご紹介します。
・防衛線を確立した内部での、国力の充実。秩序ある平和。それによる生活大国化の実現。生活大国とは、唱えさえすれば実現するというものではない。実現にはそれに適した諸制度の改革が先行されねばならない。
・平和とは、優劣なき国々相互の話し合いによるよりも、絶対的に優勢な国による調停とか裁定とか、止むを得ないとなれば、力で押さえつけるとかで成り立つ確率の方が高いのが、人間世界の現実だ。
・効率性とは、不測の事態も考慮に入れるからこそ、そのあくなき追求も意味を持つ。
・民主政とは、それが実施される領域の拡大につれて機能しがたくなる。寡頭政も、地理的な事情に無縁ではいられない。広大な領土の統治が機能的に成されるには、何よりもまず効率性が求められる。
・カエサル「どれほど悪い結果に終わったことでも、それが始められたそもそもの動機は善意によるものだ。」
・女とは、理によったのではなく、自分の女としての魅力によったと信じる方を好む人種なのである。
・優れた男は女の意のままにならず、意のままになるのは、その次に位置する男でしかない。
・ローマは、たとえ軍事上ではローマの覇権下に入っても、国内が安定していれば独立国として認め、同盟国の関係を続けつつも、相手国の内政には干渉しないことを、対外政治の基本方針にしていた。屬州化すれば、屬州税は入ってきても、総督を派遣しての内政と防衛の双方ともの責任が、ローマにかかってくるからである。同盟国ならば、相互安全保障を心するだけでよく、内政も自国防衛のための出費も、その国の負担になるからであった。

0
2022年09月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

カエサルの「3月15日」―人間を、歴史を動かした男の全貌。世界の運命を一身に凝縮させてルビコン川を渡ったカエサルは、たった五年間であらゆることをやり遂げた。地中海の東西南北、広大な地域を駆けめぐり、全ての戦いに勝ち、クレオパトラにも出会った。ついにはローマ国家改造の全改革をなし遂げて、元老院・共和政に幕を引く―。読みだしたらやめられない面白さ、迫真の筆致で描かれるコスモポリス(世界国家)を目指した男の物語。

0
2012年09月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

カエサルはついにルビコン川を渡り、ポンペイウス擁する元老院派との対決に臨む。決意を決めたカエサルとは対照的に、国賊認定をしてカエサルを追い込んだ元老院派はルビコン川を越えたカエサルの行動は予想できていなかった。冬季であったため、軍勢を整えるためにも春まで待つだろうと予想をしていたからであった。準備ができていないポンペイウス陣営は、早々にローマを捨て南伊ブリンディシに向かい、イタリアをも捨てギリシャへと渡る。ポンペイウスは地中海の海賊一掃作戦を通して地中海全域に渡り多数の「クリエンテス」を有しており、イタリア内での決着よりも地中海全域を盤面とした方が有利とみたからであった。カエサルは当然この展開を防ぐべくイタリア内での早期決着を望んでいたが、海軍を持たないカエサルは港を封鎖することができず、ブリンディシ包囲戦でポンペイウスをイタリア内に留めることはできなかった。
ポンペイウスをギリシャに逃した事で長期戦となった対決だったが、「東」での決着を万全とするには「西」のスペイン・「南」のアフリカを支配下におき、背後の憂いを断つ必要があった。カエサル自身はスペインに赴き、ポンペイウス配下の将を降伏に追い込んだものの、アフリカを任せた若き将クリオは任務を果たすことができずアフリカの地に散ることとなった。
南への憂いを残す形となったが、カエサルはポンペイウスを追いギリシャへの向かう。決戦の地をギリシャに移した後は、ドゥラキウム攻防戦、ファルサルスの会戦にて決着となり。ポンペイウスは逃亡を強いられる形になる。この時、ポンペイウスには2つの選択肢があった。①クリオを撃破したポンペイウス派の武将と合流し体制を立て直して再度カエサルとの対決に挑む。②エジプトのプトレマイオス朝への「貸し」を頼りに、一時の助力を乞う(プトレマイオス朝を共同統治している姉と弟の父親は過去にポンペイウスに助力を求め、ポンペイウスのお陰で王に返り咲きした過去がある)。ポンペイウスの取った選択は②であったが、これが判断ミスとなる。カエサルの覇権を予知したプトレマイオス朝は、ポンペイウスをだまし討ちしてしまう。エジプトに到着したカエサルはポンペイウスの変わり果てた姿を見て涙を流したと言われている。すぐにローマへ帰ると思われたカエサルだったが、意外に長期滞在をすることになる。弟(プトレマイオス13世)と姉(クレオパトラ)の権力闘争を収める必要性を感じたからであった。この時、有名な逸話として国外逃亡中の身にあったクレオパトラは洗濯籠に隠れてカエサルの居室に侵入し、カエサル目の前に突然現れてその美貌で魅了したというのがある。クレオパトラの鼻がもう少し低ければ歴史は変わっていた、みたいな、どうしようない話も残っている。(クレオパトラに魅了されたか否かはともかく)カエサルの下した裁定は、先王の遺言(弟と姉の共同統治)を守る、という事であった。プトレマイオス13世陣営からすればたまったものではない。カエサルへ反抗しアレクサンドリア戦役が始まる。戦力では劣ってたカエサル陣営は援軍が来るまで耐えるしかないが、援軍が合流した後は即決着となり、プトレマイオス13世は戦死。戦役後もカエサルは姉クレオパトラともう一人の弟プトレマイオス14世との共同統治を裁定するが、プトレマイオス14世はまだ幼いため、実質的にはクレオパトラ単独の王位となる。ポンペイウスの残党が残るアフリカへ赴いたカエサルは、タプソスの会戦にて勝利し、内乱を終えるのであった。
ローマでの凱旋式を終えたカエサルは、終身独裁官として様々な治世を行うも、カエサルの独裁を警戒した勢力により3月15日に暗殺されてしまう(著者によると、ヨーロッパでは3月15日はカエサルが暗殺された日として皆が認知しているとのこと、本当か?)。カエサル亡き後は、ローマ世界はアントニウスとアクタヴィアヌス(後の初代皇帝アウグストゥス)の覇権争いへとステージを変える。オクタヴィアヌスはカエサルの姉の子を母親にもっており、カエサルの遺言状にて後継者に指名されていた。暗殺者のメンバーには、カエサルの元幕僚も名を連ねており、カシウス、マルクス・ブルータス、デキウス・ブルータスが主要なメンバーと言える。デキウス・ブルータスはカエサル配下の軍団長であり、遺言状ではオクタヴィアヌスに相続できない場合の次点に名前を挙げらていたほど信頼されていた人物であった。「ブルータスお前もか」のブルータスは、一般的にはカエサルの愛人セルヴィーリアの息子であるマルクス・ブルータスとされているが、このデキウス・ブルータスの事を指す説もあるとのこと。暗殺直後は騒然となったローマも、次第に英雄カエサルの暗殺者達を恨むムードが醸成されていく。共和制主義者のキケロは暗殺者達を援護する事でローマが共和制に戻る機運を高めようとするが、既に時代はそれを許さなかった。カエサルの死後専横を誇っていたアントニウスを弾劾する演説(フィリッピケ)を行うも、民衆の支持は得られなかったようである。軍事力を得たオクタヴィアヌスは、元老院を脅して暗殺者達を国外追放とする法案を成立させ、北伊属州へと旅立つ(この時、キケロはオクタヴィアヌスがアントニウスを打倒してくれる事を期待していたらしいが、オクタヴィアヌスとアントニウスが組んで第二次三頭政治を表明した事で希望は打ち砕かれた)。三頭政治と言っても、その一角レピドゥスの存在感は薄く、実質的には二人のタッグであった。この二人はカエサルの「寛容(クレメンティア)」の精神は引き継がなかったようで、スッラばりの「処刑者名簿」を作成し、共和制主義者・ポンペイウス派の人物を皆殺しにしてしまう。
この後は、オクタヴィアヌスとアントニウスの権力闘争の色が濃くなるが、この時点は圧倒的にアントニウスが有利な状況だった。アントニウスはローマを二分し、「西」をオクタヴィアヌスに、裕福なオリエント文化圏を有する「東」を自身の担当とした。エジプト女王のクレオパトラを呼びつけカエサル・ポンペイウス対決の時に協力しなかった事を弾劾しようとしたアントニウスだが、豪華絢爛な登場を演出したクレオパトラに圧倒されると共に、クレオパトラに文字通り骨抜きにされてしまったアントニウスのこの後の運命は悲惨なものとなる。クレオパトラとの間に子供を設け、事あるごとにクレオパトラ寄りの判断を行うようになったアントニウスに対し、ローマの民衆は冷ややかな視線を送る。アントニウスとしては、カエサルも成し遂げられなかったパルティア遠征を成功させれば、カエサルの後継者であるオクタヴィアヌスの正当性も失われるだろうという戦略であった。ローマ防衛線構築のためのパルティア遠征なら兵もついてくるが、クレオパトラの野望に巻き込まれたアントニウスはパルティアの占拠を戦略とするも、これでは兵はついてこない。結局パルティア遠征は失敗に終わり、あまつさえ凱旋式をエジプトにて行うという暴挙に出た事でローマ市民の反感を買ってしまう。オクタヴィアヌスは巧みにプロパガンダを行い、アントニウスをそそのかしたクレオパトラという図式を喧伝し、あくまでもローマ対エジプトという図式の中で、打倒アントニウスに向けて軍を発するのであった(オクタヴィアヌス対アントニウスという図式とでは、兵の士気に差が出るからであった)。
オクタヴィアヌス対アントニウスの決戦は「アクティウム(ペロポネソス半島より北西の海域)の海戦」に委ねられる。アントニウス側は最初から海戦にて敗北した際はエジプトの陸戦にて決着を行うという戦略を決めていたがこれが裏目に出てしまう。海上に指揮を執っていたクレオパトラが激戦の地獄絵図に折しも吹いた北からの風に乗り早々に離脱してしまったのである。アントニウスもこれを追い南へ逃げるが、主力軍が湾に取り残されオクタヴィアヌス軍に囲まれて降伏してしまう。これを見たアントニウスは絶望することになる。
ローマ軍が迫る中、残る騎兵を先導し迎え撃とうするものの、味方騎兵の寝返りに遭う中、クレオパトラ自死の報をアントニウスは受け取る。これに絶望したアントニウスは自死を選ぶが即死はできなかった。そこにクレオパトラの自死は誤報であると告げる使者が到着し、アントニウスは自身をクレオパトラの元へ連れていくよう命じ、死後は愛する女クレオパトラの腕の中で死んだ。クレオパトラはローマへ連行される道すがら、忍ばせた毒蛇で自死したと言われている。ここに長きに亘った内乱が終結するこになり、オクタヴィアヌスによる「パクス・ロマーナ」の時代となるのであった。

0
2023年05月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

カエサルが暗殺された。

第四巻からここまで読んできて、カエサルに魅了されてしまった私には2000年以上も前のことながらなにか、悲しいものがあった。

元老院による寡頭制に疑問を呈し、人生をかけてローマ帝国を築き上げようとしたカエサル。

戦略的頭脳にも、政治的頭脳にも優れ、それでいて女好き。 魅力満点の男である。

また元老院に担がれた感じの「三頭政治」の一人、ポンペイウスも戦いに敗れ、戦術家としてはおもしろい人物である。

この二人の「ファルサルスの戦い」は、読んでいるだけで興奮してしまう。

才能ある二人だからこその歴史上に残る戦い方。
当時のローマ人の知性には頭が下がる。 今でいうインテリジェンス(情報)を十分に駆使した戦いは、まさにお手本ともいうべきものであった。

そんなカエサルの凱旋式でのシュプレヒコール 「市民たちよ、女房を隠せ。禿の女たらしのお出ましだ!」は傑作である。 ユーモアもあるローマ人にもまた魅力を感じる場面であった。


そんな彼の考えとは正反対のローマ人。共和制ローマを維持することこそ、ローマの本来の姿と疑わなかった人たちもまた、否定されるべきものではないであろう。

どちらが正しく、どちらが間違っているかの答えは出せないのではないか?

カエサルの考えたは、どの民族であろうが関係ないとしたところには、現代に生きる私も違和感がある。

それよりも日本古来のものを重視したい、と願うのは私だけではないであろう。

それと同じ考えだったかはわからないが、小カトーは最後に壮絶な自死を選ぶが、彼もまた、ローマを愛した男であったことは間違いない。

それに比べて・・・と言っては失礼だが、この書籍で登場するキケロは何とも優柔不断であった。

ローマ有数の知識人としてだれもが認め、その文体も素晴らしいものであったそうであるが、ひたすらグチを言う人物として私の頭の中に定着してしまった。
彼もまた、共和制ローマを愛した男であったが・・・


カエサル暗殺とはなんだったのか?
カエサルが殺されたことでは、共和制ローマは復活しなかった。

市民はそれを望まなかったからなのか。
それが今後のローマにとってよかったのか、あるいは・・・

カエサルに後継者として指名されたオクタヴィアヌス。
カエサル死後、オクタヴィアヌスはひたすら帝政ローマを樹立する道を選ぶが、そのやり方がカエサルとは正反対なのが印象的だ。

処罰者名簿の作成がその典型。 カエサルの後継者として恥じぬよう、必死だったのか? あるいは、ローマを自分のものにするための行動なのか?

カエサルに心奪われた私は、オクタヴィアヌスのやり方が少々、強引で、カエサルはこれで納得するのか?と疑問に思ってしまった。

まぁ、クレオパトラというエジプトの野心を持った女に心を奪われ、ローマ人としての誇りも捨ててしまったアントニウスを敵に回しての戦いは別として。

カエサルの副将として戦ったアントニウスの人生さえも狂わせたクレオパトラとはそこまでの美女だったということか。

クレオパトラ = 世界三大美女、しか印象のなかったが、このような形でローマとかかわりあい、悲しい最期を遂げているとは・・・

しかしこれで、いよいよオクタヴィアヌスの帝政ローマがはじまるわけである。

どんなローマになっていくのか。 カエサルの臨んだローマなのか。 期待とともに、不安の気持ちで次巻を読み始めることとなりそうだ。 

カエサルの有名な言葉

人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は見たいと欲する現実しか見ない

私の心に残るこの言葉で第五巻の書評を結ぶ。

0
2012年11月20日

「歴史・時代」ランキング